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不運なソーヤの運送屋  作者: 橋広功
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64:追いかけるメイドと置いて行かれた御主人

 下船した俺を待っていたのは周囲からの無遠慮な視線。

 こんな馬鹿でかい船に乗っている奴の顔でも拝んでおくかと考える奇特な連中の多いこと。

 俺は溜息を吐いて無重力のドッグを真っ直ぐ進む。


「連邦に近いだけあって種族が多様だな」


 奇異の目に晒される側としては表情が全くわからない昆虫型ヒューマノイドの視線は気味が悪い。

 ステーションに入っても未だにまとわりつくような視線が気になって仕方ない。


「アイリス。これは見られている、でいいのか?」


「正解ですが御主人様の意識の外からですね」


 どうも監視カメラやアンドロイド、作業ロボの視界を経由してこちらを見ているらしく、俺が感じているのは有機生命体のものであるとアイリスは断定。

 やはり他国と近いのでアトラスを探るか俺との接触を試みようとする者がいるらしく、帝国軍からは人員が派遣されていた。

 如何にも仕事ができそうなクール系の軍服を着た美人がステーションの微重力地帯に入ると同時に接触してくる。

 その辺りの話を歩きながら聞いたところによると、軍事機密があるためスパイや工作員の対処はこちらで行うとのことで、そのためにアトラスの周囲を警戒するために幾つかの許可を出した。

 こちら側も色々と制限を受ける形となったが、大したものではないので問題はない。

 特に俺が異議を唱えることなく、滞りなく通達を済ませた美人の軍人が軽く敬礼をして去って行く。

 薄く笑みを浮かべていたところに自分の魅せ方をわかっていると感じたところで、突然後ろからアイリスが迫ると俺の耳元で囁いた。


「ああいうのがお好みですか?」


 体を密着させるように俺の肩越しにその耽美な顔を覗かせているので、豊かな胸が押し付けられているが流石にもう慣れた。

 心なしか「私の方が大きいですよ」と言われている気もするが、俺は何も気が付かなかったことにしよう。


「好み、というより新鮮に感じたくらいだな」


 このところ女性と縁があるのか様々な人物と出会った。

 一癖も二癖もあるような女性ばかりだったので、ああいうまともそうな人物に新鮮味を感じるも当然とも言える。

 その代表格とも言うべき癖しかないメイドが「ふむ」と俺に体重をかけたまま、去り行く女性軍人の後ろの姿を眺めている。


「上から88・58・88となっております」


「何の数値かは聞かないでおくぞ」


 プライバシーなどあったものではないのは今に始まったことではない。

 比較対象にしようものならどちらに転んでも「ご奉仕行き」という未来が見えた俺はそのままアイリスを背負った状態で歩き続ける。


「反応がないのは寂しいですね」


「そんなことより、向こうの反応はどうなんだ?」


「現状は様子見のようです。恐らくですが御主人様の装備品を見て慎重になっているのでしょう」


 俺がレンタルしているのはクオリア製のインナー型強化スーツと馬鹿げた出力のプラズマブレードにパルスガン。

 この強化スーツの性能はスペックを見る限り帝国のそれとは一線を画している。

 また「首まで防護しているので切り落とされる心配はないので何も問題はありません」とのことだが、そんな心配をする必要があったこと自体が問題である。

 そんなわけでステーションで依頼の報告を行い、該当する積荷を降ろすための手続きを済ませる。

 軍の方にも通達しておき、必要なデータも送っておく。

 これで間違いは起こらないだろう。


「問題があるとすれば――これを起点に向こう側が仕掛けてくる可能性があるということですね」


「真っ先に考えられるのは内部に侵入して何かを仕掛ける、か……」


「実に平凡な意見ですが……相手の状態次第ではそこが限界ということも考えられます」


 重力ブロックに近づいたところでようやくアイリスが俺から離れる。

 そして床に足を付けたところで「ほう?」と声を漏らす。

 何か見つけたのかと後ろを振り返ると、そこには凶悪な笑みを浮かべるアイリスの姿があった。


「ほうほう。この私を相手によくもまあ……」


「廃棄物風情が」と吐き捨てたアイリスの圧に思わず足が下がりそうになるが、何を知り得たのかをまずは共有しなくてはならない。

 俺はアイリスを落ち着かせようと、その肩に伸ばした手が――胸に着地した。

 俺の腕を取ったアイリスが軌道を修正し、何故か胸を触らせてくる。


「……目的は?」


「少し傍を離れますのでご奉仕できない分を今からと思いまして」


「ちょっと周囲を見てくれるか?」


 既に何人かがこちらを指差し「あれ通報した方がいい?」とか言っているのが聞こえてくる。

 取り敢えず離れようとしているのだが、掴まれた腕がビクともしない。


「そんなことより――」


 この周囲の状況を「そんなこと」扱いされては俺の社会的立場がない。

 腕だけでも放してもらおうとしたが、そのまま引き寄せられて抱きしめられる。


「状況が悪化するんだが?」


「それでは調子に乗ったゴミを処分して参ります。御主人様もお気をつけて」


 そう言って俺を解放するや否や何処かに行ってしまうアイリス。

 恐らくは挑発か挑戦でも受けたのだろうが、一番狙われるであろう俺を放置するとはどういう判断だろうか?


「敵はさっさと始末する、か? それともアルマ・ディーエの汚点を残しておきたくないか?」


 どちらが正解だろうか、としばし歩きながらこの場を離れつつ考えてみるが、その答えが自分に出せるものではないと切り替える。


(こちらの位置情報は握られている。ならば向こうが潜伏しているという情報から派手な動きはないと見ていい)


 取り敢えずは人通りのある場所以外には近寄らない方がいいだろう。

 となれば案外普通に出歩くことができそうに思えてくる。

 流通ギルドに挨拶するか、それともアトラスに戻るかで悩んでいたところに着信を知らせるアラートが鳴る。

 携帯端末を取り出すと呼び出しの相手がアイリスとわかりすぐに応答する。


「御主人様。廃棄物の位置情報を獲得しました。直にコロニー内で追いかけっこが始まります。1時間以内に戻りますので適当に時間を潰していてください」


 それだけ言って俺の返事も待たずに通話が切られる。

 スペックの差が歴然とあっては向こうが捕まるのも時間の問題。

 結局、何をすることもなく終わるようだ。


「あー、まあ楽して依頼を達成したと思うことにしよう」


 廃棄処分されたとはいえ、対機械知性体を想定していただけに気の抜ける結末である。

 これでレンタルした装備も何事もなく返却できるので差し引き5万Cが手元に残る。

 この使い道についてじっくり考えたくなった俺は、取り敢えず落ち着ける場所に行こうと目に留まったカフェに入った。

 メニューボードに映る画像を指で操作し、コーヒーとアイスクリームを注文。

 ボードをテーブルに収納したら携帯端末を取り出し、クオリア製品のページへとアクセスする。

 いつの間にか取り付けられていた機能だが、眺めるだけならタダである。

 予算は5万Cと潤沢に思えたが、いざ商品カタログを見ると心許ない。

 いつの間にかテーブルに置かれていたコーヒーを飲みつつ、適度にアイスを突きながらカタログを眺める。

 やはりクレジットに替えて返済に充てるべきかと思い始めたところで、不意に声がかけられた。


「おや、そこにいるのはソーヤか?」


 反射的に振り返ると薄っすらと割れた腹筋が見えた。

 視線を上げると顔が確認できないほどに大きな山が二つ。

 体を引いてようやく見えた顔で俺は相手が誰なのかがわかった。


「確か……フォーネイ、だったか?」


 赤く、褐色肌の大きな女。

 フライングキャットのボスである彼女がそこにはいた。


「正解だ。うるさいのもいるが……折角だ。相席いいか?」


 騒がしいのがいるのであれば断る理由しかない。

 推定サイオニック能力者とはできるだけかかわらないようにするのが基本方針だ。

 なので、お断りしようとしたその時――音が響いた。

 そして続く僅かな揺れ。


「爆発か? 今の揺れは……」


 フォーネイが呟いた瞬間、俺はその原因が特定できた。

 頼むからコロニー爆散エンドだけはやめてくれよ。

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