表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】「成金の娘は鶏の世話がお似合いよ」と、鶏小屋に追いやられた公爵夫人の、美味しい復讐劇   作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/3

第三話 一生、その味を思い出して飢えていなさい

 そこからは、惨めなほどだった。


 夜会用の手袋を油で汚しながら、夫は骨までしゃぶった。

 義母は宝石を揺らしながら、夢中で次の一切れに手を伸ばした。


 二人とも夢中になりすぎて、アデレイドが金庫を開けていることに気づかない。

 持参金の残金と宝石を取り戻し、契約書も、離縁状も用意してある。


 皿がほとんど空になった頃、夫が我に返った。


「アデレイド……これは、素晴らしい。お前にこんな才能があったとは」

「ええ」

「これを夜会に持っていけば、陛下にも喜ばれる。ローラン公爵家は再び注目されるぞ」

「そうですね」

「すぐに支度しろ。お前も連れていってやる。今夜だけは、私の隣に」

「お断りします」


 夫の言葉が止まった。

 アデレイドは、離縁状をテーブルに置いた。


「こちらに署名を。ローラン公爵家が私を正当な公爵夫人として扱わなかったことは、契約違反にあたります。持参金は返還。私物も回収。使用人は解雇済み。父の商会には、すでに使いを出しました」

「な……何を勝手な」

「勝手?」


 アデレイドは首を傾げた。


「私を鶏小屋に追いやったのは、どなたでした?」

「それは」

「私の宝石を勝手に身につけているのは?」

「……」

「私の金で雇った使用人に、私を侮辱させたのは?」

「……」

「私を夜会から締め出し、鶏とでも踊れと言ったのは?」


 義母の顔が赤くなった。


「成金の娘のくせに……!」

「ええ、成金の娘です」


 アデレイドは、にっこり笑った。


「ですから、お金の扱いには慣れておりますの」


 夫が慌てて皿を指差した。


「ま、待て。アデレイド。この料理の作り方を教えろ。いや、ローラン公爵家のために作れ。お前は私の妻だろう」

「もうすぐ元妻です」

「頼む。金なら……」

「私の金をほとんど使い果たした方に、払えるお金があるのですか?」


 夫は黙った。

 義母が、皿の上に残った小さな衣の欠片を見つめている。

 まだ食べたい。その顔に、ありありと書いてあった。


 アデレイドは、優雅に頭を下げる。


「それでは、失礼します」

「なっ」

「レシピも教えません」


 夫と義母が同時に顔を上げる。

 アデレイドは、玄関扉の前で振り返った。


「一生、その味を思い出して飢えていなさい」


 その夜、アデレイドはローラン公爵家を出た。


 馬車はなかった。

 見送りもなかった。

 宝石箱と契約書と、わずかな荷物だけを持って、夜の王都へ歩き出した。

 けれど、不思議と足取りは軽かった。


 鶏小屋の奥様。

 その呼び名を、彼女はもう恥じていなかった。


 数ヶ月後。

 王都の片隅に、奇妙な行列ができていた。


 貴族の馬車。

 商人の荷車。

 下町の子ども。

 職人。

 兵士。

 侍女。

 果ては、王宮の料理番まで。


 誰もが同じ看板を見上げている。

 王冠をかぶった鶏の絵。

 その下に、力強い文字でこう書かれていた。


『王都名物 A(アデレイド)F(・フライド・)C(チキン)


「いらっしゃいませ!揚げたてですよ!」


 白い湯気の向こうで笑っているのは、かつてローラン公爵家で鶏小屋に追いやられていた公爵夫人。


 今のアデレイドは、ドレスではなく清潔なエプロンをまとっている。

 宝石はつけていない。

 けれど、その姿は、夜会のどんな令嬢より輝いていた。


 彼女のフライドチキンは、王都を変えた。


 平民は給料日の贅沢に買った。

 貴族は馬車を並ばせて買った。

 王宮では、国王陛下がこっそり取り寄せているという噂まで流れた。


 一方、ローラン公爵家は破産した。

 アデレイドの持参金を失い、商会からの信用も失い、使用人も消えた。

 夜会に遅刻したうえ、油で汚れた手袋のまま現れた公爵と義母は、社交界の笑いものになったという。


 そして、ある日の夕方。

 閉店間際の列に、みすぼらしい身なりの女が一人並んでいた。


 アデレイドは、すぐに気づいた。

 義母だった。


 かつてアデレイドの宝石を身につけ、彼女を鶏小屋へ追いやった女。

 今は色あせたドレスをまとい、顔色の悪い頬をこけさせている。

 義母は、震える手で銅貨を差し出した。


「……ひとつ……ひとつ、ちょうだい」


 声はかすれていた。

 アデレイドは笑顔で紙袋を用意した。


「ありがとうございます。お客様」


 義母の顔が屈辱に歪んだ。

 だが、揚げたての香りには抗えなかった。

 紙袋を受け取った義母は、店先で一口かじった。


 サクッ。

 その瞬間、彼女の目から涙がこぼれた。


「これよ……これが、食べたかったのよ……!」


 義母は、震えながら二口目を齧った。

 アデレイドは、何も言わない。

 ただ、次の客へ向き直る。


「はい、次の方。揚げたてですよ!」


 店の奥では、次の鶏が黄金色に揚がっている。

 油の音が弾ける。

 香辛料の匂いが広がる。

 人々の腹が鳴る。


 アデレイドは、揚げたてのチキンを高く掲げた。


「ノブレス・オブリージュ?そんなもの、今の私には関係ありません」


 彼女は晴れやかに笑った。


「今の私の義務は、このチキンで世界を幸せにすることだけです!」


 サクサクといい音を立てて、アデレイドは自分の未来を噛み締めた。


 鶏小屋の奥様。

 かつての蔑称は、今や王都で一番美味しい女の称号になっていた。

最後までお付き合いありがとうございました。

あのフライドチキンが食べたくなったら、ブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



(・∞・ミэ )Э こちらの作品もよろしくお願いします
▶ 可愛いすぎる五歳の令嬢が
「あの時、助けていただいたアザラシです!」とやってきた
異世界恋愛/元アザラシ令嬢/王太子/ほのぼの/動物保護/あざらし幼稚園/逆プロポーズ/ハッピーエンド
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
フライドチキンタグ理解 美味しそうな描写すごかったです!
唐揚げ買ってきます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ