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十四話 妻と映画を見よう

本日二話目です。

 翌日は快晴で、絶好のデート日和となった。

 みどりの体調は、よくはないが悪くもなく、安定しているようだ。

 デートもできそうということで、昼食を食べてから出かける。


 晴れているが、風はまだまだ冷たく、冬を感じさせる気温だ。

 寒い中を、青太(あおた)とみどりはぴったりとくっついて歩く。

 寒くてもくっついていれば温かいよね、と言いたげな振る舞い。


 もしも青太が、第三者としてこのような光景を見せられれば、「リア充爆発しろ!」と叫ぶに違いない。

 本当に叫ぶと恥ずかしいので、心の中で。


 ところで、実は二人は、普通に腕を組むのが難しかったりする。

 みどりの身長は百五十センチに満たない。百四十六、七だろう。

 一方の青太は、百八十センチ半ばほどもある。

 身長差が四十センチ近くあると、腕を組みにくいという事実を、青太はみどりと付き合うようになってから初めて知った。


 なんというか、みどりが青太の腕にぶら下がっている形に見えるのだ。

 組めなくはないが、見た目的に少々不格好になる。

 だったらどうするか。

 腕を組むのではなく、青太の腕にしがみつくようにしてくっつけばいい。


 二人がやけにくっついて見えるのは、やむを得ない事情があるからなのだ。

 と、誰に対してか分からない言い訳をしつつ、仲睦まじく移動する。

 電車に乗って、東京へ。


「気軽に上京できるって、凄いよな」

「急にどうしたの?」


 電車の中では、みどりを席に座らせて青太は立つ。

 休日でも、車内は結構人が多いので、みどりの気がまぎれるように会話をする。


「神奈川と東京は、隣接する都県だろ。だからって、ちょっと電車に乗って隣までって感覚はなかったからさ」


 ずっと首都圏で生まれ育っていれば何も思わないかもしれないが、青太は生まれも育ちも北陸地方のとある県だ。

 日本三名園の一つがあるところ、と言えば特定できるだろうか。

 一昔前なら、某有名メジャーリーガーであるゴジラさんの出身県でも通じたかもしれない。


 決して田舎ではないものの、首都圏とは比べ物にならない。

 特に鉄道網に関しては雲泥の差で、向こうでは遠出しようと思えば車が必須だ。

 遊ぶために、電車に乗ってちょっと隣県まで、という感覚はない。


「私はこれが当たり前になってるから、何も思わないわよ」

「へえへえ、俺は田舎者ですよ」

「誰も田舎者だなんて言ってないのに」


 仕事の都合で神奈川にきた青太と、ずっと神奈川で暮らしているみどりの差だ。

 なんだか負けた気持ちになってしまう。単なる田舎者のひがみだった。


 こうやって、他愛もない会話を途切れることなく繰り返す。

 青太の尽力があったおかげかどうかは不明だが、みどりは気分を悪くすることもなく、終始穏やかな笑みをたたえていた。

 派手さはないが、純朴な笑み。青太の好きなみどりの笑顔だ。


 電車を降りると、少し歩き、映画館へ。

 上映中の作品はいくつかあるが、ここは二人の趣味の間を取り、アクション映画にする。

 どこをどう間を取るとアクション映画になるのかは、二人にも理解できない。


 なにせ、青太は基本、アニメ映画くらいしか見ない。

 みどりはジャンルにこだわらずに見るが、恋愛ものを好んでいる。

 青太が見たがるアニメ映画も、みどりが見たがる恋愛作品も、上映されている。


 だが青太は恋愛ものが嫌いで、みどりは大人二人でアニメ映画は恥ずかしいと。

 両者の好みは合致せず、苦肉の策で別ジャンルを見ようというわけだ。


 みどりをもてなすのが目的のため、みどりの好きな映画を、とはしない。

 それをやってしまうと、青太は絶対に寝る自信がある。

 デートで映画を見ておきながら、ずっと寝ていました、では台無しだ。

 この後は、喫茶店でくつろぎながら映画の話で盛り上がる予定なので、二人が楽しめる作品でなければ意味がない。


 ゆえに、アクション映画。ゲームが原作の有名作品だ。

 が、映画館まできてしまってから、青太は己のミスに気付いた。

 妊婦が映画を、それもアクションなんてドキドキハラハラしそうなジャンルを見ても大丈夫だろうか。

 リラックスできる映画ならともかく、アクションはまずかもしれない。


「ごめん、配慮が足りなかった。見るやつ変えようか?」


「私なら平気よ。アクションはよく見るし、慣れてるから。多少驚くくらいなら、赤ちゃんにも影響ないはず。風邪をうつされるのは怖いけど、マスクをしておけばオッケー」


「そっか、風邪も心配なのか。妊娠中は薬を飲めないもんな。映画館内の臭いはどうだ? 食べ物を食べてる人も多いし、無理そうなら言ってくれよ。途中でも出るから」


「平気だって。そんなに気遣ってもらわなくても、子供じゃないんだし。そもそも、今日デートをしたいって言い出したのは私なんだから。無理なら家から出ないわよ」


 心配する青太をよそに、みどりは平気だと豪語していた。

 平気と言うのであれば、この映画を見ることにしよう。

 無理なら出ればいいのだし。


 まさか、アクション映画が原因で、流産するようなことはあるまい。

 それほど映画が危険なら、妊婦は見るなと禁止されているはずだ。

 映画館に入り、後ろの方の席に座る。出口が近い方がいいと判断したためだ。


 開始を待ち、しばらくすると上映が始まった。

 映画館が暗くなる瞬間は、心がワクワクするものがある。

 いよいよ始まるのだという期待感が膨れ上がり、一番楽しい瞬間かもしれない。


 青太はスクリーンに集中し、しばし時間を忘れて見入る。

 アクションシーンが秀逸だ。

 剣や槍での戦闘を見つつ、もし小説として書くならどうするか、などと考えてしまうのは癖のようなものだろうか。


 アクションはいいのだが、ストーリーの方は微妙かもしれない。

 この映画は、ゲームが原作のものだ。

 青太はゲームをプレイした経験があるので、ストーリーの大前提を知識として知っているが、何も知らない人が果たしてストーリーを追えているか。

 アクションというジャンルだけではなく、作品選びでも失敗したかもしれない。


 やっぱり、みどりの好きなジャンルにしておくべきだったかも。

 後悔しながら映画を見て、気が付けば二時間が経過していた。

 エンドロールが流れたところで、二人は席を立ち、外に出る。


 みどりの反応が気になって集中できなかった部分もあったが、青太としてはまあまあ満足できた。

 みどりはどうだろうか。楽しかったかどうか、聞くのが怖い。

 怖いことは後回しにして、喫茶店に移動する。

 初めて行く場所なので、スマートフォンで地図を確認しながら歩く。


 歩く時は、当然くっついた状態だ。

 二時間座りっぱなしだと、体がこわばった。外を歩くのが気持ちいい。

 健康体の青太でも、二時間座っているのは疲れてしまった。

 みどりは大丈夫か心配だ。


「みどり、座りっぱなしで平気だった? お腹が張ったりとかないか?」


「平気よ。青太って、意外と心配性? 私、愛されてるってことかな?」


「愛してるに決まってるだろ。みどりもお腹の子供も心配なんだよ。心配され過ぎて、かえって落ち着かないってなら、俺も控えるけど」


「……そんなにはっきり言われると、さすがに照れるかも。何? 今日の青太は、私を悶えさせたいの?」


「変な意図はなくて、純粋に心配なだけなんだよ」


「……ありがとう。こういうのも、いいわね」


 青太の腕を抱く力が強くなった。ほとんど青太に寄りかかるような状態だ。

 なんだかんだ言ってもラブラブな二人だった。


「っと、ここかな」


 歩いていた青太は、目的の店を見つけた。

 大通りから脇道に入り、人通りの少ない路地には、古ぼけた民家が立ち並ぶ。

 コンクリートではなく、木造の建物が多い。

 その一つに、目当ての喫茶店はあった。


 外観は周囲の家々と同じで、古民家といった様相を示している。

 看板が出ていなければ、店とは思わないかもしれない。

 窓越しに見える一階部分を覗き込むと、確かに喫茶店だが、逆に言えばそうでもしなければ看板があってさえ確証が持てないほどだ。

 さて、デート後編、開始だ。

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