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イザーク・シュタイン視点

 私の婚約者は天然だ。鈍感だ。無防備だ。


 そのことが際立ってきたのは最近のことだ。


 去年、婚約者のサーシャ・アルノーが私の通っている学園に入学した。私は彼女より一つ年上で早く入学したので、彼女が学園生活を楽しめるように生徒会長になった。発言力がある生徒会長になるために、第一王子の側近の中でも一番になり、学年首位を保った。そのおかげか、いじめやどうでもいい校則を減らせた。前の校則だと婚約者でも校内では男女は話してはいけなかった。男は男、女は女同士でという考えに基づいたこの校則はサーシャとの楽しい学園生活を邪魔していた。このままでは作れる人脈が小さくなると訴えて変えさせたのだ。他にも、お世辞にも魅力的とは言えなかった制服を変えたりした。結果、まあまあな学園になったと思う。


 あぁ、サーシャについて説明しよう。サーシャはとても自己評価が低い、天然で鈍感で無防備な子爵家の一人娘だ。これだけだと非難しているようだが、そうではない。

 思いやりにあふれ、いるだけで人を癒す才能がある。どんな人にも優しく平等に接し、話術が巧みで笑顔が可愛い彼女は人脈が広い。おまけに彼女の容姿もかわいらしい。薄い茶色の豊かで綺麗な髪は絹のよう。陶器のように白くなめらかな肌。大きな緑色の優しい瞳に可愛らしい鼻、ぷっくりとした唇がそれぞれ絶妙に配置されている。腰や腕は細いというのに胸は本当に豊か。男の理想の体型をしている。何人もの男が彼女のことを狙っているのだが、渡さないぞ。

 彼女の実家は爵位が低く領地に特徴がこれと言ってない。しかし、彼女の父親がとてもやり手で、斬新な政策を打ち出しては領民の生活を必ずよくしている。また、海に面していることを生かして貿易業を始め、大盛況となっている。その商会が扱う各国の美容品や衣類、食品は今もこれからも貴婦人から庶民の女性の人気を集めるだろう。さらに、道や観光施設も整備され、旅先としても人気を集めている。前代まではパッとしない田舎だったのだが、最近は王都からの移住者が絶えないくらい人気なのだ。本当に子爵は素晴らしい。

 早く結婚して彼女をどろどろに甘やかして愛したい。子爵からその才腕を学びたい。何よりも彼女を独り占めしたい。早急に。


 そんな彼女が最近可愛らしいことばかりして私の理性を試してくる。

 下から覗きこまれたり、可愛らしく照れたり、嬉しそうに私の話を聞いてくれたり、頼ってくれたり。髪を耳にかけたり胸が当たったり………全部自覚無していないのだから最強だ。前まで子供だと思っていたから距離感が分からなくなる………サーシャ可愛い。

 それなことを考えてぼーっと歩いていたら、何かにぶつかってしまった。



「も、申し訳ありません……」


 サーシャか……サーシャとこんなところで会えるなんて、運命か?今日も可愛い。私に謝るサーシャが可愛い。



「サーシャ……一人でこんなに持って。どこまでだ?」


「っ!イザーク様……あっ、大丈夫です。私、一人でできますから」


「大丈夫じゃないだろう。ほら、どこまで?」


「職員室までです……ありがとうございます。」


 こうやって、一人で頑張ろうとするところも可愛い。でも、前が見えないほどのノートを持ってフラフラしていると危なっかしい。その細くて白い腕は私が守ると決めているから、力仕事はさせたくないな………そういう校則を作るか。


「イザーク様、この間のお茶会に出席できずに、申し訳ありません。イザーク様はお忙しいのに、せっかくのお時間を……本当にごめんなさい」


 あぁ、サーシャが気を使ってくれている。サーシャが一番だから私の時間なんて気にしなくていいのに。あの時はお腹が痛いと言っていたな。サーシャがツラいのに、一緒にいてやれなかった私なんて、ダメな婚約者だな………生徒会長か側近を辞めるべきか?


「気にしないで。体調は大丈夫ですか?」


「はい。わざわざお花まで、ありがとうございました。」


「いえいえ。花といえば、この学園の薔薇もそろそろ見頃ですね。今度、見に行きませんか?」


 とりあえず、サーシャと一緒にいたい。この間庭を見たらちょうど薔薇が咲きそうだった。サーシャと薔薇の組み合わせも可愛いだろう。そんなサーシャを独り占めしたい。


「もう、初夏ですものね……今度ぜひ。薔薇が見頃になる頃にはきっと、夏服に変わっているでしょうね。サイズを直さないと……」


 ?……サイズか?サーシャは去年から身長もウエストも変わっていないと思うが……


「サイズ……ですか? っ、すみません。女性にサイズを聞くなんて……」


 しまった。女性にサイズを聞くなんて、紳士ではない。それに、サーシャは三年前から一cmも伸びない身長を気にしている………どう取り繕う。


「いえ……その………先週着てみたら少し、胸がキツくて……」


 スルーしてくれたか……天使。って、まだ………大きくなっているのか?たしかに、大きくなっているか……って!ダメだ!思い出せ!去年の夏服のサーシャがどんなに危険だったのかを!またあんな危険な服を着せるのか?


 私が考えたこの学園の夏服は、冬服より少し生地が薄くなり水色と白を基調とした半袖のワンピースになる。胸下で切り替え、学年ごとの色のリボンをつけ、露出を控えるために多くの女性は手袋を付ける。その手袋は自由にしたので、婚約者から送られたものを使うことが毎年流行る。そして、胸をいささか強調し、自分のものだと言える夏服を着たサーシャは非常に理性を試してくる。


「イザーク様……あの……」


 いけない。トリップしていたようだ。


「はっ!すみません。少し疲れていたようです。夏服といえば手袋ですね。今年も手袋を送ってもよろしいですか?」


「イザーク様がよろしければ、お願いしたいです……」


「はい。今年もサーシャの手袋を選ぶことができて、光栄です……着きましたね。どうぞ」


「ありがとうございます」


「重くありませんでしたか?」


「大丈夫です。イザーク様が多く持ってくださいましたから」


 良かった。サーシャが持つというから三冊持たせたが、サーシャの腕で三冊も持てるか心配だった。明日筋肉痛にならなければ良いが……


「イザーク様、ありがとうございました。私も、何かイザーク様をお手伝いできたらよいのですが………そうです!何かイザーク様困ったことがありませんか?何でもいたします。」


「何でも……ですか?」


「はいっ!私にできることなら!」


 なんでも……だと?男になんでもすると言うことの危なさをサーシャは分かっていないな。サーシャになんでもすると言われて不埒なことを考えない男なんていないぞ。……平常心。平常心だ


「今は特にないようです。また、できたらお願いしますね」


「そう……ですよね。ごめんなさい、イザーク様。失礼します」


「えっ、サーシャ?」


 サーシャが急ぎ足で廊下を進んでいく。突然のことで少しフリーズしてしまったが、急いで追いかける。男女の一歩の差は大きい。すぐに追い付けるだろうが、どこに行ったか分からないな……サーシャの匂いを辿るか。それにしても、なぜ突然謝って出ていったのだろうか……悲しそうだったが……何かしてしまったか?もしかしてアレはサーシャからのお誘いだったのか?!………いや、違う。どう考えても絶対に違う。それは私の願望だろう。サーシャはもっと清楚だし、自分の言ったことの危なさを知らないからな。

 と、変なことを考えていたらサーシャの匂いから外れてしまった……なぜ肝心なときにこうなるんだ……もし今サーシャに悪い虫が寄っていたら……?大変だ。しょうがない。走ろう。走ればすぐ見つかるだろう。

 ……こっちからサーシャの声が聞こえる。中庭か!サーシャ以外の声も聞こえる。男だ。あぁ、やはり虫が寄っているのか……サーシャは渡さない。


 あまり男女が並んで座ることは良くありませんが、挨拶に立った私を座らせてくれたり、わざわざ慰めようとしてくれている彼は大丈夫ですよね。



「ねぇ……君さえよければ、そんな男なんてやめて、私に……」


「おいっ!人の婚約者に何をしているんだ!」


「っ!イザーク・シュタイン……何もしていないさ。レディー。いつかまた。」


 さっき、サーシャに言い寄っていなかったか?アイツは確か……

 三年のクルトン家長男、ウェスターか。顔は良いが、浮気者で有名なヤツだ。頭も悪いし、家柄と顔だけが取り柄の坊っちゃんにはサーシャは似合わない。しかも、隣に座っていたよな?さらに、抱かれていたよな!私でさえもまだ隣に座っていないのに!抱いていないのに!


「おい……サーシャ。どうして他の男に抱かれていた?」


「イザーク様……」


 っ!……サーシャの泣き顔……やばい。これは……やばい!誰だよ、泣かせたヤツ。半殺しにしてやるぞ?


「イザーク様が……そうやってよくお怒りになるからです!」


「……え?」


 私は怒っていない。断じて、サーシャに怒ったことなんて一度もない。


「そうやって顔を赤くして急に黙って怒っていられるのが……私といるといきだけで。イザーク様を怒らせてしまう私が情けなくて……相応しくないと思って………」


「……サーシャは私が怒っていると思っていたのか?」


 顔が赤くなって黙る……それは……悶えているからだ。サーシャが可愛いから、私を試してくるから、耐えているんだ。私が耐えられなかったらどうなると思っているんだ?今頃家に帰れていないぞ?


「そうです。だって、最近、どこかよそよそしい時もありましたし……」


「………サーシャ。私は怒っていないよ。むしろ………いや。ねぇ、サーシャ。私達は一度二人っきりで話し合わなければいけないと思うんだ。」


 あぁ、サーシャのことが大好きだとか、可愛いだとか、愛しているとか言わなかったのがいけないのかもしれない。言葉に表さなければ伝わらないのにな……私としたことが。一度二人っきりで、話し合わないとなぁ……?


「怒っていない……のですか?」


「うん。……そうだ。さっき、困ったことがあればなんでもすると言っていたね?ちょうど今、困ったことができたんだ。私の部屋に来てくれる?」


 部屋で、アイツに越された隣に座ると抱くを越えてやろうじゃないか。他の男がいかに危険なのか、サーシャの魅力も教えてやらないと。あと、サーシャの言動がいかに危険なのか。…それには……ベッドの上で話し合うのが一番だよな?


「はい!」


 嬉しそうにしてくれるっていうことは、良いってことだよな?

「じゃあ……」





 それから俺の部屋で行われたことはサーシャと俺をより強く結んでくれた。

 サーシャ可愛い。

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