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君という一握の光を見失って途方にくれる僕  作者: 新藤 愛巳
第七章 動き出す世界 小磯良
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秘密

「知らないだろうな。俺は気がついたら日本にいて、来夢に取り憑いていたんだからな。やれやれだぜ」


「どうして……」


 どうして助ける気になったんだ?

 行きずりの僕を。


「最初はこいつにただ憑いているだけだった。でもな、長年暮らすとこの体にも愛着が湧いちまってな。来夢は友達が少ない。お前のようにバンドをする仲間すらいない。それはそうだ。こんな変わった見た目では、誰も普通に接しちゃくれないのさ。俺が取り憑いてからこうなったんだから仕方ないが……故にお前には感謝だよ。俺から礼を言っとく。来夢にはこの事を言うなよ。俺のことは秘密だ。追い出されては困るからな。ここは居心地がいいんだよ、腐れ人間。もしも来夢に俺の事をばらしたらお前を殺すからな」


 響鬼野さんはとんでもない状態にあるらしい。


「お前のようなおっさんに取り憑かれて、響鬼野さんもさぞ大変だな」


「何を言う。俺は女だぞ」


「え?」


 僕は呆然とした。


「俺は女の子だぞ。もっと言うと可愛い女の子だぞ。腐れ小磯」


「可愛い女の子が、腐れなんて言うもんか」


「言うんだよ! 可愛い女の子は時々言うんだよ!」


 僕は脱力した。


「はあ……なんかもう、いっぱい聞きたいこともあったけど面倒くさいや」


「あきらめるな!」


「お前のせいだ、悪霊!」


「正直、自己紹介してやりたいが、俺には記憶が無い。これ以上は語れない。俺が覚えているのは盲目の探偵ガルシアとと、リドルの事だけ……」


 鬼野は背中を押さえた。


「ああ、胡坐をかいたら腰が痛くなったぞ……腐れ、手を貸せ!」


「お前のどこが女の子なんだ。腰痛持ちってお前、絶対、五十代のおっさんだろう!」


「腰痛持ちのおっさんが俺って言ったって、萌えねえんだよ、十代の女の子じゃねえと萌えねえんだよ、お前が! 安心しろ、俺は女だ。そのため女しか知らない事を教えてやる! 尊敬しろ! そして良く考えて質問しろ!」


 僕はゆっくりと手を上げた。


「えっと……男と女どっちが感じやすいんですか?」


「男じゃないからわからない。でも、恥ずかしいから、そんなこと男には教えない」


「なるほど、それもそうか」


 恥ずかしいからというのはどうも女の子っぽいと思った。でも記憶が無いんだよな? 

 考えたくないけれど高校生男子の線も捨てきれないんだよな……。


「どうだ。萌えたか、小磯? ふふん」


 鬼野は挑発的なポーズで僕を見た。


「僕の事情はこの際どうでもいいよ!」


「不燃物か、お前」


「不燃物にもなるよ。男子高校生、僕の萌える女は、ただ一人だけだ」


 桜の花のように儚く、シャクナゲの様に脆い。

 僕が萌える女も愛する女もただ一人だ。鬼野は溜息を吐いた。


「まあいいけどな。面倒な女を愛し続けるのも、お前の勝手だし、それも愛だと、五反田ならそう言うんだろうな。そして恋はギャンブルだと司法なら言うだろう」


 僕は思い当たる節があった。


「響鬼野さんとの知識の共有か?」


 リンクしているとでもいうのか? 記憶や知識が。

 だったらなんでお金の事を知らないんだ?


「ああ、察しの通り、俺は望めば来夢の知識を引き出せる。ATMだ。だが、逆はない。俺は来夢に記憶を振り込むことができない。そして来夢の気持ちはこの俺でも解らないし、変えることもできない。がっちりとしたプロテクトがかかっている……。でもこれだけは言える。性質の悪い女の事は忘れろ」


 性質の悪いだって?


「君が美春の何を知っているっているんだ!」


「美春っていうのか。お前の好きな女は。いい女なんだろうな。来夢とは違って」


 鬼野は美しい桜貝のような形の爪を噛んだ。酷く苛立っているようだった。


「お前も、響鬼野さんも友達だよ」


「友達。いい言葉だ。いい言葉だがそれゆえにはっきりさせておきたくなるぜ」


「なにを?」


 鬼野はにやりと笑った。


「お前は一人身か!」


「どうして君に言わなきゃいけないんだ、そんな事!」


「大事なことだ。俺の部下が一人身じゃないならばお天道様は西から昇るだろう!」


「部下じゃないやい」


「なら下僕か?」


「期待に満ちた目で僕を見るな。僕は下僕じゃないやい。僕と名乗る方が謎めいた品のいい少年に見えるだろうが。モテそうだろう、美春に!」


「腐れ、お前、最低だよ!」


 僕は息を切らして鬼野と対峙した。


「それにしても普通、太陽は東から昇るんだが……? ひょっとして鬼野は、馬鹿なのか?」


「馬鹿さ、女は馬鹿になれる。目的の為なら」


「それ馬鹿じゃなくてただの虎視眈々じゃねえか……五反田さんみたいだよ」


「ああ、お前の性格を把握しなけりゃ、まともな捜査が出来ねえんだよ」


 鬼野はそう言って耳を掘った。


「捜査?」


「ああ、お前が正直者か嘘つきか、今の会話の流れで調べていたんだよ」


 鬼野は僕をなぶるような目で見た。


「もう一度質問する。お前は一人身か?」


「僕は……一人身です。お願いします。助けてください」


「あはは。こいつ正直に答えやがったよ。ずっと片思いかよ、馬鹿じゃねえの!? いい加減諦めろ!」


 最悪な奴だった。


「そう言うお前はどうなんだよ!」


「秘密だ!」


「なんでお前だけ秘密なんだよ!」

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