表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/30

二十三話 妻の誕生日

 気が付けば桜の花が散り、四月も終わりに近付いている。日本中がゴールデンウィークで盛り上がる中、青太(あおた)の会社も大型連休に突入した。

 今年のゴールデンウィークは、なんと九連休だ。

 月曜から金曜まで一週間が丸々休みで、前後の土日と合わせて九日間も続く。


 記念すべきゴールデンウィーク初日は、みどりの誕生日を祝う。

 誕生日自体は数日前に迎えていたのだが、せっかくだから休日に一日使って祝いたかった。ゴールデンウィークになるまで待っていたのだ。


 みどりは、妊娠十六週目。

 ここまでになればつわりが収まり、安定期に入っているのでデートもしやすい。

 朝から出かけてデートを楽しんだら、夜は家でささやかなパーティを開く。


 今日のために注文したごちそうと、スパークリングワインで、誕生日を祝う。

 スパークリングワインは、ノンアルコールの物だ。

 安定期に入ったし、シャンパンの一杯くらい飲んでもいいのではないかと提案したが、みどりは頑として首を縦に振らなかった。


 妊娠中の飲酒は、避けなければいけないが、一滴も飲んではいけないほど厳しくもない。いくつかの注意事項さえ守れば、シャンパンの一杯で胎児に悪影響を及ぼす可能性は低いとされる。


 みどりも知ってはいるが、わずかな可能性も排除したいとのことで、妊娠中の飲酒は控えるつもりだそうだ。

 みどりは酒好きというほどでもなく、記念日などに少したしなむ程度だった。

 よって禁酒もできているが、酒好きの女性は大変だろうと思う。


 とにかく、誕生日パーティであっても酒類は禁止。

 みどりに付き合って、青太も飲まない。

 アルコールはなくても、ごちそうがあるので不満はなかった。

 デザートにはケーキもあり、お腹いっぱいになった。


 食事が済めば、プレゼントの贈呈だ。

 青太が用意したのは、約束していた化粧品と、花束。

 花束は、情熱的な赤いバラを二十本ほどまとめてあり、ラッピングで大人っぽさを演出している。

 さらにとどめとして、ネックレスまで購入した。


「こんなにたくさん、どうしたの?」


「最初は、化粧品と花束だけにするつもりだったんだ。だけど、どっちも形が残らないだろ。化粧品は使い切ればおしまいだし、花はいずれ枯れる。形に残る物もプレゼントしたかったんだ」


「青太にしてはロマンチックね」


「だって、今回の誕生日は、より特別な日じゃないか。夫婦二人で祝うのは、これが最後。来年は子供がいるからな。三十歳って節目の年齢でもあるし、新人賞への投稿で世話になったのもある。俺からの、感謝の気持ちだよ」


「ありがとう、嬉しいわ。けど、三十歳の節目は微妙ね。つまり、歳を取ったってことじゃない。ついに私も三十代かあ。これからは、二十代って言えないのよね」


 青太が三十歳になった時は、それほど強い感情を抱かなかった覚えがある。

 ぼんやりと、「三十歳か」と思った程度だ。

 女性の気持ちは、また違うのかもしれない。


「これから、四十歳、五十歳って歳を重ねるんだ。気にするほどか?」


「どうしても気になるわよ。人によるだろうけど、私としては、もう若くないんだなって思っちゃう。結婚とか出産とか、二十代のうちに済ませた方がいいとも思うしね。あくまでも私の意見だから、他の人は違う考えかもしれないけど」


「結婚はしてるし、出産だってもうすぐじゃないか。予定日、十月半ばだろ?」


 あと五ヶ月ちょっとすれば、子供が産まれる。

 晩婚化が進んでいる昨今の日本では、三十歳過ぎでの出産も珍しくあるまい。


「それにしても、十月出産か。下手したら、ちょうど時期が被るよなあ」


 何と被るかというと、サンダー小説大賞の入賞作の発表とだ。

 青太の作品がそこまで残るとは思えないので、心配いらない気もする。

 場合によっては、二重にめでたい事態となるかもしれない。


「そんな先のことを考えても仕方ないか。改めて、誕生日おめでとう、みどり」

「ありがとう」


 スパークリングワインが注がれたグラスを、軽く打ち合わせて乾杯する。

 食事の開始時に乾杯したのだが、もう一度してみた。

 グラスが合わさり、キンッという澄んだ音が響く。

 マナー的にどうかとも思うが、高級店でのディナーでもあるまいし、自宅で二人しかいないのだから気にする必要もないだろう。


 スパークリングワインを飲み干したら、誕生日パーティも終了だ。

 今日のみどりは大切なゲストなので、後片付けは全て青太が行う。


 青太は、ついでとばかりに、みどりのお世話までしようとした。

 具体的には、一緒に風呂に入って背中を流すとか。

 あとは、お世話というか、お腹を触らせて欲しかった。

 暇さえあれば、青太はみどりのお腹を触らせてもらっている。


 ちょっと前までは、まるで変化が見られなかったみどりのお腹。

 最近では、少し膨らんでいるのが分かる。

 胎児の成長を目の当たりにすると、心が満たされるのだ。


 恥ずかしがるみどりを押し切って、一緒に入浴する。

 大事なお腹をタオルでゴシゴシこするのはためらわれたので、青太の手で直接洗った。


 妻子を慈しむように、じっくり、たっぷり、ねっとりと。

 ねっとりは言い過ぎたか。

 エロい気持ちは、ちょっとしかなかったと追記しておく。

 こうして、誕生日パーティの一日は過ぎていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ