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97.とあるプレイヤー達のレイド戦 side A

 

 

 セキュリティーのアクセスを受け、ロックがガチャガチャンガチャンと解除される音がしてドアが開く。照明が人が入室したことを感知してパチリと点灯する。

 疲れた身体を引き摺るように玄関に抜け、リビングのソファーへ身体を投げ出すように倒れこむ。


つっかれだ~~っ」


 溜め息とともに思わず言葉が漏れる。

 どちらかというと肉体的というより精神的なものが多い感じ。

 何であの人等はあんなに偉そうなのか。同じ営業職として不思議というか、よくあれで商売が成り立っているのか疑問でしょうがない。


「ニュース」


 私がそう呟くとTVの電源が入りニュース番組を映し出す。

 私がよく見る番組を記憶しておき、時間別に分類ガテゴライズして私の要望にいつでも応える用意をしてある。

 AIとはこうあるべきという典型的なヤツだ。


 だが、私が今やってるゲームのNPC(AI)達はナンともカンとも人間臭過ぎる。

 今日応対した商業組体コミッションの人間共よりも人々《ひとひと》しい事おびただしい。

 あれだけ人を見下した態度を取りながら何で経営成り立つの?

 直接問い質したい気分になったことも両手の指で数えられないほどだ。


 慣例としがらみと何らかの裏取引きなのだろうが、下っ端営業職の私が勘ぐったところでいいこと等何も無い。

 なので神経をすり減らす思いをしいしい接待するしか無い訳だ。


 もちろんその手のセクハラ対策に、その筋の外注アソシネーターの女性を女子社員と称して潜り込ませ隙あらば等と皮算用を取ってはいたが、さすがにそれは無いだろうなと思いながら帰り際その女子社員(仮)を連れた相手を見送った。(後日、彼女はしっかり仕事をしてくれた)


 茫洋とした目でTVを見やる。

 画面には私と同じアラサーの女性アナが視線をこちらに淀みなくニュースを伝えている。

 最近の女子アナは(昔からか)ろくに原稿を覚えもせず本番でもあるにも関わらず読み違い、途切れた挙句“てへ”と笑ってごまかす輩が殊の外多い。

 

 チャンネルが増える度、その傾向が強くなってる気がする。人材不足か、もしくは―――さっきまで相対していた社員やつの顔を思い浮かべ、つい顔を顰める。

 マスプロダクトされた嗜好ゆえの結果なのだろうと思い至り、あんな社員やろうの顔を多い浮かべるのは時間が勿体無いと頭を振りかぶる。


 どうせ思い浮かべるのならあの娘がいい。

 【アトラティース・ワンダラー】のキリー嬢が――――――




「はぁぁあっっ?異動したぁあっ!?」


 思わず大きな声を上げてしまう。いやっだってねぇ!突然いきなりそんな事を言われちゃ、そう言葉を発してしまうのは仕方ないじゃない。



 しばらくして今日でアップデートが完了すると思い出し、翌日時間が来た時プロロアの街でキリー嬢を愛でようとログインする。

 ログインすると、いつもと違って目の前に巨大な門と壁が現れる。声だけのアナウンスで様々な説明を受けナビゲートスピリットの有無を聞かれるが、今までいなくても楽しめたし特に必要と感じなかったので断る。

 何か別のもの云々と言っていたが、つい聞き流してしまった。

 そして門が開き私は光に飲まれる。


 久々の大型アプデに新人ニューカマー参入ということで混んでるだろうなぁと予測していたが、思ったほどの混雑はなかった。


「ていうか、いなくね?新人ニューカマー


 思わず考えが漏れつい口に出してしまう。

 いや、それでもPCの数は普段と比べればかなりの数だけど居はする。勧誘と取り込み目的なんだろう。

 マップペイント(うち)は来るもの拒まず去るもの追わずのスタンスを取ってるので、この手の勧誘は基本やらないこととなってる。

 たまに勘違い君がやらかすけど、ギルマスがお仕置きという名のモンスター討伐ツアーに引きずられて“申し訳ありません”といってギルドを辞めるか“お姉さまもっと”といって傾倒していくかの2つである。

 本人の意思とは違うところが笑えるが、サブマスとしては面倒がなくて大変ありがたい。


 そもそもギルドと名乗ってはいるが、そのほとんどがソロかパーティープレイでみんなで集まって何かやるというのはグライベぐらいで、他では滅多にないギルドなのだ。

  それでなんでギルドなんて作ったんだと問われれば、状況に流された結果としか言えない。まぁ、特典もあったからと言うのも否めないが。

 このゲームじゃクラウンって名称だけど、私達はついギルドと言ってしまうのはある意味習い性か。

 

 そんな事をつらつら考えながら冒険者ギルドの中へと入る。

 外とうって変わって中は人があまり居ない。

 目的が目的だからここには用がないだろうしねぇ


 さてさてここからは女子好きなマップペイントのサブマスター“ジーカ”として演じ(なりき)る事にしよう。

 どうやら私が1番乗りらしくいつもの席に座ろうと移動をするが、ちらとカウンターを見るとキリー嬢の姿が見当たらない。

 いつも見かける彼女がいないと少しばかり残念な思いもするが、すぐに戻ってくるだろう。


 彼女の姿を見たのは、たまたま掲板のスレを流し見してた時だった。

 PCが隠し撮りしたと思しきそのスクショに私は目が離せなくなってしまった。

 女の子好きを標榜している身としては当然と言われればそうなのだが、現実はノーマルな私が何の因果か惹きつけられてしまった。

 

 新入社員が社長の身分を与えられると、それ相応の意識を持つなんて都市伝説もあるから、日頃の行動が意識を左右してるのかも知れない。

 注文を取りに来た職員娘に、ホントのホントに気まぐれでキリー嬢の事を聞いてみた。


「今日はキリー嬢はいるのかい?見たところいないみたいだけど」


 いつもの飲み物を注文してそんな風に話をしてみる。


「あ、キリーさんは異動になりましたよ。皆で昨日お見送りしたんです」


 それでさっきの声を上げるに至る訳である。

 

 

 

「ど、どこに異動になったの?」


 動揺が言葉に現れどもってしまう。


「えーと、浮空大陸の人族の街?だったと思います」


 浮空大陸?………そういやそんなのがメールでアナウンスされてたような気がする。

 落ち着け落ち着け私。気が急く思いを押し留めながらメニューを開き運営からのメッセージを見直す。


「………これは迂闊だったわね」


 注文した飲み物を啜りながら呟く。うちの連中なら新エリアともなれば皆こぞって向かうことだろう。もちろんギルマスも。

 再度メニューを開きギルメンがログインしてるかを確認する。

 おー、皆いるね。ギルマスもログインしてる。ちょっと聞いてみるか。


 ギルマスの名前をタップしてチャットを選んで呼び出す。


『はい、何?今ちょい手が離せない』

「あ、ごめ〜ん。じゃあ後にするわ。ほな」


 相変わらずの言葉足らずの台詞にいつものように返す。


『いやいや、ちょい待って。結論出すの早過ぎ』


 私の言葉に慌てて遮るように口を挟んでくる。


『マスター行きます!!』

『おう!任せたっ!』


 向こうからズバババン、ドガガガンと効果音が響き聞こえてくる。

 あちゃあ、戦闘中だったか。いつもの事だと思ってつい煽ってしまった。悪い事したか?


「ごめん、本当に手が離せなかったんだね」

『いや?あーしはただ見てただけだし』


 殴ったろかこいつ………。相手するのも面倒なので単刀直入に話をする。


「ねぇ、あんた今どこいんの?」

『ん?フリーデンスのフィールドエリア』


 第3サークルエリアの北方の街か。ってことは浮空大陸には行ってないと。

 こいつ小まめにメールとかチェックしないし、案外知らないのかもしれない。


『何?何かあんの?』

「ん〜にゃ、現在地確認したかっただけ〜。じゃあねぇ』


 私は誤魔化すようにそう言ってチャットを終わらせる。

 さて、浮空大陸のゲートポータルは第2サークルエリアのカアンサかカアントの街の辺りらしいので、さっそく私もゲートポータルへ向かう事にしよう。


 1番手は無理でもギルド内なら1番手も行けるだろうし、何よりキリー嬢に会いに行かなくては。

 プロロアの街のゲートポータルは北の大通りの端に設置されていた。

 軽く職員娘に浮空大陸へのルートを聞き、ゲートポータルの場所を教えて貰う。


 プロロアにゲートポータルが出来たので、いろいろ行き来が出来る事になったので楽になるなぁと思ったが、キリー嬢のいなくなったこの街に来ることがあるのかなと思い直す。………来ないな多分。

 便利になると使わなくなるなんてのは良くある事だ。


 ある程度の消耗品を買い揃えてポータルへ向かう。

 商店通りのせいか結構人が行き交っているが、ポータル付近には人が誰もいない。

 私はさっそくゲートポータルを潜る。すると行き先のホロウィンドウが表示される。


 マップペントなどと名乗ってもさすがに全部の街は行ってなかったので、エルフである私は東のカアントを選ぶ。

 光りに包まれ周囲が白く染まり、やがて光が飛び散り景色が現れてくる。

 カアントの大広場へと転移した私は冒険者ギルドへと向かう。

 浮空大陸のゲートポータルはフィールドエリアのどこかにあるという話なので、ある程度の情報を手に入れようと思ったのだ。


 掲板や攻略スレを見ればいいんだけど、それじゃ面白くない。

 私達は彷徨ってこそのワンダラーなのだから。

 狐耳のギルド嬢と楽しく語り合い情報を手に入れる。


 カアントの街はお約束通り頑丈な石造りの壁に四角で囲まれていて、東西南北に街道に面した門がある。

 街並みはプロロアの街を大きくした感じだ。人族ばかりでなく色んな種族のPCが街の通りを行き交っている。

 ギルド嬢――――ナリィの話によると街から出ると件の大陸が見えるので、そっちに向かって進むとゲートポータルがあるそうだ。

 南の方の空に浮かぶ物があるらしいので、南門を出て道なりに南に向けて歩き始める。


 あ、あれか。確かに遥か南の上空になにやら四角い物体が浮かんでいるのが見える。

 右手を目上に翳しそれを見やる。【千里眼】スキルを使っても霞んだ様にしか見えない。

 諦めて再び歩き始める。どうやら私以外には、浮空大陸に行くPCは誰もいないみたいだ。

 あるいは西の方から行ってるのかもしれない等と考えに耽けながら進むと、ちょうどエルフの街フォレステアとの中間地点の街道を少し逸れたところにそれはあった。


 浮空大陸の大きさはさっきと全く変わらないのだが、おそらくこれがゲートポータルなのだろう。

 大きさは10m程の大理石の様な艶やかな白い石造りの巨大な鳥居の形をした建造物だった。

 円柱ではなく四角柱のその先には、幅3m程の先が途絶えた白亜の石造りの階段が東へ向かって伸びている。


 喉をコクリと鳴らし息を呑む。初めて場所というのはいつでもどこでも緊張するものだ。

 浮空大陸への移動手段としても、ここでイベントが起きるだろうことはゲームであれば当然のことだからだ。

 Lv50から移動可能とあるので私レベルのPCであれば、戦闘になったとしても余裕でクリア出来るだろう。

 私は少しばかりの緊張を身に纏いつつ、ある程度の心の余裕を持ってゲートポータルへ足を踏み出した。

 

 

 

 私はエルフの街フォレステアの寂れた酒場で項垂れていた。


「何あれ~………。ないわ~、あれはないわ~」


 緊張しつつ余裕綽々(なんじゃそりゃ)で歩を進めると、ものの見事にイベが始まる。

 お約束の音楽にお約束のフィールドが出現し、エリアボスクラスの大きなモンスターが現れてくる。


[ボーナスイベント:門番《ガードナ-》を倒せ!!]


 Lv100程のハゲワシの姿をした巨大な飛行タイプのモンスター。私より格下の魔法持ちの私にとっては造作のない相手だった。

 火、水、土、風と名の付くそれを次々と倒し、屍を残しているのを不思議に思った時、その4体が4色の光の粒子と化しひとつに集まると、一瞬周囲がフラッシュの如く眩しく瞬く。

 そのすぐ後にドズズズゥゥンという音と振動と共に最後の敵が現れる。


 4色のハゲワシの頭がついた更に巨大になったモンスター。

 4属性の魔法の連続攻撃に対応しきれず、私はなす術もなくあっさり敗れてしまった。

 幸いデスペナにはならずに済んだが、アイテムと装備がボロボロになってしまった。くたびれた私は再戦を断念し街に入り、ここで自棄酒をあおってる訳だ。


 掲板を眺めていると、浮空大陸関連のスレが立っていて、すでに大陸に入っているPCもいる。

 内容を読んでみると、1体(・・)だけの魔法属性のモンスターが出現しパーティーで倒したとある。

 それらを見て推測できたのは、Lv100以上とそれ以下のPCでは難易度がガラリと変わるということだった。


「運営のアホ―。何でやねん」


 酸っぱい酒をクイッと一気にあおる。すっぱぁ〜〜っ。


「おっちゃん!おかわりっ」

「い〜かげんにしとき、ジーカちゃん。身体壊すで」


 そう言いつつお代わりを私の前に置いていく。シブいぜ、おっちゃん。

 軽くほろ酔い気分に浸りつつ、攻略法を模索する。


 いつもならしゃーないかぁと諦めもするが、あそこにはキリー嬢がいるのだ。行かない訳がない。

 そもそもソロで行こうとしたのが間違いだったのだが、されどうちのギルメンでパーティーを組んてやったとしても行けるかどうか怪しい。


「レイド組むしかないか………はぁ」


 仕事でなら人付き合いも苦も無くやれるのだが、プライベートとなると少しばかり尻込みしてしまうのが私だ。

 なら何でMMO(こんなの)やってんのかと問われれば、1人(ソロ)でやってても楽しかったからだ。

 何でか私の周りに人が集まってきたんだよなぁ。どっちかというとギルマスにか。


 しばらくうんうん唸って考えた後、メニューを開きフレンドリストの3枚目をスライドさせてその中の1人に連絡をする。


 そうファンクラブの連中に―――――

 

 

 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます


明けましておめでとう御座います

本年もよろしくお願いいたします


長くなりそうなので区切ります

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