14、テンプレです。
「ほわぁー」
視線の先には、人、人、人。
入国審査を待つ沢山の人々が、行列を作っていた。
城を中心とした、城下町の王都を囲む城壁は高くそびえ立ち、国の繁栄が見て取れる。
「凄いねシアン!」
「うん! でも、中はもっと凄いらしいよ」
初めての王都の賑わいに圧倒されていると、シアンが私の袖を優しく引っ張った。
「アイリス、早く行かないと、ギルドしまっちゃうよー?」
「あっ……そうだね」
私たちは入国してから、ギルドに行く約束をしていた。
ギルドの正式名称は、国立冒険者ギルド。
その名の通り、モンスターを倒し、素材を売って生計を立てる冒険者達が所属するギルドだ。
本来、貴族の令嬢が行くような所ではないのだけど、どうしても興味があった。
冒険者ギルドは、ファンタジーの王道っ!
前世でゲームの虫だった私にとっては、憧れの場所!
「楽しみー!」
ーーーーーーーーーー
貴族専用の入国待ちの列に並び、待つこと数十分。審査を受けた私は、無事に入国を果たしていた。
20メートルはゆうにある街道。その端には沢山の屋台が立ち並んでいる。王都であるだけあって、建物もレンガ造りの立派なものだ。
その賑わいは、城壁の外とは比べものにならない。
「ほわぁ……」
「少しいいでしょうかお嬢さん?」
感激していた私に声をかけてきたのは、40代程の男の人。
にこりと人の良さそうな笑みを浮かべながらも、その目つきはいやらしく、私を品定めするかのよう。
私は小さい頃から、コネクションを作るために沢山の大人と関わってきた。
そこで磨かれた観察眼は、信用できるものだと思う。
うん、この人、関わっちゃいけない感じの人だ。
「えと、ごめんなさい。私今急いでて」
「少しでいいんですから」
歩き去ろうとした私の腕を掴む男の人。その人が引き連れていた2人の男の顔も、心なしか、厳しくなっている。
「アイリスに触るな」
「待ってシアン」
「でもっ……」
「ありがと。でも、私は大丈夫だから」
すぐさま術を発動させようとしたシアンを止めると、男に向き直る。
「やめて下さい」
「抵抗しない方が身の為ですよ、お嬢さん」
「断ると言ったら?」
「……やれ。なるべく傷は付けるな」
男の引き連れる2人が一斉に飛びかかってくる。
うわぁ、テンプレだぁ……。
ラノベやゲームの話ならこんな時、カッコよさげな男の子が助けてくれたりするのだろう。
けれど、この乙女ゲームの世界は、そんなに都合良くできていない。(シアンは助けようとしてくれたけど)
まあ、それ以前に、私は助けを求めていないのだから。
男達の攻撃をバックステップで避け、たった一言。
「《水の槍》」
私が創り出した水の槍は、男の頬を掠めて飛んでいく。街中でフレイムランスなんて使ったら、大火事になるから、アクアランスにしてみたのだけれど、正解だったみたいだ。
「ヒイィッ」
「こ、こいつっ、唯の子供って訳じゃなさそうですっ」
私を襲った2人の男は物凄い速さで逃げていった。
「さて、後は貴方だけなのだけど」
「い、命だけはぁっ」
先程までの威勢はどこへいったのか、尻餅をつき、震える男。
「貴方は……奴隷商の人間かしら?」
「は、はいぃっ」
「そう」
この世界には、奴隷が存在する。
奴隷––人権が認められず、モノとして扱われる人々。
そのほとんどは、借金を返せなくなり身売りした者や、犯罪を犯した者、戦争で捕虜となったもの者だが、中には女子供が襲われて、奴隷にされることもある。
今回も、護衛もつけずに歩いていた私という獲物を見つけ、襲いかかってきたのだろう。
「アイリス……こいつ、どうする?」
「ん? どうもしないよ?でも、次私に関わってきたら……」
「ぜっ、絶対にもう関わりませんっ」
「うん、この人もそう言ってるし、大丈夫だよ」
「むー、アイリスは優しいねー」
少々不満気なシアンをなだめていると、いつの間にか男はいなくなっていた。
「逃げ足の速い……」
「まあまあ、早くギルドに行こう?」
「そーだね」
この茶番を見ていた人がいたことに、私たちは気づかなかった。
【???視点】
銀髪の少女が男に絡まれていた。
男の方は、奴隷商だろう。少女は可愛らしい顔立ちをしているし、銀髪紅眼というのもまた珍しい。奴隷商に目をつけられるのも、納得出来る。
一部始終を見てしまったというのに、このまま去るのも気分が悪い。だが、俺が今出て行ったら面倒なことになるのは分かりきっている。
此処は見なかったことにして通り過ぎるしか……。
芽生えた罪悪感に気づかないふりをして、心の中で少女に謝りながら歩みを進めようとしたその時、
「《水の槍》」
少女の魔術が炸裂した。
「うっわぁ」
大の大人に迫られようと、怯えないその精神。危険と判断し、魔術を繰り出す判断力。
とても子供だとは思えないけれど、これだけならまだ驚くだけで済んだ。
彼女の魔術を見て、驚きを通り越して恐ろしいとおもってしまった。
大幅に省略された詠唱。それなのに、一瞬で構築された術式。上級魔法であるアクアランスを、あんな子供が。
おかしい。こんなこと起こるはずがない。
思わず、自分の目を疑ってしまった。今見たものが俺の幻想だったと言われた方が、まだ信じられる。
詠唱省略。本職の魔術師でも習得出来ない場合もある最高難易度の技術。素人が習得しようと思えば一生をかける必要がある。それを、そんなものを、あんな子供がいとも簡単に?
そんなことあるはずがない。うん。俺だって出来ないのに。
もしこれが現実だったら、心が折れる。
そうだ、俺は何も見なかった。天才魔術師の少女なんて、俺が創り出した幻想だ。
ああ、きっと疲れてるんだろう。
そう自己暗示をしていた矢先、聞こえてきた会話。
「まあまあ、早くギルドに行こう?」
少女の声に返事は無かった。
ん?あの子の独り言、か?
まさか、精霊?才能ある一部の人にしか見えという、あの?
ま……まさか、流石に無いだろう。
精霊の見え、魔術が滅茶苦茶上手い魔術師となると、こちらとしても放っておけない。
「まぁ、」
あの子がギルドに行くなら、いずれまた会うことになるだろう。
「期待の新星出現、だな」
面白そうなものを見つけたと、俺の目は、好奇心に輝いていたことだろう。