表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/49

第三十五話 デートwith僧侶

「まず私からですね」

「昨日のは冗談じゃなかったのか……」


 アマネとフローリアとの、三人での作戦会議の翌日。

 フローリアと俺は、アマネに言われて二人で遊びに出掛けていた。


 王都が久しぶりの俺と、初めてのフローリア。

 二人で王都の観光でもして来いという、アマネの取り計らいだろう。


 本来なら順番としてはアマネが先だった。

 「まず私ねッ」なんて意気揚々と宣言して、フローリアもその辺散歩してきますねー、なんて言ってたくらいだ。


 だが、さすがは"レーヴァニアの魔女"というか、なにか用事ができてしまったらしい。しょうがないから、俺とフローリアで先に回ろうか、という話になったのだ。


「……えっと、どうします?」

「そうだなぁ……」


 どうする、と言っても難しい。

 なにせ、この王都はなんでもある街だ。

 大抵の物は買えてしまうし、大抵なんて言葉では収まらない物も売っている。


「とりあえず、王都に来た目的の一つでも果たそうか」

「……あ、里帰り!」


 気づいたらしい、フローリアの言葉に頷いた。


「里帰りって言っても……まあ、里帰りしろと言われたら、会う相手はいるけど」

「はい?」

「別に、里帰り感はないんだよなぁ……」


 言いながら、ポリポリと頭をかいた。


「里帰り感がない、っていうのは?」

「俺、その人に育てられたわけじゃないんだ」


 スラムの奴らに多少の面倒は見てもらっていたが、物心ついた時から、俺は自分の力で生きてきた。

 その人はスラムの奴らとは別で、時々様子を見に来てくれてはいたが、基本的に金もない人だったから、自分のことは全部自力で済ませてきた。


 幼い頃から、見世物小屋に出たり、ゴミ拾いや石等級の冒険者としてクエストを受けて、一人で日銭を稼いで暮らしてきた。


 それこそ、本格的に誰かと生きたのは、冒険者としてパーティを組んでからだ。


「……大変、だったんですね……?」

「そんな大げさな事じゃない。……ま、とりあえず行くか」


 それに、この街では存外珍しいことではない。

 孤児院で育ててもらうこともできず、その辺の路地で息絶えている子供が少なくない街だ。


 俺の里帰りのために、俺たちは中央へと続く大通りに出た。


 フローリアは大通りから、この街の中心に聳え立つ高い建物を見上げて、口を開いた。


「来た時も思いましたけど……すごいですよね」

「ああ」


 来た時は空中回廊を通ったおかげで、そこまで先を見据える余裕はなかった。

 けれど、地に足をつけて、大通りを歩くとその偉容がわかる。


 今俺たちがいる下町とは隔絶した街。

 ──他者を拒む、聳え立つ白亜の壁で覆われた貴族街。


 そしてその中心から世界を睥睨する、レーヴァニア国王が貴族街から下町、そしてその先のこの国全て、或いは世界さえも見下せんとする王宮尖塔。


 それらは、この国で最も巨大で、最も独りよがりな建築物だ。


「感動するか?」

「……いえ」


 その巨大さに、人類が作り上げたという事実に、肯定的な意見は多い。

 だが、フローリアはそうではないらしい。


「いつか、滅びるものです」


 ──まるで、遠い未来でも見据えるかのように、フローリアはそう言った。


「宗教家みてえなこと言いやがって」

「僧侶ですけどっ!?」


 俺の皮肉に、フローリアが突っ込んだ。

 二人でクスクス笑いながら、俺は切り出すように言った。


「いつまでも上を見上げてると、スられちまう。歩こうぜ?」

「あ、待ってくださいっ」


 実際、大群衆のいる雑踏に、みんなが空中回廊や中心街を見上げてしまうから、ここはスリの多発地域でもあった。


「見てくださいっ」

「お、美味そうだな」


 フローリアは串焼きの露店を見つけると、そっちの方に駆けていった。


「お嬢さん買っていくかい! 銅貨一枚だ」

「お願いしますっ」


 フローリアは財布にしてる袋から銅貨を取り、露店の店主に差し出した。

 店主はそれを受け取ると、四本串焼きが乗ったパックをフローリアに渡した。


「一本サービスだ」

「いいんですかっ!? ありがとうございます!」


 フローリアが嬉しそうにそれを受け取り、俺たちは比較的人通りの少ない、通りの傍に移動した。


「ソロさんも半分食べますか?」

「ああ、ありがとうな」


 フローリアに渡されたそれを素直に受け取って、俺は左手で、串ごと肉に齧り付いた。

 フローリアもそれを真似して、パクりと口に入れた。かわいい。

 それにしても──串焼きで助かった。おかげで片手が動かなくても食べることができる。


「これっ! 美味しいですね!」

「美味いな」

「ちょっとピリピリ来ますけど、止まらないですっ」


 フローリアの言葉に、俺は頷いた。香辛料が効いている。俺が住んでいた頃にはなかった味だ。俺が王都を出て五年。この五年で、この街も大きく変わったということだろう。


 香辛料なんて、俺が王都にいた頃は庶民の手の届くものではなかった。それがいまや、こうして露店で誰もが楽しめるものになっている。……それは、とてもいいことだ。


 早々に食べ終わった俺とフローリアは、再び歩き始めた。



 途中で何度か寄り道しながらも、俺たちは裏路地に入り、幾つかの路地を抜け、ついに辿り着いた。


「えっと……ここですか?」

「ああ」


 言葉を選んではいるが、それでも不安そうに、フローリアは俺に尋ねた。

 フローリアの気持ちはよくわかる。俺も不安な気持ちになる。


 蔦で覆われた、石煉瓦造りの古い教会。

 教会とは見た目ばかりで、ここに住むシスターは別に俺や獣人を差別するようなこともない。

 人間性が人格者なのは間違いないのだ。


「……押さないんですか?」

「ああ、押すよ」


 なんか無駄に緊張してきた。

 世話された覚えはないが、それでも俺の様子を見には来てくれていた人だ。

 呼び鈴を鳴らせば、その人は来るだろう。

 けど……。


「押しますよ」

「あっ」


 結局フローリアに押されてしまった。

 中から、「はーい、ちょっと待ってくださいね」なんて声が聞こえてくる。

 一分も経たないうちに、その人はやってきた。


「お待たせしました」


 ギイ、と蝶番が音を立てて木製の扉が開くと、中から女性が現れた。


「あら……久しぶりですね」

「ええ。……お変わりないようで」


 詳しい年齢はわからないが、今は低くても四十代のはずだ。確かに少しだけシワが増え、それなりに年をとってはいる。けれど、それにしたって若く見えた。


「そちらは? ……まさか、結婚報告?」

「ち、違いますよ。パーティメンバーです」

「フローリアですっ」

「そう、残念。でも、会いにきてくれて嬉しいわ。中に入ってちょうだい」

「い、いえ。私は外で大丈夫です」


 シスターに促されるが、フローリアはそれを断った。あんまり外で話すのもよくないだろうと思ったが、教会の中から子供達がわらわらと飛び出してきた。


「マザー、お客さん?」

「ええ、中に入ってなさい」


 ギュッと、シスターの服の裾を握った子供に対してそう言うと、子供たちはぴゅーっと教会の中に入って行った。


「……確かに、中じゃ落ち着けないかも。なら、お庭でお話ししましょう」


 シスターに促され、俺たちは入り口前の庭園の席についた。庭園と言っても、あまり手入れはされていないが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ