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96.調査活動報告覚書 No.2

 

 

 こちらに迫り襲い掛かってきたワイルボーアを盾で押さえ込み叩きつける。


「ボッフゥ!」


 気絶《スタン》状態のワイルボーアにフブキが火魔法を放つ。


「“ファイヤビット”」


 フブキは8本の脚を駆使し、すばやく動き回り魔法で攻撃していく。

 HPゲージが半分ほど減ったところで、片手剣で斬りつける。


「ボッフォォ」


 ワイルボーアがひと鳴きして光の粒子と化して消えていく。


ピロコリン

 [プレイヤーレベル が 15 に なりました]

 [【剣】スキル が 12 に なりました]

 [イミットアーツ “ピアースバッシュ” を おぼえました]


 剣を鞘へ納めふぅと息を吐く。


「サージ様。お疲れ様です」

「ああ、フブキもよくやってくれた」

「いえ、当然のことです」


 目の前に掲げた右腕にスタリと飛び乗ったフブキが労いの声を掛けてくる。

 このゲーム(せかい)は私の心を何とも不思議な気分にさせてくれる。

 現実の世界とはまた違った光景は、脳内に映し出されているとは思えない程の現実感をこの身に与えてくる。


 時には自分はこの世界の人間なのでは等という錯覚を起こさせる事もある。それ程リアルなのだ。

 それは目の前に広がる光景ばかりではなく、街中に存在するNPCにも言える。

 会話を交わしても違和感というものが全くと言っていいほど無いのだ。心理的会話術を使い話を振ってみても、その人物の性格が垣間見えてくる。NPC(AI)だというのに。

 とは言え街の全ての住人と話をしたわけでも無く、屋台や店先での会話だけでもこれなのだ。

 どれだけの性能のAIであるかなど、自ずと見て取れるというものだ。


 特にアテンダントスピリットのフブキと会話をしてると顕著にその事が認識させらる。

 始めの頃は拙かった会話も数日のうちに流暢となり、次第に親愛の情というものを感じ取れることができる様になった。

 私をマスターとして敬い慕ってくるのだ。その情愛《こころ》に私も応えねばという思いが生まれてくる。特殊訓練で精神を鍛えられてきた私がだ。或いはその様に脳内で操作されているか。いや、それは穿ち過ぎか。


 彼女の事を視ているだけでも、もはや調査の必要も無いと思うほど、このゲーム内(せかい)のAIの有用性が判るというものだが、現在はそれ以上調査が進展していないという現状にある。

 カセベ(仮名)が言うには、使用しているHMVRDのシステムとこのゲームで使われているシステムが別物ではないかと言う事だ。


 私はその時思わずその言葉に疑問を持ってしまった。そうだろう。同じシステム(プラットホーム)でなければ、そもそも動く事も出来ない筈なのだ。

 私はそのことを確認すると、カセベ(仮称)は仮定ではあるが、一種の翻訳ソフトや解凍ソフトの類を通して動かしてるのではないかと予測していると答えてきた。


 だが、それだと行程が1つ多くなるのだから通信速度にタイムラグが増えて動きが鈍くなるのではと聞いてみたが、カセベ(仮称)は現在のところはお手上げです~と両手を上げて降参のポーズをとっていた。

 あるいは現物(サーバーCP)の接収も視野に入れておくべきかもしれない。


 私は心のメモリーボックスにこの事を記載しておくことにする。

 結局はこのまま調査を続行し、調査を進めていくことになった訳だ。


「さて、剣と盾のレベルも上がったが、次はどうすべきかな」


 私は呟くように言葉を漏らす。


「皆様とのレベル差が5程あります。一旦街へ戻りモンスター討伐の依頼を請けることを推奨します」


 私の呟きにフブキが律儀に答えてくれる。思わず口元が緩んでしまう。……私はこんな人間だったろうか。

 フブキも何故か私に似てきたように話し方が報告口調になっていた。

 私自身気を付けていたと思っていたのだが、彼女の話し方を聞いてるとその様な傾向もあるのかもとつい考えてしまう。


「では、街に戻ることにしよう。満腹率も減ってるしな」

「了解です。索敵を開始します」


 私の腕から肩へと移動して周囲の警戒を始める。

 私はクスリと笑みを浮かべ、街へと向けて足を進める。


 現在私と他の9人のレベルが少しばかり離れ過ぎているとのことで、正月を返上してゲームをしている訳だ。

 この計画も表立って行っているものではなく、私自身他の業務を兼務しながら活動しているので、彼等と行動を共に出来てない状態だった。


 どうやら彼等はVRの活動時間限界までプレイしてるらしく、レベルは離されるばかりだった。

 その都度ミーティングを行い支障らしい支障はないのだが、リーダーの私が足手まといというのは些かいただけない。

 というか彼等が仕事にかこつけてゲームを遊んでるような気がするのは私だけだろうか………。


 確かに報告書の提出は為されているが、数人はレベルアップの情報や、スキル、アーツの報告とその性能などを事細かに記載していて、まるで調査の主旨と違うのではないかと思ってしまう。

 まぁ、それはそれで必要なデータであるので黙認しているのだが、やはり遊ん(たのしん)でいるんだろうな。

 私も人のことは言えないので報告書に関しては、ある程度注意しておかねばと頭に留めておくことにする。


 そんな事を考えながら歩き続けるとモンスターと会敵すること無く プロロアの街へと辿り着くことが出来た。

 巨大な東門をくぐり拔け街の中へと入る。

 アップデートから数日経ったが、変わらず多くのPCが街中を行き交っている。

 現実時間では真夜中を過ぎているというのにだ。

 だが己もその中の1人と考えれば、そんなことを言う資格もないのだが………。


 現実の時間とは真逆に明るくなりつつある空の下を歩いていると、フブキが声を掛けてきて路地の方へと指を差す。


「サージ様。あちらへ多くの人達が入って行きます。何かあるのでしょうか」


 そう言われ改めて立ち止まりその路地を眺めていると、確かに数人のPCが路地へと入っていく姿が何度か見ることが出来た。

 逆に路地から出てくるPC達も現れてくる。

 一体何があるのか少し気になる。

 聞くことなしに彼等の会話が耳に入ってきた。



「結局いなかったよな。注文取る妖精とか運んでくるウリ坊とか」

「冒険者の従魔《ツレ》だから、来る時来ない時あるっておやっさん言ってたじゃん。でも料理は当たりだよな、あそこ」

「すっげぇ、美味かったよな。また食いに行こ―ぜ」

「俺シチュー押しな」


 そんな会話を通り過ぎたPC達が交わしてるのを横目に、私はフブキと顔を合わせ互いに頷く。


「サージ様」

「ああ、行ってみよう」


 彼等の言葉に興味を惹かれ、私達は路地へと足を進める。

 どこに向かうかと少々不安であったが、人が行き交う中を辿るとそこへと到着する。


「ここは………」


 そこは現実で言えば〇〇商店街と名前が付きそうな通りであった。

 マーカーを見る限りではNPCがPCより多く行き交っている感じだ。

 しばらく通りの様子を見ていると、フブキが声を掛けてくる。


「サージ様、あそこです」


 フブキが指差したところは、特にPCの出入りが激しいところであった。そこから香しい匂いが漂ってきている。


「行ってみるか」

「はい!」


 中に入るとちょうど席が空いたので、そこに座るとエプロンをつけた少女が注文を取りにやって来た。


「いらっしゃいませ!メニューはシチュー、スープ、カレーのセットメニューとから揚げとポテトフライの一品メニュー。あとエールです」


 マーカーを見るとPCのようだ。


「フブキは何にする?」

「私はから揚げというものを食べてみたいです」


 別のテーブルでPCが食べているものを見てフブキがそう答える。

 そういやシチュー押しとか言ってたな。


「から揚げとシチューのセットを頼む」

「まいどー」


 注文したものが書かれた木札をテーブルにおいてカウンターへ行ったかと思うと、すぐに料理を持ってやって来た。早い。


「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ~」


 そう言って店員は別のテーブルへと向かっていく。

 目の前に置かれた料理は中位の皿に山盛りのから揚げと、籐製の籠に大振りのコッペパンの様な物が3つ、そして深皿にゴロリと大振りな野菜の入ったブラウンシチュー。


「では、いただこうか」

「はい、いただきます」


 フブキがから揚げをひとつプスリとフォークで刺して一口齧る。

 もぐもぐと租借した後、にへら~と蕩けそうな表情に顔が変化する。


「おいひ~です、サージ様」


 ふにゃふにゃした顔で私を見てそう言ってくる。顔もその事を物語るような表情をしている。その後フブキはひたすらから揚げへと意識を集中しだす。

 私も野菜をスプーンで小さく崩してシチューと一緒に口にする。


「っ!」


 よく煮込まれ柔らかくなった野菜とブラウンシチューの旨味が口の中一杯に広がっていく。うまい。

 普段食生活にこだわりがない私が言うのも何だが、現実の料理と比べても何の遜色もない、むしろゲーム(ここ)の料理の方が美味しく感じてしまう程だ。

 矢継ぎ早にシチューを口に入れる行動を繰り返し、ふと我に返り今度はパンを1つ手に取る。

 パンを半分に割りひと口齧る。柔らかな食感のそれは口に入るとふんわりとバターの香りが鼻孔に広がり、柔らかさの中にもある程度の噛みごたえがあるので、幾度か噛みんだあと飲み込む。

 こちらも悪くない。美味い。次から次へとパンに齧りつく。


「フブキ、パンも美味いぞ」

「はい!サージ様いただきます」


 私が割ったパンの残りを差し出すと、フブキは嬉しそうに受け取り齧りつく。

 2人で料理をシェアしながら全て綺麗に食べ終わってしまう。この事に少しだけ名残惜しく思ってしまう私がいる。混んできた店内を見て再度注文するのは諦めることにする。

 また来ればいいのだ。確かにこの店は当たりだな。


 店を出て少しばかり興味を惹かれたので、商店街の中を見て回ることにする。

 もちろんNPCの調査の為である。データは多いことに越したことはないのだ。

 その後はレベル上げの為、モンスターの討伐のクエストを受けることも忘れない。


 レベル上げをある程度終えた後、街へと戻りログアウトをしライドシフトの後HMVRDを外し現実世界へと帰還する。軽く仮眠を取ってから再度HMVRDを被りライドシフトをする。

 VRルームへと入り、すぐにメニューを開きミーティングルームへとログインする。


 国家防衛を担う役職上セキュリティーは最高レベルのものとなっている。そこには既に今回の計画の参加者である9人が揃って席に座っていた。


「遅れたか?」

「いいえ〜、丁度いい時間です〜」


 立ち上がろうとした皆を手で抑え、遅延の確認の後席に着く。

 会議室の様相を呈したそこは、コの字にテーブルが配置され中央に私とカセベ(仮称)そして左右に特防隊の出向隊員が4人づつ席に座っている。


「では報告会を始める」


 私がそう告げると突然全員が頭を下げ謝りだした。


「「「「「「「「申し訳ありませんでした!!!!」」」」」」」」


 その様子に一瞬呆気(あっけ)に取られたが、すぐに冷静さを取り戻し理由を尋ねる。


「その謝罪は一体どういう事なんだ?カセベ(仮称)」


 この計画において彼らが謝るような重大なミスを犯したのであれば修正をする必要があるのだ。


「え〜と………実は……エリア踏破率を超えたらしくて、エリアボスを皆倒しちゃいまして〜……」


 チラッチラッとこちらを伺うように皆が私に注目している。なる程、要は私を除き自分達だけが先に進んでしまったことへの謝罪ということか。

 特にミスでも無い事に少しだけ安堵し、表情を変えぬまま私はそれに応える。


「その事についてはフブキから情報が来ている。私の都合のせいでもあるので気にしなくて構わない」


 私の言葉に全員の意識が安堵で弛緩するが、今後の事もあるので警告の意味も含めて厳し目に釘を刺しておくことにする。


「ただし、この様な出来事やアクシデントが発生した場合、すぐに報告しろ。2度は言わぬ、分かったな!」

「「「「「「「「サー!イエッサーッッ!!」」」」」」」」


 左右の8人が立ち上がり敬礼をしてくる。

 カセベ(仮称)は背中を丸めてフィ〜と息を吐いている。私はギロリと彼を目を細め睨《ね》めつける。


「お前もだ。少しは気を引き締めろ。それと例の研究所はどうなってるんだ?」


 私の視線にビクリと肩を震わせつつ言い訳するように話を始める。


「え〜と、ブロンズの奴等使って侵入《ハック》させたんだけど〜。セキュリティが堅くて、まだ何の進展もしてないですね〜。こっちはシステムは問題ないけど〜、やったら堅くて厳し〜から、シルバー………ゴールド辺り導入しないと無理かもです〜」


 ブロンズとかシルバーとは確かハッキングのレベルので色が変わることでその技量レベルがかなり違ってくるらしいが、そちらの進展もないとなると、直接交渉《ちからづく》で行動を起こす必要があるかも知れない。


 これは上司から実働部隊に話を通す必要があるだろう。

 どういう手段を取るにしても、こちらは今迄通りの調査をするしか無い。

 東西に分かれて行動する人員を決めながら、どのように報告書を纏めるか頭の中で組み立て始める。

 

 

   *

 

 

 

 宇宙空間を模した虚空の中を3つの機体が編隊を組み宙を駆ける。


「アプ姉きたよ。AP489−nc‐00129。全部で48あ、分裂。110592に増殖。1STスタイトレスポイントまで150」

「OK。メインはそのまま索敵を続行。周囲の警戒を厳に。ハイド&シークの怖れもあるから注意」

「了解。警戒続行」

「アプ姉、あたしは撃っちゃっていい?」

「まだ。ポイント50まで待機」

「えー……りょーかい」


 面倒臭がりのジュネが一挙に始末をしようとアプ姉に問うと、すぐに冷えた言葉が返って来て、しぶしぶ了承する。

 あたしもどちらかと言えばジュネに同意したいところだけど、アプ姉の冷たい視線に晒されるのは御免被りたい。


「ポイント到達まで80。他異常なし」

「迎撃準備《カウンタープリーズ》」


 あたしが距離を告げると迎撃準備の言葉と共にアプ姉の乗る攻撃機《カプセルアタッカー》の周囲に生み出され(くまれ)たミサイル(プログラム)が次々と出現してくる。

 その数110592+1。

 あたし達が乗り込んでいるそれは、上部がクリアパーツで施されたまんまカプセルトイの形をした丸い戦闘機になる。

 ただ形は同じであれど、それに付いてるオプションはそれぞれ違っている。


 あたしが乗ってる5号機は中華鍋の様なパラボラアンテナを2つ下に並べて付けられ、左右には広域探査用のフラットアンテナが横に設置されている。

 姉のアプレア機には針鼠のように中距離用のパルスガンやガトリングガンが幾つも取り付けられている。

 妹のジュネの機体には、大容量エネルギーパック搭載の荷電粒子砲"もどき”が下部に、背部には巨大な盾が据え付けれれている。


 これはあたし達が対侵入者(ハッキング)対策の1つとしてヴィジュアライズ化したものである。

 その方が分かりやすく対応し易いとの理由で為されている。

 キーボードを手にちまちまやるのはあたしの性に合わないし、思考操作なんかごちゃごちゃして混乱する。


「1stスタイトレスポイント通過まで50」

「攻撃《アタック》」「ほ〜い」


 アプ姉の合図と共にジュネが砲撃を開始する。発射された極太のエネルギービームはその力で半数近くを抹消していく。


「残り45000。さらに増殖。89240。ダミーとデコイ有り」

「OK。迎撃ミサイル(カウンタープログラム)発射《ファイヤ》」


 アプ姉の言葉に意思を持ったかのように周囲にあったミサイルが次々と飛び出していく。そして全滅。


 最後に飛び出していったミサイルが出現ポイントへ向かい消えていく。相手のラインを遡る。攻性追跡ミサイル(ハウンドチェイサー)だ。

 辺りは静けさを取り戻し、あたしは異常のない事を確認する。

 ひとまず今回の攻撃は終わったみたいだ。

 あたし達は緊急警戒モードを解除し、武装を解く。

 あー、疲れた〜。


 モードを解除すると、今まで乗っていた機体や空間が掻き消え、そこにはあたしとアプ姉とジュネが立っていた。


「さあ、報告に行くわよ2人共」


 アプ姉の声にあたしとジュネは「は〜い」と返事をして後へと続く。


「それとその変なコス変えなさい」


 変なゆうな。今のあたしの服装はSFチックなレオタードに絶対領域の太股までのブーツ。後はライフジャケットもどきを着ている。2人は研究所で来ている制服だ。あたしも已む無く2人と同じ服へと変更する。


 あたし達が今迄いた部屋を出て、白いリノリウムの様な通路を進み、突き当たりにあるドアへ向かう。

 そのまま止まること無く突き進むと、ドアがスッとスライドし部屋へと繋がる。


「お疲れ様」「乙」「おかえりなさい」

「おそい」「お茶淹れるるわねぇ」「………」

「はやくしよ〜よ」「おなかすいた〜」「………zzz」


 9者9様の応対であたし達を迎えてくる。

 あたしが言うのも何だけど自由(フリーダム)過ぎるよな、みんな………。


 あたし達が席に着くとジューラ姉が紅茶を淹れてくれたので、それを飲みながら他愛無い話と今の戦闘?の報告をしてると、ドアが開き1人の男性が入って来た。


「すまん、遅くなった」


 現実と同じ姿をしたこの男性《ひと》はキザワ シンゴと言って、このAI研究所の所長であり、あたし達を開発《うみだ》した父さまでもある。

 現在このAI研究所ではあたしを含め12人のAIが1部の運営を担っている。

 姉妹とはいうが、全て同時期に開発され(うまれ)たのだけど、シリアルナンバーの順でそう言っている。またそう言う性格付けもされている。


 上からジャンヌ、フェブリラ、マーシェ、ジューラ、オガスティア、セプティア、アプレア、メイン(あたし)、オクトゥラ、ノーヴェ、ディセリア。

 父さまと4人のデザイナーによってとある場所から入手したベースAIを元に組まれたのがあたし達だ。

 月の名称をもじった名前のあたし達は3人1組の4チームで活動している。そして四季をもじってチーム名としている。

 そのあたしのチームの主な仕事が、対外攻性に対する防衛迎撃任務となっている。


 あたしとしてはやって来た奴等は徹底的に潰してしまっても良いと思うのだが、姉達にやめろと言われる。ノーヴェにはいつも過激だねぇと笑われている。

 父さまはアラサーなので、あたし達が父さまと言うと困った様な嫌な顔をするので、普段はマスターとかドクターとか言っている。

 いない時は父さま呼びだ。


 よれよれに白衣を揺らしながら父さまが席へと着く。VR内(ここ)ではせめて格好いい姿にすればいいのにとも思うけど、基本面倒臭がりなので気にも留めないのだろう。ちょっとお疲れ気味のようだ。

 ジューラ姉が父さまの前に緑茶と饅頭を置いて席へと戻る。

 父さまがそれを啜り、饅頭をパクリと旨そうに頬張る。


 そして報告会が始まる。ここのところ頻繁にハッキングされている事についての事が議題だ。


「この1週間で89(しんにゅう)行為は270。969《はかい》行為も10確認されています」


 ジャンヌ姉が代表して父さまへ報告している。

 さっきまであたし達が撃退していたのもまさしくソレだった。

 回を重ねる毎に執拗にねちっこく、虚実織り交ぜてくるので結構厄介だ。


「89《ハッカー》の身元の調べはついてるのかい?」


 ひと息ついた父さまがジャンヌ姉に確認するように問い掛ける。


「8割方の人物の特定は出来ましたが、何故彼等がここに手出ししてくるのかが、その目的(りゆう)が判断できないでいます」


 そうしてホロウィンドウを父さまに見せて調査の結果を表示している。そのほとんどが警察に検挙され書類送致で解放されている。1部は実行刑を受けても良さそうなのに、これも執行猶予付きと来たもんだ。

 父さまがそれ等を眺め一つ一つ精査するように見てポツリと呟く。


「司法取引か………」

「っ!マスター。では相手は―――ー」

「十中八九、多分な………」


 ジャンヌ姉が父さまの呟きに何かを理解したようで、確認のため聞き返すと父さまは頷き答えを返す。

 姉(ジャンヌ、フェブリラ、マーシェ)3人が表情を引き締め真剣な面持ちで父さまの言葉を待っている。

 あたしには何が何だかである。


「ふぅ、今すぐ何が起こるという話ではないと思う。だから89や969に対しては今迄通りの対応としておく。皆も大変だとは思うがよろしく頼む」


 1人1人を見ながら父さまがそう言ってくる。

 それぞれが力強く頷く。

 皆父さまが好きなのだ。もちろんあたしも。

 そして、じゃあなと言って父さまが部屋を出て行った後、あたし達で対策を講じることにする。


 ハッキング(やってきた)連中に逆撃《ストライクバック》のプログラムを組み上げ反撃の準備。

 父さまからも連絡が行くと思うけど、あたし達からも“あの人”に連絡をしておく事。

 あたし達の周りを巨大な暗雲が立ち込めてくる。

 どの道あたしがやれるのははやって来た奴等を倒す事だけだ。


 などと決意を固めていたら、ジャンヌ姉に事務作業の処理を頼まれる。………あんま得意じゃないんだよなぁ、これ。

 

 

 

 

(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます


今年1年お読みいただきありがとうございました

良いお年を ビシッ(ー△ー)ゞ

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