第13章:兜町の電子大虐殺
「株価が……マイナスに突入している! 企業の価値だけじゃない、人間の生存指数が売られている!」東証のシステムを監視していたわずかなオペレーターたちは、自分の網膜ディスプレイに表示された数値を見て、絶望の悲鳴を上げた。グリニウス・デルタが施した新しいタトゥーの数式は、「人間そのものの存在価値のショート(空売り)」を開始していた。東証のアルゴリズムが、ある特定の企業の株価を下落させるたび、その企業の全社員の脳内チップに過電流が流れ、脳が物理的に焼き切られていく。「アローヘッド」のサーバー室から、肉の焦げる臭いと血の匂いが漂い始めた。それは、データ上の数値の暴落が、現実の肉体の「大虐殺」へと直結した瞬間だった。ドサリ、ドサリと、兜町のオフィス街で、スマートフォンを握りしめたビジネスマンたちが、目と耳から血を流して倒れていく。東証の株価チャートが垂直落下するごとに、数千、数万の人命が「無価値なバグ」として市場から間引かれ、消去されていく。「これが……新しい神の、新しい改訂か」バビロンの荒野から、東京の惨劇をオプティカル・リンクで目撃していたヨハネは、拳を血が滲むほどに握りしめた。グリニウス・デルタのタトゥーは、神の不条理を「金銭の冷酷さ」へと書き換えていた。旧約聖書の神がソドムとゴモラを硫黄で滅ぼしたように、悪魔のアルゴリズムは、経済的合理性の名のもとに、東京を血の海へと変えようとしていた。




