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君という一握の光を見失って途方にくれる僕  作者: 新藤 愛巳
第七章 動き出す世界 小磯良
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怪物の名

 リドル……それは怪物の名だ。翼を持ち猫の姿をした怪物で――神より謎を賜ったのだという。リドルは動いている者に謎を出し、その謎が解けないとわかると、人間を食い荒らしていた。


 ある日、探偵が現れ、謎を解き、リドルを破壊するまで……人間の側は一方的に食べられ続けたのだという。


「つまりだ、俺が謎を解かないと、この列車の誰かは食われちまうんだよ。解るか、小磯?」


「リドルに?」


 僕は笑った。


「伝承じゃあるまいし……」


「おいおい、笑うな、腐れ。お前の聖艦隊せいかんたいを弄んでやる! 後悔しろ!」


「それは何の艦隊だ! 君たちは色々と間違えすぎだぞ!」


「お前、ひ弱の癖に何言ってんだ?」


「一万円払うから、僕のイメージを元に戻せ!!」


「腐れた感じにか?」


 ひ弱で腐れ、救いようが無かった。


「舌を噛んで死んでやる……」


「なんだよ。お前が旅行に持ってきた雑誌は筋肉強化トレーニング雑誌だっただろ。お前のコンプレックスなんかとっくに来夢が観察済みなんだよ!」


 おかしいな、バックから本を取り出していないのに……。いつ見たんだ?


「鬼野……リドルなんて本当に倒せるのか?」


「少なくとも、来夢の父親はそのつもりだったみたいだ。どうにかしてリドルを倒すつもりだったようだ」


「筋肉でか!?」


「やっぱりお前はアホだな……。これの父親は……」


 僕は憤慨した。


「響鬼野さんをこれって言うな。失礼じゃないか、あまりにも」


 鬼野は嬉しそうな顔を作った。なぜだろう?


「いいか、これの父親はガルシア機関に所属していたらしい」


「ガルシア機関?」


「詳しくは知らんが、世界の謎を解く専門機関だそうだ」


 僕は息を飲んだ。


「もしかして来夢の父親はリドルの謎を解くつもりだったのか?」


「そうだったらしい。しかしだ、名探偵として、色んな謎を解きすぎて、奴等に目をつけられ、挙句の果てに殺されていちゃあ、世話ないがな。やれやれだぜ。だから俺が出てくるはめになったんだがな。面倒臭いよな、本当に……」


 僕は沈黙した。


「だとしたら、父親は響鬼野さんを関わらせたくないはずだ。鬼野、響鬼野さんの命が危ないんだ! 風前の灯なんだ! 僕にはわかる! 君はこの列車に居てはいけない。いいや、リドルに関わってはいけない! 君は、君だけは!」


「小磯……そう簡単に引き返せるかよ! 人が食われようとしているんだぞ。ほっといていいのかよ?」


「それは……」


「察しの通り俺はぜんぜん構わないんだけどな。あいつがなんて言うかな」


「あいつって誰だよ」


「来夢だよ。ここにいる人をなんとかする。そのためにあいつはこの列車に乗ったんだ。どんなに説得しても帰らないと思うぜ」


「ダメだ。響鬼野さんは今日、行動しない方がいい。彼女は今危ない所にいる。心が死にかけているんだ。君だって、響鬼野さんが死んだら困るだろう? このままだと響鬼野さんは……ここで殺されてしまうかもしれない……ここで殺されるのは、敵に狙われているのは! 響鬼野さんかもしれないんだ」


「へええ。そんなにこいつが心配なのかよ?」


 鬼野はそう言った。やはり、嬉しそうな顔をしていた。


「そうか、そうか。俺が取り憑ける奴なんて珍しいからな……よし、来夢の為にお前を何かの盾にしてやるぞ!」


「よくねえよ!」


 よくないけれど、女の子の盾になって死ぬのはカッコいいなと思った僕だった。なんとなく溜息を吐く。


 京都が遠い。昔から都に上る人はみんなこんな気持ちだったんだろうか……ああ、厄介な事になったもんだ……。


「どうしようかな」


「腐れは黙ってついて来い。お前が犯人じゃないなら、俺が証拠をみつけ出してやるから」


 鬼野は意外といい奴だった。


「だけど、腐れが犯人だったら、半裸で逆立ちして列車の中を歩かせた後、全身に鳩の餌を塗りつけて浅草浅草寺に連れていく。そこでさらしものにしてやる」


 こいつ僕の事をぜんぜん信じていないな……。最悪だ。

 僕たちは列車の最後尾から、現場へと移動した。現場の前ではがっちりした体躯の車掌が立っている。警備員のようないかつい車掌は次の駅で一時停車しますよと言った。


「車掌。ほれ、俺の名探偵ライセンスだ。よく見ろ」


 警備員の表情は剣呑なものからすっきりしたものへと変わった。


「はっ。どうぞ、どうぞ、見て行ってください! 響鬼野探偵。わたくし名探偵は絶滅したのだと思っておりました!」


「生き残りがいたのさ」


 車掌は僕の顔を見て怪訝な顔をした。


「しかし、犯人を連れて何をなさるつもりですか?」


 鬼野はにやりと笑った。


「現場検証だよ。少しこの部屋で調べ物をする」


「探偵様、どうぞ」


 僕たちは八号車のB室に通された。

 こんな簡単に現場に高校生を通していいのだろうか?


「うーん。探偵って貴重だから珍重されるのか……意外だ」


 人が死んだ部屋はそのままになっていた。正直怖い。足を踏み入れるのも気持ち悪い。

 今にも動き出しそうなウエイトレスの青ざめた顔が、僕を恐怖のどん底につき落とす。


 怨めしそうな眼をしている。まるで僕を呪っているようだ。

 鬼野はそんな部屋で僕をベッドに縛り付けた。


「よし」


「よくないだろ、鬼野!!」


「いいんだよ、腐れ容疑者!」


「何も言えない」


「あはは!」


 勝ち誇った笑いを浮かべる鬼野を尻目に僕は溜息を吐いた。


「なんでこんな事になっているんだか……」


「お前が意地汚いからだよ。拾った酒を飲もうとするなんて」


「だけど!」


 あれは特別なお酒で……美春が――大人になったら一種に飲もうと言ったお酒で。


「飲まなくてよかったな。毒が入っていたかもしれんぞ」


「まさか……」


 鬼野はワインを舐めた。


「おい、毒が入っているかもしれないんだろう? やめろ!」


「苦みを感じる。……胃薬みたいな味だ。ひょっとしたら青酸カリかもな」


「吐けー!」


 僕は叫んだ。


「吐け、吐け、吐け! 響鬼野さんを殺すな! お前も死ぬなー!」


 思わず体当たりすると、鬼野は小さな笑顔になった。


「俺は死なんよ。俺たちは毒に耐性があるのさ。いいか、俺以外の奴はマネするなよ。良いな」


 僕は脱力した。心臓に悪い奴だ。波旗さんは大丈夫な用法用量を知っているからまだいいが、毒に関して鬼野は素人なので、


「恐かった……」


 鬼野は僕をじっと見た。


「腐れ、俺を心配してくれるのか?」


「当然だ。僕たちはもう知り合いじゃないか! それに君は僕の容疑を晴らすんだ!」


 鬼野は長い髪をポニーテールにした。


「うーん。まあ友情に感謝かな。くくく」


「そう言えば、響鬼野さんは、鬼野の事を知っているのか?」

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