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十二話 プロット完成

本日二話目です。

 みどりとデートをするのはいい。

 青太(あおた)がデートプランを考えるのも、まあいい。

 問題は、みどりの体調だ。


「デートはいいけど、今週末とかは無理だろ。つわりで辛いみたいだし。ある程度、みどりの体調がよくなってからデートしよう」


 今のみどりは、妊娠九週目くらいだ。

 つわりのピークは、平均して妊娠十週前後と言われているので、一番辛い時期。

 あと一、二週間は、この状態が続きそうなので、デートはその後だ。


 今は三月の上旬。デートをするのは、三月下旬がいいと思う。

 これなら、みどりの体調もよくなっているのでデートを楽しめ、かつ青太がデートプランを考える時間もあるという、両者にとってありがたい展開だ。


 青太はそう考えたのだが、みどりは首を横に振った。


「ヤだ。すぐにデートしたい」

「ヤだって、言い方が可愛いな、おい」


 一般的には、年齢を考えろと言われるであろうセリフ。

 四月の誕生日を迎えれば、三十歳になる女性の言葉としては、やや不適切だ。

 そこは、惚れた弱みと言うべきか。青太にとっては、大変可愛らしく思えた。

 もっとも、言うことを聞くかどうかは別問題だが。


「すぐって、つわりは? 俺はいつだっていいんだよ。プランを考える時間は欲しいけど、そんなのどうにでもなる。みどりの体調が心配なんだ」

「根性でなんとかする。今週末の土日は、両方とも休めそう? 休めるなら、どっちか私の調子のいい日にデートしましょう」


 突如持ち出された根性論に、青太は呆れてしまった。

 そこまでしなくても、と思ってしまう。

 みどりがなんとかすると言うのであれば、青太は従うだけだが、心配だ。


「じゃあ、デートできそうなら今週末な。で、確認しておきたいのは、『つわりのせいでこれだけは無理』ってものあるか? それは避けるようにプランを考えるから。みどり、臭いに敏感になってるって言ってただろ。電車のこもった臭いが無理とか、コーヒーの香りが無理とか、そういうのがあればあらかじめ教えて欲しい」


「電車は、通勤ラッシュ時の超満員電車でもなければ、割と平気。マスクもするから。コーヒーの匂いも平気。飲むのは避けたいけど。香辛料たっぷりの料理とかは、少し苦手。一番ダメなのは、前にも言ったと思うけど、お酒とたばこ。今の私には、居酒屋が天敵ね」


「言われなくても、デートで居酒屋なんて連れてかないけどさ。とりあえず、過度に気にしなきゃいけない点はない?」


「人ごみは、できれば避けたいかな。落ち着ける場所がいい」


「了解、お嬢様」


 青太は、おちゃらけた言い方をした。

 みどりは笑ってくれたので、機嫌が直りつつあるようだ。

 あとはデートを成功させればいい。それが大変なわけだが、なんとかなる。

 週末までにデートプランを考えておかないと。


「いつものことだけど、話がそれるわね。プロットの感想と指摘を言わないと」


「おお、そうだった。デートの話が本題じゃなくて、プロットが本題なんだっけ」


「青太のことなのに忘れないで。感想だけど、一番言いたかったことは言ったわ。キャラが多くて、名前のせいもあって分かりにくいから、減らしたらどうかって。他は、私じゃ指摘できそうなところはないわね」


 指摘がない。

 すなわち、合格点をもらえたと考えていいのだろうか。


「ご、合格?」


「最初に比べると、大幅に改善したと思うわよ。主人公の目的が明確になってるし、物語の盛り上がりもある。プロットにあるギャグも意外と笑えるから、青太のこと見直したわよ。やればできるじゃない。あとは、どうやって書いていくかだけど、これは文章力が問われるわよね。長く書いてきたんだし、大丈夫でしょ?」


「文章力が一番自信なかったりするんだよなあ、これが。新人賞に投稿すると、評価シートをもらえることがあるんだけど、文章力の評価はいつも低いんだよ。真ん中か、真ん中より少し下。五段階評価なら二、十段階評価なら四か五だな」


「十七年も書いてるのに?」


「文章力って、書かないと成長しないけど、単に書くだけで成長するってもんでもないぞ。自己流で適当に書いてて上達するものじゃない。よっぽどセンスとか才能とかあれば別だけど、俺みたいな凡人には無理だ。それなりに勉強しないと」


「勉強してないの?」


「してる。してても、真ん中より下にしかならないんだよ。センスないんだと思う。でも、最低限読める文章は書けてるし、ギリギリセーフ?」


「それでも、ある程度は成長しないとまずいんじゃない? 最高評価は無理でも、最高評価一歩手前くらいなら努力次第で到達できないの?」


「どうだろ。努力っつってもピンキリだろうし、なんとも言えない。俺に関してなら、努力はしたけど文章力はたいしたことない。あまり期待はしないでくれ」


「つくづく、青太はライトノベル作家に向いてないとしか思えないわね」


 みどりに呆れられてしまったが、文章力の上達とか、どうしろと言うのだ。

 上達できるなら上達したいし、やり方を教えて欲しい。


 青太に限らず、プロでもアマチュアでも、小説家であれば誰もが望むのではないだろうか。

 ラノベの場合は、平易な言葉で分かりやすく書ければ十分とも言われるが、文章力があって損はない。


 難しい文章も書けるが、あえて書かない。

 文章力がなくて、難しい文章を書けない。


 これは、意味が全然違う。

 青太は後者だ。長く書き続けているのに、だ。

 自分の文章力のなさは自覚している。

 一文で読者をうならせるようなものは、逆立ちしたって書けっこない。


 だからこそ、みどりが必要だ。

 みどりが、読みやすい、分かりやすい、と思える文章が基準になる。


「実は、みどりには文章もチェックしてもらいたくてさ。読みやすいか、読みにくいか。意味が分かりやすいか、分かりにくいか。意見を聞かせてもらいたいんだ」


「ええぇ……私だって、うまい文章なんて書けないから、指摘できるかどうか。昔、夏休みの宿題の読書感想文とか、大嫌いだったのよ」


「あれね。俺も嫌いだった。四百字詰め原稿用紙三枚だっけ? 千文字程度を書くのに、何日もかかった。十万文字も書かなきゃいけないラノベの長編小説に比べれば百分の一だけど、当時はめちゃくちゃ多いように感じてたなあ。嫌いだから後回しにして、夏休みが終わる直前になって慌てるとか、毎年同じ失敗してた」


「……うん。やっぱり、青太はライトノベル作家に向いてないわ」


 若者の気持ちが分からなくなり、十代の主人公を書くのが辛い。

 恋愛シーンを見るのも書くのも大の苦手。

 文章力に自信がない。読書感想文も嫌いだった。


 よくもまあ、これでラノベ作家になろうと思ったものだ。

 自分のことながら、無謀と言うほかない。

 新人賞の締め切りまで一ヶ月となったこの日。プロットは完成したものの、別の意味で不安になってしまった。

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