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夏の城  作者: k_i
おじいちゃんの日記より
34/34

2006/09/30

「かつて世界は、物語――ファンタジーに満ちていた。

 

 ファンタジーは人の心を豊かにしたが、やがて世にあふれるほどになり、多くのまがいものも生まれた。幼い頃からそれらに浸されつづけた子どもらには、その世界から抜け出せなくなった者も多くあった。彼らは大人になり、みずからも新しい物語を作って、その世界で生きていこうとした。

 

 だが、新しい世界を作るといっても、これだけファンタジーのあふれすぎた世の中では、彼らの作りだした安易なファンタジーの世界には、もうだれも見向きもしない。ついに、彼らのファンタジー世界の住人は、ほかならぬその世界を作り出した作者だけになってしまった。そうしていくつもの小さな世界ができ、どの世界にも、住んでいる人は一人か多くても数十人。物語におぼれた作者は、だれも自分の世界からは出ようとしない。とうとう、いちばん最初にあった本当の世界のなかで生きる若者が少しずつ減ってくるようになってしまった。

 

 現実の世界はそれでもなお大きく、新しく乱立するひ弱なファンタジーの世界など、いくつたばねても、とうていおよばないほどの強大な力と知恵を持っていた。現実の世界の力ある者たちは、新しく生まれてくる子らに、不用意に物語が与えられないよう、少しずつ、古い物語から順に、隠していってしまった。そしてそのうち、だれも見向きもしないような、陳腐な物語の世界しか残らなくなったとき、勝負は決していたといってもいい。

 

 そして、戦争が起こったときにも、彼らは無力だった。このときも現実の世界に残っていた力ある者らで何とか乗りきることができた。(それでも世界はあのようになってしまった……)

 

 みずからの世界のみにこもりきっていたかつての若者らは、もとの現実の世界にもどり、生きにくさを感じながらも生きていくか、それとも、自分だけの世界のなかで夢を見ながら孤独に死んでいくしかなかった。

 

 かつてこの世界にあったもの――本、テレビ、ゲーム、パソコン、あらゆるものから、急速にファンタジーは消失していった。

 

 徹底的に管理された現実の世界のなかで、新しく生まれる子どもたちはみな、最初から物語というものに触れることなく育てられるようになった。ごく幼少のうちに才能を発見された少数の子らだけが、創作者として特別な訓練を受ける。物語は、限られた者だけのものとなる。

 

 ほとんどの子らは、将来つくべきふさわしい役割のためだけの教育を、初めから受ける。だれも、よけいな夢の世界をえがいたがために、その世界で生きていけず、つらい思いをする者はいなくなり、もとの世界は生きやすくなったように思える。

 

 だけどまた、何か、大切なものがうしなわれたと思えるのも、正直なところであり……私には、どちらが正しいのか、よくはわからないのである」

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