二十三話 妻の誕生日
気が付けば桜の花が散り、四月も終わりに近付いている。日本中がゴールデンウィークで盛り上がる中、青太の会社も大型連休に突入した。
今年のゴールデンウィークは、なんと九連休だ。
月曜から金曜まで一週間が丸々休みで、前後の土日と合わせて九日間も続く。
記念すべきゴールデンウィーク初日は、みどりの誕生日を祝う。
誕生日自体は数日前に迎えていたのだが、せっかくだから休日に一日使って祝いたかった。ゴールデンウィークになるまで待っていたのだ。
みどりは、妊娠十六週目。
ここまでになればつわりが収まり、安定期に入っているのでデートもしやすい。
朝から出かけてデートを楽しんだら、夜は家でささやかなパーティを開く。
今日のために注文したごちそうと、スパークリングワインで、誕生日を祝う。
スパークリングワインは、ノンアルコールの物だ。
安定期に入ったし、シャンパンの一杯くらい飲んでもいいのではないかと提案したが、みどりは頑として首を縦に振らなかった。
妊娠中の飲酒は、避けなければいけないが、一滴も飲んではいけないほど厳しくもない。いくつかの注意事項さえ守れば、シャンパンの一杯で胎児に悪影響を及ぼす可能性は低いとされる。
みどりも知ってはいるが、わずかな可能性も排除したいとのことで、妊娠中の飲酒は控えるつもりだそうだ。
みどりは酒好きというほどでもなく、記念日などに少したしなむ程度だった。
よって禁酒もできているが、酒好きの女性は大変だろうと思う。
とにかく、誕生日パーティであっても酒類は禁止。
みどりに付き合って、青太も飲まない。
アルコールはなくても、ごちそうがあるので不満はなかった。
デザートにはケーキもあり、お腹いっぱいになった。
食事が済めば、プレゼントの贈呈だ。
青太が用意したのは、約束していた化粧品と、花束。
花束は、情熱的な赤いバラを二十本ほどまとめてあり、ラッピングで大人っぽさを演出している。
さらにとどめとして、ネックレスまで購入した。
「こんなにたくさん、どうしたの?」
「最初は、化粧品と花束だけにするつもりだったんだ。だけど、どっちも形が残らないだろ。化粧品は使い切ればおしまいだし、花はいずれ枯れる。形に残る物もプレゼントしたかったんだ」
「青太にしてはロマンチックね」
「だって、今回の誕生日は、より特別な日じゃないか。夫婦二人で祝うのは、これが最後。来年は子供がいるからな。三十歳って節目の年齢でもあるし、新人賞への投稿で世話になったのもある。俺からの、感謝の気持ちだよ」
「ありがとう、嬉しいわ。けど、三十歳の節目は微妙ね。つまり、歳を取ったってことじゃない。ついに私も三十代かあ。これからは、二十代って言えないのよね」
青太が三十歳になった時は、それほど強い感情を抱かなかった覚えがある。
ぼんやりと、「三十歳か」と思った程度だ。
女性の気持ちは、また違うのかもしれない。
「これから、四十歳、五十歳って歳を重ねるんだ。気にするほどか?」
「どうしても気になるわよ。人によるだろうけど、私としては、もう若くないんだなって思っちゃう。結婚とか出産とか、二十代のうちに済ませた方がいいとも思うしね。あくまでも私の意見だから、他の人は違う考えかもしれないけど」
「結婚はしてるし、出産だってもうすぐじゃないか。予定日、十月半ばだろ?」
あと五ヶ月ちょっとすれば、子供が産まれる。
晩婚化が進んでいる昨今の日本では、三十歳過ぎでの出産も珍しくあるまい。
「それにしても、十月出産か。下手したら、ちょうど時期が被るよなあ」
何と被るかというと、サンダー小説大賞の入賞作の発表とだ。
青太の作品がそこまで残るとは思えないので、心配いらない気もする。
場合によっては、二重にめでたい事態となるかもしれない。
「そんな先のことを考えても仕方ないか。改めて、誕生日おめでとう、みどり」
「ありがとう」
スパークリングワインが注がれたグラスを、軽く打ち合わせて乾杯する。
食事の開始時に乾杯したのだが、もう一度してみた。
グラスが合わさり、キンッという澄んだ音が響く。
マナー的にどうかとも思うが、高級店でのディナーでもあるまいし、自宅で二人しかいないのだから気にする必要もないだろう。
スパークリングワインを飲み干したら、誕生日パーティも終了だ。
今日のみどりは大切なゲストなので、後片付けは全て青太が行う。
青太は、ついでとばかりに、みどりのお世話までしようとした。
具体的には、一緒に風呂に入って背中を流すとか。
あとは、お世話というか、お腹を触らせて欲しかった。
暇さえあれば、青太はみどりのお腹を触らせてもらっている。
ちょっと前までは、まるで変化が見られなかったみどりのお腹。
最近では、少し膨らんでいるのが分かる。
胎児の成長を目の当たりにすると、心が満たされるのだ。
恥ずかしがるみどりを押し切って、一緒に入浴する。
大事なお腹をタオルでゴシゴシこするのはためらわれたので、青太の手で直接洗った。
妻子を慈しむように、じっくり、たっぷり、ねっとりと。
ねっとりは言い過ぎたか。
エロい気持ちは、ちょっとしかなかったと追記しておく。
こうして、誕生日パーティの一日は過ぎていった。




