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君という一握の光を見失って途方にくれる僕  作者: 新藤 愛巳
第七章 動き出す世界 小磯良
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トンネルの向こう

「お前、死人……? なのか? 小磯?」


 アリスは首を振った。


「いいえ。お兄ちゃんは妖精『幸運』よ」


 鬼野は首を振る。


「違う! それは金持ちの家から連れて来られた人間の子供のことで……」


「何言ってんのよ! 金持ちの家から連れて来られた子供は女の子。名前は美春。お兄ちゃんは、昔から田舎に住んでいた、本物の幸運なのよ!! 参上の家に連れてこられた幸運」


 鬼野は歩みを止めた。


「なんだって? 参上、お前馬鹿だろ? 妖精なんてそんな非常識なもんこの世にいるわけ……」


「馬鹿はお前よ、鬼野! あんたが一番非常識な存在でしょうが!」


 嘘をついたわけじゃない。ただ、人間に成れる者なら、僕はそうなりたかったのだ。

 周りの空気が泡立った。幸運特有の固有結界が現れる。玩具箱の世界。


「それじゃあ、行かせてもらうよ。眠りの領域。鬼野、君の悪夢を貰う」


 僕は鬼野に触れた。


「何すんだ、馬鹿!」


 僕の腕を伝っていばらの檻が現れる。そのいばらを鬼野から引き抜いた。


「お前、名探偵に何すんだよ!」


「痛くないだろ? 夢の具現化だよ。君の持っている夢を借りる……」


 鬼野は目をひんむいて怒った。


「俺の許可を取れって言ってんだよ!」


「それはお兄ちゃんの得意技。眠りの領域。お兄ちゃんは眠らないから、眠ったことが無いから、現実に眠りの領域を呼び出せる。他人の夢を、現実に持ってこれる。そして戦う事ができる。あんたには出来ないでしょ? 間抜けな探偵さん?」


「あはは、探偵さんを舐めないでくれよ。って、こんなアホな戦い方できるもんかよ!」


「今日のはそうね。いばらの悪夢? あなた、何かの罪の意識にさいなまれているんでしょう? 探偵さん」


「……俺の夢だというのか? そのいばらが……」


「ここに来る前、仮眠をとっていたでしょう?」


「ああ……そうだけど……あれは……!」


「お兄ちゃんの力はどんどん弱まっている。あと五分、持つかしら?」


「はあああっ」


 僕はいばらの剣をかざした。剣から現れたハリネズミのようなトゲの槍は、射出機から飛び出しだしたミサイルのように五反田シオリを追尾する。


「紙爆弾!」


 五反田シオリの正面で紙爆弾が爆発する。相当訓練されている。いばらのとげが壊れ、列車の側壁が軋む。


「完全領域」


 五反田は何かに守られている。


「列車を先に解体するつもりか!」


 そんな事をすれば一般人などひとたまりもない。


「包め、いばらの檻!」


 僕はいばらの檻で五反田シオリをくるんだ。


「捕まえたぞ、五反田シオリ! お前を尋問させてもらう! なぜ美春を殺した!」


 五反田シオリは笑った。


「あなたたちは勝負に負けた。生き残るのはただ一人だけ、響鬼野来夢だけ。だってみんな私たちの謎を解けなかったんだから。その子しか解けなかったんだから。お前の負けだ。小磯」


 鬼野はバルーンに包まれる。五反田さんはたくさんの紙爆弾を手にし、僕らに背を向けた。


「予定変更だ。一番列車を目指して爆破する。そしてお前たちをリドルに奉げる。さようなら」


「サヨナラなんて誰が言わせるかよ!」


 僕は床にいばらの剣を付き立てて走った。五反田シオリに頭突きをする。

 五反田シオリは体勢を崩した。鬼野と五反田さんの周りに張られた防護壁が割れる。


「なぜだ。私はリドルに守られているはずなのにどうして!」


 僕は荊を彼女に巻きつけた。


「僕がリドルを逃がすわけがないだろう? どうしてこんなことをした! 五反田シオリ」


 身動きの取れなくなった五反田さんは唇をかみしめた。


「……そうだな。子供の頃から愛されなかったからかもしれない。私は寂しいよ。もうどうなってもいい。いつ死んでもいい。そんなものたちがリドルには集うんだ」


 悔しい。そんな者たちの犯罪を防げなかったことが。僕は床に拳を突き立てた。


「五反田シオリ、あんたを殺さない。警察に連れて行く。愛はこれから知ればいい。本物の愛だ。行方不明だった父親が君の面会に連れてきてやる。幸せを教えてやる。そんな幸運が君に近づいていると教えよう。だから死ぬな」


「小磯……」


 鬼野は溜息を吐く。


「捕まえやがったか、犯人の一人を。なるほど? 小磯、どうやら、お前こそが一番の要注意人物のようだぜ、恐い男だな。首に鎖は必要か? ひ弱な人間さん」


 僕は我に返った。鬼野は……僕を化け物扱いしなかった。首をすくめてニヒルに僕を見ていた。その事が何だか心地よかった。


「鬼野、足が震えているぞ」


「ば、馬鹿じゃねえの! お前だって震えているだろうが!!」


「これは貧乏ゆすりだよ! 上半身を使った貧乏ゆすりだよ!」


「俺のは寒さだよ。ここだけ気温が局地的に冷凍庫だよ!」


 僕らはその場に崩れ落ちる。ダメだ、もう動けない。


「お兄ちゃん~。恐かった~! アリス恐かった~!!」


 アリスが飛び付くように僕に縋りつく。

 窓の外を見る。すでに列車は謎の暗闇を抜け、朝の街を走っているのだった。もうすぐ次の駅に着く。

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