レベルアップ
本日3話目です
オレはゴブリンらしき魔物から逃げ回っていた。途中でソフトボールより少し大きな石を拾った。
ここに来る前に拾った黒猫も、きちんとオレの後を付いてきているのを確認し、低い木に登った。猫は木登り得意でいいな。
ゴブリンの棍棒も届かない高さだし、太めの木だから登るには棍棒を持つのは無理だろう。
バラバラになるように逃げ回ったかいがあったようだ。まず1匹だけ追い付いた。
そのゴブリンは、キーキー騒ぎながら棍棒で木を叩く。
オレに届かないのを理解して、棍棒を捨てて登ってくる。
「来んな!」
怯える演技をすると、ゴブリンが悪そうな顔で笑っている。
両手に力を入れて自分の体を持ち上げようとするゴブリンに、思いきり石を叩き付けた。
「グギャァ!」
グシャっとした感触が手に伝わってきた。頭蓋骨が折れた感触もあったので、すぐに死ぬだろう。
ゴブリンは木から落ちていき、地面でぐったりしている。
「ギャギャ!?」
10秒くらいして次のゴブリンが来る。仲間が倒れているのを見て、驚いた感じで駆け寄った。
そのゴブリンに、騒いで注目させたら、ギャーギャー騒いだあと木に登ってきた。
さっきの要領で殴って落とすというのを繰り返していると、なぜだか4匹目で力が湧いてきた。
普通は疲れるはずなんだけど、石が軽く感じるな。ゲームみたいにレベルアップでもしたか?
最後の1匹には殴るところを見られてしまったので、警戒して登って来ない。
下でキーキーうるさい。このまま騒がれたら別のが寄って来るかもしれない。降りて戦おう。
ゴブリンは石を頭に叩き付けたら死ぬのは判っているし、十分に倒せる相手だ。
オレは持っていた石をゴブリンの顔面に投げ付けて牽制する。
腕でガードしたが、尻餅をついた。その隙に飛び降りて棍棒を拾う。
起き上がったゴブリンが、棍棒を手に近付いて来るので、気持ちを落ち着けて正眼に構えた。
剣道なんて授業で少し習っただけだ。少し緊張するな。
あの牙で噛まれたら病気になりそうだ。回復手段がないんだから、怪我は絶対にできない。
オレが慎重に戦おうと考えていたら、ゴブリンはオレが怯えてると勘違いしたのか、笠に着て攻撃してきた。
それほど速いわけではなく、振り下ろすゴブリンの攻撃を、棍棒を横にして両手で受け止め、前蹴りを放つ。
腹を狙ったのだが、ゴブリンが小さいので胸を蹴ってしまい、ゴブリンの胸骨が折れた感触が脚に伝わってきた。気持ち悪い。
石を通して伝わってくる感触と、直接伝わってくる感触はやっぱり違うな。
倒れてもがいているゴブリンに止めを刺してから、汗を拭う。思ったより緊張していたようだ。
とりあえず猫を回収して、この場所から離れよう。血の匂いで別の魔物が寄ってくる前に。
走っていると、ゴブリンと戦う前よりスピードが上がっていることに気付く。
やっぱりレベルアップしたんじゃないか? 敵を倒して強くなるのはゲームでは当たり前だし。
とりあえず近くの木に登って考えてみよう。自分の力を確認できるなら、勝てる敵か勝てない敵かを予想しやすい。
数値化されるなら、基準値ができるわけだし、ゴブリンのステータスだって予想ができる。
「メニュー画面とかが出るのか?」
「にゃ~」
この黒猫は動じないな。あんな生物に襲われたのに、ノンキに鳴いている。
メニュー画面とかはないらしい。なら、ステータス画面だけか? 道具とか収納できるとラクなんだけどな……残念だ。
「ステータス」
なんとなくではなく、ステータス画面を想像しながら呟いてみた。
レベル2 逢坂想太
HP 33 MP 52
筋力 14 体力 23
敏捷 15 器用 11
魔力 19 魔防 10
個人スキル 空想魔法
出たな。高いのか低いのか判らないけど。ゴブリンの攻撃を受け止めた感じだと、受けるのがそんなに苦しくはなかった。
せいぜいが2リットルのペットボトルを3つ持ったくらいの感じだった。あれなら1時間くらいは耐えられる。
数値はたぶんオレより少しだけ低いくらいだろう。
スピードはオレの半分以下のスピードだったし、数値は半分なのか、1ポイント違うだけでその差が付くのか判らない。
次のレベルアップで数値を見て考えるしかないな。
部活でも使ってるバックに、ストップウォッチが入ってるし、100mくらい走って調べるか。
オレの靴の大きさが24cmだし、厚みを考えたら25cmくらいだろう。
4個分で1mだし、これで測ってみれば100mでなくても、次の計測も同じ距離で計測できる。
個人スキルは気になるが、そっちは使い方も判らないし後回しでいいだろ。
距離を測ってストップウォッチで計測してみると、10秒08だった。
元々の記録は11秒15だったので、かなり速くなってる気がするな。
また木の上に避難して、とりあえず喉の渇きを潤そう。
コツとしては渇きを感じる前に少し飲むほうがいいと思う。
渇きを感じてからだと、ついつい飲みすぎてしまうかもしれないからな。気を付けよう。
とりあえずジュースは猫に飲ませると危なそうだ。
水があればよかったんだけど、お茶は大丈夫だったかな? たしかダメだったような。
自信がないからやめておこう。スポーツドリンクなら大丈夫か? 薄めたいけど水がないしな。
川でも探してからにするか。
オレだけ水分補給するのは気が引けるが、動きが鈍くなっては困る。
「悪いな。すぐに川を見付けて水を飲ませてやるからな」
黒猫に声を掛けたら、にゃあ、と嬉しそうに鳴いた。
「ごしじんさま。気にしにゃいでいいにゃあ」
「うおぉぉぉぉ! 猫が喋ったぁぁぁぁ!」
すぐに大声を出すことが危ないのに気付いて口を閉じた。
黒猫を抱っこして飛び降りると、念のために場所を移すことにした。
500mほど離れた場所で、オレは黒猫に向き直った。
かなり速く走ったので、そこそこ疲れた。
上限が1でも100でも、本人の全力を発揮したら10~20秒くらいで、誰でもバテる。
そこはレベルアップしても変わらないのは当たり前だ。
「はあ~。ちょっと息を整えるから、待っててくれ」
「わかったにゃ。ボクはちゅーじつにゃ」
猫ってそんなだっけ? どうでもいいか。個性だよな。あとオスだったんだな。
「それで、なんで喋れるのに黙ってたんだ?」
喋れるのはたぶんステータスにあった個人スキルのせいだろう。
この黒猫も魔法陣で呼ばれたんだし、オレみたいに何かの力を与えられてもおかしくない。
「変にゃ顔のおじさんに襲われてたから、びっくりさせると思ったにゃあ」
気を遣われてたのか……いい猫だ。あれは小さいオッサンではなくゴブリンだけどな。
「お前、名前はあるのか?」
「飼われてた頃はニャン五郎と呼ばれていたけど、その名は捨てたのにゃ」
捨てたのは捨て猫になったからか、たんに名前が気に入らないだけか聞いてみたいけど、たぶん両方だな。
「今度は捨てられにゃいように尽くすにゃ」
「別に尽くさなくても捨てたりしないから心配するな。お前にもステータスはあるだろうから、開いてみろ」
元ニャン五郎は、言われた通りにステータスを開いた。
レベル1 名無し
HP 3 MP 0
筋力 1 体力 30
敏捷 43 器用 15
魔力 0 魔防 4
個人スキル 人語 飛爪
飛爪ってなんだ? 名前からして遠距離攻撃っぽいが。
「なあ、これはなんだ?」
猫に聞いてもなぁ、と思いながらも指を差して聞いてみると、触ったら説明が出た。
「親切さんだにゃ~」
確かに親切だな。魔法の使い方を習わなくても使えるかもしれん。あとで自分のも確認しよう。
飛爪は普通に腕を振るよりも、10倍くらいの体力を消耗するらしいが、5mくらいの距離まで真空波を飛ばせるらしい。
威力や射程は使用者の強さによって変わるみたいだし、黒猫のレベルアップもしてみよう。
「便利な力だな。あと、名無しだから名前を考えたらどうだ?」
「それはごしじんさまが決めて欲しいにゃ。変にゃ名前じゃにゃい限り文句は言わないにゃ」
それはいい名前じゃなかったら言うんだな。
「じゃあ同じ猫科だし、獅子みたいに強くなるようにレオで」
「ありがとにゃ! 絶対に強くにゃって、ごしじんさまを助けるにゃ!」
オレの力によっては強くなる必要はないかもしれないけど、やる気になってるし黙っておくか。
想太のレベル1のステータスです。
レベル1 逢坂想太
HP 25 MP 36
筋力 10 体力 18
敏捷 12 器用 9
魔力 14 魔防 7
個人スキル 空想魔法