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君という一握の光を見失って途方にくれる僕  作者: 新藤 愛巳
第七章 動き出す世界 小磯良
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旅の終わり

「リドルは寂しい人間を憑りつく怪物だ。翼を持った猫の姿をした化け物だ。リドルたちは人を食うことによって心の空腹を埋める。彼らはそれを崇めて奉る。そんな存在らしい。ガルシアはそう言った。僕はそれに賛同できない」


「俺もだな」


 リドル騒ぎも収まり、それぞれが駅で別れた。司法さんは北海道に行くことを決めた。広大な大地で大好きな馬の世話をするそうだ。波旗さんは一生毒姫でも構わないと呟いた。

 彼女がその道を選ぶなら僕は応援したい。そしていつか立派な研究者になって欲しい。

 アリスは講演の為、大人達に連れられて泣きながら去っていった。血文字で書いた連絡先を渡された僕は途方に暮れた。当然、行方不明にはならないと誓約書も書かされた。

相変わらず過激だ……。

 五反田さんは僕の掌に口づけて笑っていた。僕らを殺そうとした元女優は警察の御用になった。追々、警察からリドルの事もわかるだろう。


「よお」


 鬼野は僕の隣で真面目な顔をしていた。


「良かった。お前ともっと話がしたくてよ。五反田に聞きたいことが山ほどあったんだろう?」


「恨みが深くて、そうもいかなかったよ。僕は『幸運』なのに。殺意なんて抱けるわけがないだろう」


 鬼野はにやりと笑った。


「そうじゃねえだろう。お前は結局、あの列車に乗った連中を守っただけだろ? お前って奴は本当にクソだな。長年捜してきた相手だったんだろうによ。千載一遇のチャンスを逃しちまったんだぞ。聞きたい事も聞きそこなって、本当に馬鹿だな。確かにこういうことは警察の方が向いているが、あいつ、何の罪になるのかな。仲間の自殺を止めなかった罪? 自殺幇助か。わかんねえ。なあ、お人好しさんよ」


「鬼野、僕はそんなにいい奴じゃないよ」


 満足半分、悩みが半分だ。鬼野は僕の行く手を塞いだ。


「おいおい。俺はお前の占いのホームページを見たことがある。お前はもっと公明正大な奴だろう? 司法に送ったセリフはお前のブログに書いてあることを少し改造したもんだぜ。もっと胸を張れよ。あれはお前の言葉だったんだ。あいつを説得した言葉はお前の言葉だったんだぜ」


 悪霊に慰められた。悪霊と妖精なんて随分、微妙な組み合わせだ。


「僕のホームページなんていつ見たんだ?」


「女の子は占いが好きなもんだ。特に若い女はな」


 あれ?


「君は若い女の子なのか?」


「十万とんで十一万歳だ」


「どこが若い。嘘をつけ」


「本当は十歳だぜ!?」


「そんなわけがないだろう」


「ご想像にお任せするよ。なんせ、俺は、来夢に取りついているんだからな。占うにしても俺が生まれた年からか、とり憑いてからの年からか、わかんねえだろ?」


「それもそうか……」


「まあ、これからもよろしく頼むぜ。お前といると、リドルが向こうからやってくるみたいだしな。それから……あれれ、眠いな」


 鬼野はそう言うとどさりと倒れた。


「おい、鬼野?」


 僕はだらりとした鬼野を支えようとして……。


「なにするんですか……?」


 響鬼野さんは僕に全体重をかけていた。ああ、何だか柔らかい。


「小磯くん、逮捕します。警察を呼びます! なんですかこの服は! 勝手に着替えさせたんですか。きゃあああぁぁ」


「いやあ、ちょっと待って、これには深いわけが!」


 訳を言う暇もなく、僕は警察に連れて行かれたわけだが。最悪だ。最悪の結末だ。

 話を聞け、観察者!

 君の目は節穴だ……。


「散々だ」


 バンド仲間との待ち合わせ場所に辿り着いて、僕は目を見張った。

 そこには響鬼野さんが拗ねた顔で立っていた。

 どうして……ここが?


「あなたのおかげで胸が柔らかくなった気がします」


「なにを言う、この冤罪女が! 僕が触ったのは腰だ!」


 僕らは睨みあった。先に折れたのは響鬼野さんだった。


「誤解があったようですね……盗聴器を仕掛けていたアリスちゃんに聞きました。私の気分が悪くなって、倒れた所を助けてくれたそうですね。でも、貴方の趣味の着替えはやめて欲しかったです! よりによって探偵ルックに着替えさせるなんてなんて趣味ですか」


「誰がそんな事を?」


「アリスちゃんです」


 最悪だ、アリス。お前、僕へのあてつけか!?


「おお、アリスよ、この兄を売るとは嘆かわしい! この僕の魅力が尽きてしまったとでもいうのか!」


「聞きましたよ。何年も放っておくからです!」


 響鬼野さんは駆け足して僕の隣に並んだ。


「間違って、警察送りにしたお詫びに、捜していたボーカルをやります……」


「それで?」


「ごめんなさい……!」


「わかればいい!」


 くくく。


「さて、どんな恥ずかしい歌詞にしよう」


「そんな事をしたら監禁します。監禁して、言葉責めにします」


「僕はその内容も歌詞にするだろう! 永遠にリサイクルして恥ずかしいぞ! 全国にお前の恥を知らしめてやるぞ!」


「先輩、予想以上に酷い人です!」


「君がな……!」


「ぜ、全景一キロ以内に近寄らないでください。あなたとはネットでお話しします」


「ライブハウスでの活動はどうするんだ!?」


「その時はその時です」


「誰かといることはもう平気なのか?」


「私も決意しました。小磯先輩。占い師という素性を週刊誌にばらされたくなければ……私の命令を聞いてください!」


そうは行くものか。


「どんな? どうせ、死ぬなとか、病気するなとか、いつでも丈夫でいろとかそんなものを言うつもりなんだろう?」


「なんでわかってしまったんですか!?」 


「しかたない。これから君を守るかな?」


「なぜですか?」


「良い胸してるから」


「先輩は変人です! こうなったらあなたの手を握ります」


 その手は柔らかい優しい手だった。


「本当に死なないんですか? 小磯先輩。傍に居ても平気ですか? 身体調子は平気ですか? ピンチの時はこのナースコールで……! 私、必ず駆けつけますから!」


「それは救急車の番号だ!」


思わず溜息を吐いた。


「不死身じゃないけど、僕は頑丈だから安心して良いよ」


 響鬼野さんは春風のような満面の笑みを僕に見せてくれた。

 決めた。和風ロックで滅茶苦茶な歌詞をプロデュースしよう。

 響鬼野美春。僕の片思い。僕の唯一の友達。

 お金持ちの家から参上にさらわれてきた少女。

 響鬼野来夢はその妹。

 美春が攫われる前に暮らしていた家の家族。本当の家族。

 桜の舞う中で、絶望した僕は再び歩くことにしよう。

 美春。君のことは忘れない。でも、今は……この道を歩くんだ。

 君の妹を守る。約束だ。

 いつの間にか夜闇は晴れて、蜃気楼の向こう側、美春の幻が笑っている気がした。

皆さん読んでくださってありがとうございました。

あなたに感謝です。

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