第五話 焼き鳥と、軍師
「あっちちち」
少し赤くなった小さな手を、小さな口で、ふーっふーっとふいた。
焦げ目のついた長ネギに、鶏もも。うん。いい感じ。
そして、竹串をひっくり返しながら、禰々は遠い目をした。
これはまずかったかもしれない。
いや、味は良いと思うのだけれど。
「よりにもよって、風下かぁ……」
今日は館で大きな評定がある日だった。
これは匂い、届いているだろうな。絶対。
肉が焼ける音だけは、やけに景気がよかった。
もくもくと煙が空へと立ち上っていく。
一方その頃――
評定の間はざわついていた。信虎はまだ着ていない。
誰かが言った。
「何か焼いておるな」
「……庭にございますな」
一人の男が静かに立ち上がった。
「思ったよりいっぱいできちゃったな……」
出来上がったそれを見ながら、困り顔を浮かべる。その後、何かを察知した禰々の行動は早かった。
少し冷ました焼き鳥を、懐から取り出した懐紙に手際よく包む。
使った薪と熾火を処理し、冷ました鉄網はコゲを小刀で軽く落としてから布に包んだ。
匂いを嗅ぎつけ、誰かが来る前に、この場を去らねばっ。
「げっ」
禰々の視線の先には、鬼の形相をしてこちらへ向かう小幡虎盛がいた。
「禰々姫様、こちらへ」
岩陰から伸びてきた手に、袖を掴まれ、引き込まれる。
だっ、……誰?
よく日に焼けた肌に、無精髭一歩手前の少しだけ整えられた髭。
うわぁ……どタイプだ。
前世三十二歳の記憶に引っ張られる。
そう、ねねは、筋肉、色黒、歳上、髭というワードに弱い女だった。
しかし、見た目は四歳である。
ワイルド系イケメンを見てヨダレをすする四歳、そんな絵面よろしくない。耐えろ耐えるんだ私。
禰々が葛藤する数秒の間も、髭男の視線は、禰々の懐へ向いていた。
「さて、私は姫の窮地を助けたわけですが」
ごほん、ごほん、とわざとらしく咳をするその男。
視線は雄弁に語っている。
……助けたんだから、礼の品を寄越せってわけね。
懐から焼き鳥入りの懐紙を取り出して、禰々は手を止めた。
「あっ!ちょっと待ってね!」
今日もらったばかりの塩、藻塩を、ぱらぱらと焼き鳥全体にまぶした。
四本焼き鳥を抜き取り、残りの四本が入った懐紙をそのままその男へ渡す。
「はい、どうぞー!」
左手に三本、右手に一本。禰々は右手に持った焼き鳥串にかぶりついた。
もぐもぐ、もぐもぐもぐ。
ごくんっ。
うっっっま!!!
隣で食む男に、禰々は自慢げに言った。
「おいしいでしょー!!!この塩はね、藻塩って呼ばれていて、普通のお塩よりもね、まろやかで、旨みが強いんだって!これくれた旅の人がね、教えてくれたの!」
あっ、於弘だ!
廊下を歩く乳母を見つけると、禰々は、その男に挨拶をした後、乳母の元へ向かっていった。




