暗黒の杖①
チョケ本が青年と遭遇するのとほぼ同時刻、友理と魔王は重い空気の中、過去の話を始めた。
「ねぇ、魔王。
私たちがこの世界に集められた理由、覚えているかしら?」
先程までの激昂した姿をまるで感じさせない、ただただ普通の会話と同じトーンで質問を投げかけた。
「7つの厄災すべての発動と、それに伴うこの世界の終焉ではないか」
「そうね、そう私たちは初めに聞いたわね。
では聞き方を変えるわ。
この世界とは何を指すと思う?」
魔王は友理のする質問の意図を汲み取れずにいた。
しかしこの暗黒の杖による干渉を考慮し、極めて慎重に回答することを選んだ。
「原初の世界のことではないのか?」
「正解であり、外れよ。
では次の質問。
私たち7人の厄災にはあらかじめ厄災の内容と番号がが決められていた。
そして順番にその厄災を起こしている。
では今は何番目の厄災まで終わっているかしら?」
魔王は友理のしている質問が、突拍子のないものだとは思っていなかった。
自身がずっと抱いていたこの世界に関する疑問と、少なからず関係していると感じ始めていたためである。
「4番目までではないのか……」
表情にはほぼ出さなかったものの、友理に対する後ろめたさのような感情は、その回答から十分に伝わるものだった。
「何よ、その答え方は。
まぁいい、今は話を進めるわ。
時間もあまりないことですし」
時間があまりないという答えで魔王は確信を持った。
暗黒の杖の解放は封印指定武具と同等か、あるいはそれよりも上の力を持っていると。
その瞬間から魔王の思考は、友理の制圧へと完全に切り替わろうとしていた。
「正解は一つも始まっていない、よ」
魔王は臨戦体制に切り替える寸前で、予想もしていない回答を受け、再度慎重路線に切り戻すこととなった。
「何を言っているのだ? すまない、第3と第4ならまだしも、我とあの竜もというのか?」
この時ばかりは魔王も表情から驚きを隠せていなかった。
この状況でいきなり冗談を言うわけでもないと考えた上で、あまりに想像の斜め上をいく内容だったからである。
「えぇ。
でも貴様自身、多少なりとも違和感には気づいていたのではないかしら?
そして今、その小さな違和感は大きな違和感はへ変わっているはずよ」
友理がそう言い終えたと同時、魔王は激しい頭痛に襲われた。
「私が貴様達と過去戦う際、永遠の杖をなるべく使わないようにしていたのは何故だかわかるかしら?
さっきからの貴様の言動を見る限り、きっと気づいているわよね」
魔王は頭痛が治っていないものの、痛みで崩れた表情を無理やり元に戻し返答を始めた。
「封印指定武具の代償のことであろう。
今の我が何を言っても言い訳にしかならないことは理解している。
しかし一言だけ言わせてくれないだろうか。
勇者の彼の件、すまない……」
友理はその言葉を聞いた瞬間、口角がほんの少しだけ上がった。
「やっぱり気づいていたのね。
いいわ。
許してあげる。
というよりも、これでやっとこの芝居をやめられるわ」
そして友理は両掌を合わせ言い放った。
「暗黒の杖『黒吸魔』」
友理の体からマグマのように赤く煮えたぎったモヤが、天に向かって大量に放出された。
その間、魔王はただただ状況を掴めず頭痛と闘っていた。
3分程経ったところで、友理の体から出ていたモヤは無くなった。
「はぁ……。
スッキリしたわ!
にしても、相当怒りが溜まっていたようね。
残り時間も少ないっていうのに、結構時間使ってしまったわ……。
さて、早いところ次に進めましょう!」
今までにない程スッキリと、そして元気な友理がそこにはいた。
「さて魔王、いや『ルシファー』が本当の名前で合ってたかしら?」
「……。」
魔王は頭痛を超える困惑により、言葉が出なかった。
「まぁ、無理もないわよね。
あっ、名前はチョケ川ちゃんから聞いていて知ってるのよ!
あと、すぐに信じてもらうの難しいかもしれないけれど、あなたの事を恨んだりはしていないし、戦う意志は無いわ」
「ちょっと待ってくれ、少し状況を飲み込む時間が欲しいのだが」
「ごめんなさい、そうしてあげたいのは山々なのだけど、そうも言ってられないの。
これから起こる事を要点だけ伝えるから、よく聞いて。
まず、後1分もしないうちに黒幕が現れるわ。
そこで私は戦って敗れるの。
もちろん負ける気なんてないのだけど、そういうシナリオのせいでどう足掻いても負けてしまうらしいの。
ルシファー、あなたはその間気を失ってこの戦いを見ることはできない。
目を覚ました時、チョケ川ちゃんに私の『氷炎の杖』をあなたから渡してあげて。
あの子ならそれで全部わかるはずだから!
そもそも今回の第6への攻撃、あの子が考えたことよね?
だとしたら渡すだけで、あの子なら次やることにちゃんと気付ける!
あなたも知ってると思うけど、チョケ川ちゃんは優秀だから……」
その言葉を聞き終わったとほぼ同時、暗黒の空に大きなヒビが入った。
そしてルシファーの頭痛は先程とは比べ物にならないほど悪化し、気を失った。




