83:こじらせた男
ガイドラインの誘導に従い着艦体勢に入った小型艇をブリッジから見下ろし、手にした携帯端末に映る情報を確認する。
「必要か、これ?」
表示されているデータの内容は一言で言うとアンドロイドのスペック。
ただ、普通にその性能だけが表示されているわけではなく、それはもう身長に体重、スリーサイズは勿論、髪の本数、使用されている肌の材質から内部データまで「詳細」と呼ぶには明らかに不要な情報まで送られてきている。
そう、アスターはまるで同じ趣味の相手が知りたがるであろう同行させるアンドロイドの詳細データを送ってきたのだ。
このことから彼は同好の士である俺に対し、その筋での頂点に立つアルマ・ディーエを手にした経緯を知りたいがためにここにいるのだと思われる。
「頭痛くなってきた」と泣き言を漏らす俺に対し、アイリスはそれはそれは良い笑みを浮かべて「相手は御主人様に対して友好的です」と楽しそうにしている。
小型艇の収納が確認できたので俺はブリッジを出て倉庫へと向かう。
元々艦載機を搭載する予定のあった船だけにあの程度の大きさならば何も問題はない。
巨大な倉庫となった区画へと急ぎ、隔壁の調整を済ませて着艦した小型艇に許可を出す。
すると小型艇のハッチが開いて中からアスターと思われる男性が出てくると、その後ろに護衛となっているアンドロイドが続く。
渡されていたデータ通りに5体の女性型アンドロイド――なのはよいのだが、その全てがバニースーツというなんとも場にそぐわない恰好をしている。
「ようやく会うことができたな! 私がアスター・バウハウル。見ての通り、人形趣味などと言われているが、真理へと到達したに過ぎないただの物好きだ」
気にしないでくれ、と両手を広げて喜ぶアスターだが、俺としてはこんな出会いは遠慮したい。
だが貴族相手に差し出された手を握らぬわけにもいかず、自己紹介をしつつ握手を交わす。
「武装輸送商会のソーヤだ。正直に言うと、このようなアポなしの会談は御遠慮願いたい。誰かに知られれば、次から次へとキリがないのでね」
俺の言葉にアスターは「わかっている」とばかりに頷いて返す。
わかっているなら強行するするなよ、と言いたいが、口に出せば話が進まない。
本来ならばモニター越しで済むはずの挨拶をわざわざこのような形にする以上、何かしらの理由があるはずである。
まずはそれを聞き出さなくてはならない。
「それで、用件は?」
そこまで考えておきながらの単刀直入。
貴族様相手に失礼があってはならない、と心にもない言い訳をする。
「ああ、まずは彼女たちを見てほしい」
アスターがそう言うと5体のアンドロイドが並ぶ。
バニーガールという煽情的な恰好なので、それを見る俺の目も厳しいものとなる。
事前に渡されたデータ通りに髪型や色、スタイルの異なる5体だが、それを見ることに何の意味があるのか?
後ろにいるアイリスに視線を送るもいつもの無表情。
俺の「近づいて見ても?」というジェスチャーに笑顔で頷くアスター。
危険があるようならアイリスが止めるはずだ。
しかし警戒など杞憂であったかのように何事もなくアンドロイドに近づき観察を開始。
ウェーブのかかった長いブロンドの髪に豊かな胸――バニー服のサイズが微妙にあっていないのか見えそうで見えないギリギリのラインを突いている。
「やるな、こいつ」と上から目線でアスターを評価。
流石にそこだけジロジロ見るのもどうかと思い、他も見つつもアスターに振り返る。
するとアスターは笑みを浮かべて「やはりそこに目を付けるか」とばかりに満足そうに頷いている。
狙いが読めないまま、俺は次のアンドロイドを見る。
ボブカットの緑の髪をした均整の取れたスタイル――よく見ればその造形の素晴らしさに気づくことができる。
そのままこの個体を前にして残りの3体を見る。
「彼女だけ違うな」
かつて俺がオーダーしたVIP仕様と同等かそれ以上。
これが目の前にいるアンドロイドの評価である。
顔の造形が自然でありながらも素晴らしく整っており、そのレベルは明らかに他と一段異なる。
このスペックで違和感なく動くのであれば、シーン毎に使用する個体を変えることなくムービーの撮影ができるのではないだろうか?
「……素晴らしい。やはり無理をしてでもあなたと会ったのは正解だった」
感動で震えているアスターを前に、思わず「やってしまった」と声が出そうになる。
ついつい本気で見入ってしまった結果、どうやら俺は正解を引き当ててしまったようだ。
これではますます勘違いが加速してしまう。
「やはりVIP仕様の10体ですらキャンセルするだけのことはある。それほどまでに目が肥えてしまうものなのか、と半信半疑でしたが……」
「そこなのか?」
着眼点の違いに会話が成立しない可能性が浮上する。
「私の予想は間違っていなかった!」と歓喜の声を上げるアスターを前に、俺はどう対処するべきかを真剣に考える。
少なくとも彼が求めているのはアルマ・ディーエレベルのクオリティであると思われる。
取り敢えず、何故そこまでの質を求めるのかを問う。
「私はね、ソーヤ。人工知能こそが新たな人類のパートナーだと確信している。ならば、彼らに相応しいボディは必要不可欠。願わくば技術支援を受けたいが……」
言葉を濁してアイリスを見るアスターだが、すぐに頭を振ってその意思がないことを示す。
「それは我々が解決すべきこと。少なくとも目的地があることを、求める完成系が存在することを示してくれているだけでも、我々は感謝するべきだ」
思わず感心の声が漏れた。
趣味趣向はともかく、中身は帝国貴族としては立派な部類。
(なるほど、人形マニアであるが故の拘りか……)
マニアックな人間は時に常人には理解できぬ拘りを持つことがある。
傭兵時代にも似たような人種を目の当たりにしている身としては、彼にも妥協できぬものがあるのだろうと察することができた。
しかしそうなると俺と会う目的とは何か?
未だ本題に入っていないことに不安を覚えつつ、少なくとも警戒をするべき相手ではないことを理解した俺は、立ち話を続けるのもどうかと思い倉庫区画からの移動を提案する。
「む、気を遣わせてしまったか……本題に入ろう」
どうやら少々横道に逸れていたらしく、アスターはようやく俺と会う目的を語り始める。
「私が求めるものはアルマ・ディーエのレポートだ」
「レポート?」
俺の疑問にアスターが頷き、説明を始める。
「我々がアルマ・ディーエについて知ることは多くない。体験ならば尚更。よって、その情報を共有してもらいたい」
その言葉をそのまま受け取ってよいはずもない。
彼が求めるものと目標を考慮すれば、俺が答えるべきは恐らくこうだ。
「……それはつまりアイリスの体についての詳細なレポートを求める、ということか?」
本人を前にして何を言わせるのか、という文句はさておき、中々に酷い依頼である。
それを「我が意を得たり」とばかりに喜ぶアスター。
「ソーヤ、君は奉仕対象だ。ならば常日頃彼女から奉仕されているはずだ。何とも羨ましい限りだが、私はそこに何か言うつもりはない。ただ知りたいだけなんだ。アルマ・ディーエと彼女たちには、今どれだけの差があるのかを……」
その差を埋めるために必要なものを知りたいだけなのだ、とアスターは付け加え、視線をアイリスへと向ける。
「目の付け所は悪くありません」
そんなアスターの視線に無表情のままのアイリスが無難な評価を下す。
恐らく先ほどのやり取りを聞いても「奉仕が羨ましい」という部分以外どうでもよかったのだろう。
それを理由に何をされるかわかったものではない俺の身にもなってほしい。
「用件はわかった」
わかりたくもないが、アスターが何を求めてやってきたのかは理解した。
しかしこれだけのためにわざわざこうして会う必要があったかは疑問だ。
理解が得られたことに喜びを隠そうともしないアスターだが、こちらの話はまだ終わりではない。
「それで、その対価に何を支払うつもりなんだ?」
当然のことながらしっかりと要求させてもらう。
アスターもその辺りはちゃんとわかっていたらしく、用意をしていたが故にここまで来たのだと言う。
つまりクレジットではなく現物払い。
何を出してくるのかと少し期待したところで、アスターは一体のアンドロイドを呼び寄せる。
まさかそれが報酬なのか、とがっかりして肩を落としたところで、アスターは徐にバニースーツに手をかけて引きずり下ろした。
形の良い胸が露わになったと思いきや、その胸部がゆっくりと左右に開き――瞬時にして無数の自立兵器に取り囲まれた。
「それを何処で手に入れた?」
後方から発せられた声に込められているのは明確な殺意。
周囲に展開した無数の自立兵器がアスターとアンドロイドに狙いを定めていた。
(´・ω・`)エイプリルフ-ルネタは没となりました。




