十話 妻は貧乳がトラウマ?
本日二話目です。
みどりにプロットをチェックしてもらい、さっそく修正を。
「あ、ちょっと待って。聞きたいことがあるの」
青太は作業に入ろうとしたが、みどりから待ったがかかった。
「あのさ、四分校殿鳥居ってキャラいるでしょ。このキャラのモデルって、もしかして私?」
「いや、違うけど……言われてみれば、みどりとの共通点もあるかな。けど、そんなに似せたつもりはないぞ」
四分校殿鳥居は、小柄で童顔な美少女だ。
可愛いのだが、小動物に対する「可愛い」に近いところがある。
クラスではマスコット的な扱いをされているし、樹梨にまで同じような扱いをされてしまう。
樹梨は、深世流に対しては女性を感じてドキリとする場面があるのに、深世流と同級生である鳥居に対してはない。
まるで、父親になって小さな娘を見守るかのように、温かい目をしている。
鳥居本人は、それが不満だ。高校生にもなって子供っぽいことを気にしている。
大人びた女性になりたいと考え、深世流に「どうしたら背や胸が大きくなるのか?」と聞くシーンもある。
深世流は身長が高く、メリハリの利いた体つきをしているので、鳥居は憧れているのだ。
「小柄で童顔っていう点は、みどりと同じだな。でも、それだけだろ。性格なんかは全然違う。鳥居は、大人しくて引っ込み思案な性格だぞ。みどりみたいな、物怖じしない性格じゃない」
「うーん……四分校殿鳥居単体で見れば、そうなんだけどさ。私が気にしてるのはね、四分校殿鳥居だけじゃなくて、清宮寺深世流とセットになると、私と私の友達によく似てるなってことなの。四分校殿鳥居は私で、清宮寺深世流は、私の友達のカナちゃんに似てるのよ」
「カナちゃんって名前、みどりから聞いたことあるな。みどりの一番仲のいい友達だっけ? 俺たちの結婚式にもきてくれたよな?」
「うん。カナちゃんは、背が高くてスタイルもよくて、しかも美人で。まるで清宮寺深世流みたいなのよね。清宮寺深世流と、親友の四分校殿鳥居。カナちゃんと、親友の私。こう見比べれば、よく似てるのよ。ただの偶然で、青太にその気はないんだろうけど、私たちをモデルにしたように見えるのがちょっと気になって」
「でも、今さらキャラを変えるのもなあ。ヒロインの深世流は言わずもがなだけど、鳥居も脇役にしては重要な立ち位置にいるキャラだし」
「変えなくてもいいのよ。でも、お願いだから、私をモデルにしたエピソードとかを入れるのはやめて。プロットにも気になるのがあったし」
「例えば?」
偶然似通ってしまったとならないように、みどりが書いて欲しくないエピソードを聞いておこうと思った。プロットで気になった部分というのも知りたい。
みどりは、何やら思案しているようだった。
「青太には話したことあったっけ? 私、小学生の頃は、クラスの女子の中でも一、二を争うくらいに背が高かったって」
「マジで? 初耳なんだけど。今のみどりは、こんなにちっちゃいのに?」
「昔は大きかったのよ。身長は高かったし、全体的に成長が早かった。生理が始まるのも、胸が膨らみ始めてブラをつけるようになったのもね」
「信じられない。それが、どうしてこんなことに?」
今のみどりは、身長は低いし胸も小さいという、悲しい事態になっている。
青太はみどりが好きだが、一般的に女らしいとは言えない体型だ。
「成長期ってあるじゃない? 中高生になると、みんな成長するでしょ? 私はさっぱりだったの。小学生の頃から、身長も胸も、ほとんど成長しなかった。青太に分かる? ずっと私よりも小さかった子が、いつの間にか大きくなってて、『あれえ? みどりってこんなに小さかったっけ?』とか言われながら頭をポンポンされた時の、私の気持ちが! 屈辱が!」
「……ドンマイ!」
そのくらいしか、かける言葉がなかった。
小説を書いているからといって、こういう場面で気の利いたセリフが都合よく出てきたりはしないものだ。
「カナちゃんなんか、身長は伸びるし胸も成長するし、挙句顔までアイドル級に綺麗になっちゃってさ。親友に置いて行かれたみたいな気分になって、惨めなんだから! しかも! 高校生の頃とか、よく一緒に遊びに行ったんだけど、カナちゃんのせいでしょちゅうナンパされるの! ナンパ男がうざいったらない! しかもしかも! カナちゃんは照れ屋で、ナンパを断るのが苦手だから、男を追い払うのはいつも私の役目! そしたら、『お前にゃ声かけてねえよ』的な目で見られるの! 『何こいつ? 自分が声かけてもらってるって勘違いしてる? プッ、ゲラゲラ』ってせせら笑われるの! その私の気持ちが! 青太に! 分かる!?」
みどりのトラウマを刺激してしまったようで、声を荒らげて訴えられた。
若干、被害妄想が入っている気もするが、青太が言ったところで耳を貸すまい。
お腹の子供によくなさそうなので、落ち着いて欲しいのだが、そっとしておくより他に方法はない。
しばらく待つと、みどりは荒い息を吐きながら、呼吸を整えていた。
呼吸は整っても、みどりの気は晴れなかったようで、話は続く。
「プロットにあったわよね。清宮寺深世流が、四分校殿鳥居に対して『可愛いなあ』とか言いながら、頭をポンポンするシーン。でもって、四分校殿鳥居は顔を赤くして照れて、百合百合しい雰囲気になるって展開だったけど、私の経験上あり得ないから。悔しいだけだからね。あのシーンは、お願いだから削除して」
「わ、分かった。考えておく」
「考えておくぅ?」
「間違えた。削除する。させていただきます、はい」
みどりの迫力に押されて、青太は了承した。
不本意ながら、せっかく書こうとしていたシーンを削らねばならない。
本音を言うなら、みどりが話してくれたエピソードは面白かったので、書こうとしていたシーンに組み込んで使わせてもらいたいほどだ。
貴重なネタを破棄するのは無念だが、やむを得ない。
大切な妻にしてアドバイザーでもある、みどり様のご意向だ。
立場の弱い青太としては、承諾するしかなかった。
へたれと言うなかれ。誰だって、我が身は可愛いのだ。
こうして、予想外の修正点もありはしたが、青太はプロットを直しにかかる。
目標は、今日を含めて五日、いや三日だ。
スケジュールがかなり押しているので、ゆっくり直している余裕はない。
三日で直して、みどりに確認してもらい、それから本編の執筆に移ろうと考えていた。




