表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/62

ドワーフの壁


「確かに、少し森が騒がしいな。森を見てくるよ! シズカは、別邸へ」

 まだ話の途中だったが、仕方ない。夜に治療をする時に続きを聞こう。


「ドワーフたちを呼んでくるわ」

「そうだな。相手が多そうだしな……」

 カリオンは、森に飛び込んで行った。

「ゼル、彼と一緒に……」

 私が手で合図をすると、魔鳥は降下し跡を追って森に入る。


 とても賢い子だ。

 小高い丘にある執政官別邸。ドワーフの砦と化している元ミラーの屋敷。そこには、森の監視役のドワーフたちが数人立っている。

 私の姿を見つける。


「さて、伝わるかな?」

 旗の色で伝達をする規則を決め、領民に教えていた。

 私は服のポケットから、一色の布を取り出す。そして、私の偽物の剣につけて振り回した。

 まずは、危険を知らせる赤色。次に、進軍を促す緑色。


 『魔物襲来、迎撃に迎え』

 ドワーフの警備兵は頷くと行動を始めた。

 ある者は、砦に造った物見台に登り、白いワールドエンドの領紋旗を降ろして赤い旗を掲げる。

 他の者は伝令役として、邸宅の中へ駆け込んでいった。


「お待たせしました」

 しばらくして、ガストンがドワーフを数人連れてやってきた。

「時間をかけ過ぎよ!」

 自分でも驚くほど、きつい声が出た。

 ガストンたちは訓練された兵ではない。ましてや、私の直属の部下でもない。

 だが、ガストンはニヤニヤしながらも素直に頭を下げた。


「次までには、満足してもらえる速さになりますぜ」

 何かおかしい……。緊張感が足りない。

 ガストンたちは、本物の襲撃だと思っていないのかも。

「もしかして、ガストン。予行練習と勘違いしてない?」


「は? 違うんですか? シズカ様……赤旗のあとに緑旗が来たんで、領民招集と行軍訓練だとばかり……あいつら……」

「違うわ。本番よ。カリオンが先に単独で、森に入ってるわ。私たちの役目は、森から魔物が出てきたら倒すことよ」

 ガストンの顔から微笑みが消え、表情が引き攣る。

 森を知り、森の深部で戦える程度の実力はある者たちだ。魔物が人の領域に出現する意味をガストンが知らない訳がない。


「すんません。本気のガストン家をお見せしますんで。お前ら、わかったか?」

 ガストンの部下の一人が、慌てて砦へ戻っていく。

「期待するわ」


「ああ、任せてくれ。この地は守る」

 先ほどまでの軽い空気は消えていた。

 私たちがやるべきことは、まず領民の安全確保。そして、この領地へ魔物を侵入させないこと。

「カリオンのいる場所は、ゼルフィードが教えてくれる。問題が起きた時も」


「わかりやした。そいじゃ、防衛柵を作りましょう。執政官邸への連絡は?」

「まだよ。お願いするわ」

 私の勘では、これはスタンピードの前触れに過ぎない。

 魔物討伐隊にいた経験は、私の神経を図太くさせていた。

 もしかしてその私の内面が表情に出ていたのかもしれない。誤解させたのは私だと反省し、顔を引き締めた。


「この側道が適しています。ここに、堀を作ります」

 遅れてやってきた十数名のドワーフが土木工事を始め、ガストンが指揮をとる。もちろん警備する者や偵察する者もいる。

 ガツン、ガツン、と鍬が地面を砕き、森側に深い堀を掘る。


 その内側――道を守るように、ドワーフたちは掘り返した土と岩を道沿いへ積み上げていく。

 ドン、ドン、と木槌で叩き固められていく。さらに薬が振り撒かれると、土壁から白い湯気が立ち上った。湿った土は鈍い灰色へ変色し、みるみるうちに岩肌のような硬質さを帯びていく。


 最後に巨大な槌で打ち込まれると、ゴンッ、と鉄を叩いたような重い音が響いた。

「あれは?」

「ははは、ドワーフの秘薬じゃ。我らには魔術が無い。だが、その代わりに知恵がある。森人とは違う」

 ガストンは髭を揺らして笑い、固まった壁を拳で叩く。

 ゴンッ、と今度は本当に鋼を打つような音が返った。


 さすがは大陸随一の鉱夫集団だ。

 私が見くびっていたのかもしれない。

 掘るだけではない。土を盛り、固め、薬で変質させる。堀と壁はみるみるうちに伸び、森と道を切り分ける巨大な防衛線になっていった。


「壁をもっと高くしろ! 魔物をワールドエンド領へ通すな!」

 ガストンの怒声の下、ドワーフたちは汗と泥にまみれながら鍬を振るい続けた。

「休憩は取らせなくていいの?」

「ああ、奴らを止められんよ。シズカのせいじゃ」

「へ? 脅してないわよ?」


「ワシらをこの地の住民にしてくれた。自分の土地を守るのに手を抜くわけがないじゃろう。真剣なんじゃよ」

「わかったわ。酒を準備するわ。他の部隊は?」

 ガストン家は、砦を守る隊と領民を避難させる隊、それとこの本隊に別れていた。


「それぞれ、わしの代行を隊長にしてある。安心してくれ、シズカ様。酒は自分たちの金で買うよ。それよりも特別なお願いがあるが、この騒動が一段落してから言うよ」

「そう。私が出来ることなら良いんだけど」

 彼は今、その話をするつもりは無いらしい。


「それより、森人はまだ来んのか? 呑気なもんじゃな」

「ふざけんじゃないわよ。一仕事終えてここに来たのよ」

 その癖のある美しい声は、セレディナだ。

 エルフの彼女は、風に乗り空に浮かんで、ガストンを睨んでいた。


 長い金髪が風に揺れ、その髪と共に森から流れ込む空気まで不穏にざわめいている。

 まるで森そのものが、何かを警告しているようだった。


「セレディナ、待ってたわ」

「シズカお姉様、大丈夫でしたか?」

 彼女は飛んできて私に抱きついた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ