暗黒の杖②
「さてと。
正直準備万端とは言えないけれど、それも仕方なし!
私自身の力としては十二分に発揮できる状態なんだから、きっと大丈夫!」
友理は空に入ったヒビを見上げながら、己を鼓舞していた。
「本当の全力を出すのだから、魔王たちも流石に非難させておこうかしらね。
もちろん負けるつもりは無いわよ!
でも、万が一。
フラグ立てちゃうようで縁起悪いのだけど、もしものことがあっては行けないから……」
空に入ったヒビは大きくなり、その周囲の空間が歪み始めた。
ヨハネと魔王が友理の前に現れる際の空間の歪みとは異なり、空間と空間を繋ぐ座標を繋ぎ合わせる歪みではなく、系統魔法とは明らかに異なる得体の知れない歪みが広がり続けている。
「『黒衣」、『黒鎌』、『暗黒球』」
友理は掌を合わせ、3つの魔法を立て続けに唱えた。
先程の戦いでボロボロになっていたローブを覆うように、黒いモヤがローブの形を成しまとわりついた。
手には友理の背丈の1.5倍ほどはあろう大鎌が現れた。
頭上に直径30cm程の黒い球体が5つ現れた。
「あとは、『黒棺』。
『黒衣』があるとやっぱり楽ねぇ。いくら杖無しで魔法使えるからって、毎回手を合わせるの手間だったから。
そう言えばヨハネが使ってた空間系統魔法の『ブラックボックス改』、全てが終わったらちゃんと聞かないとだわ!
あっ、また変なフラグ立てちゃったかも!
しゅうちゅう! 集中!」
『黒棺』が唱えられると、魔王を簡単に飲みこむ程巨大な黒い棺が瞬時に地中から現れた。
その黒い棺が魔王を覆い切ると、開いていた上部が格子状に檻が形成され、さらにその上から黒い大きな蓋で封がされた。
封がされた黒い棺はその後、闇に染まった地中に沈み落ちた。
この現象は魔王のみが対象ではなく、今現在この世界に生きている生物全てが対象に行われた。
世界は静寂に包まれた。
「嵐の前の静けさってやつね。これ。
自分でやっといてなんだけど。
やっぱりチョケちゃん達がいないと寂しいわね……。
チョケ川ちゃんは今回のこと話さなくてもわかってくれるとして、あとの二人には今回は本気で怒られそうね……。
それよりも、一時的とは言え辛く怖い思いをさせてしまった償いをちゃんとしないとね」
空のヒビが広がるごとに、ミシミシと誰もいないこの世界に響き渡る。
「出てくるまで意外と時間かかりそうね。
こっちから仕掛けてみましょうか!」
友理は『黒鎌』を大きく振りかぶり、空のヒビに刃先を向けた。
「黒幕さんには、黒よりも黒い先制攻撃を喰らわしてあげましょうか!
『暗黒の圧』!!」
振りかぶった背丈の1.5倍ほどもある『黒鎌』を天から地に向かって軽やかに、しかしそのスピードは音を置き去りにして振り下ろされた。
振り下ろされた音が届く前、刃先の通った直線上を黒よりも更に黒い、言わば漆黒が突き抜けた。
漆黒が突き抜けた直後、轟音が鳴り響き、大地は大きく揺れた。
揺れてから少し経つと、大地の至る所からマグマが吹き出し、遥か遠くの海からは蒸気が延々と立ち込め始めた。
そして空のヒビにも変化があった。
ヒビには漆黒が走り、空間の歪みを急速に膨張させていた。
世界の至る所からマグマが噴出し、暗闇に染まっていた世界は徐々に赤黒い明かりで照らされ始めていた。
友理は一撃を放ったあと、空のヒビと同じ高さまで浮遊し、しばし静観していた。
第一の厄災が居た富士山で大きな噴火が起きたその時、ヒビから漆黒を呑み込み眩い光が噴出すると同時に、噴火よりも大きな「バリン」という音が轟いた。
空間に穴が空いた事を確信した瞬間、友理は瞬時に追撃を開始した。
「『暗黒暴食球』ダブル!!」
友理の頭上にある5つの『暗黒球』のうち2つが割れた空間に向かって放たれた。
放たれた『暗黒球』は空間に入る直前で大きさが10倍に拡張し、悪魔のような顔が浮かび上がった。
悪魔のような顔は、ギザギザした口を大きく開けながら空間へ飛び込んだ。
少しの時が経った。
耳をつんざくような断末魔が2つ聞こえたかと思うと、ヒールの足音が空間の割れ目に近づいてきた。
「ダメか……」
友理は思わずぼやいた。
ヒールの足音が止まり、若い女性の声が響いた。
「ダメじゃないですかぁ!
こんな怖いおばけさんを投げちゃ!
メッ! ですよ!」
なんとも場違いな甲高い声と口調だった。
友理はその場違い感をものともせず、無表情で追撃をかけた。
「『黒鎌連斬』」
その場で鎌をさまざまな方向に向かって何度も高速で振り下ろした。
同時に空間の割れ目から出てきた女性の前方にできた影から、振り下ろされた数と同じだけの刃が襲いかかった。




