95.エリアボスの強さに少し涙する
ピンと上方につき伸びる2本の耳。ふわふわの白い毛皮を纒う筋骨隆々の肉体。
両腕には鋼鉄製の肘まで覆うやたらと厳つい手甲。以前より少しだけ?ゴツくなった気がする。
あれで殴られたら1発で死に戻りしてもおかしくない感じだ。
いや、絶対する。覚悟して掛からないと命がない!
タラーリと背中に流れる汗を感じながら、2度目の矢を放つ準備をする。
1度目は軽く横に払われた手甲に弾かれた為、次の矢は普通の矢を放つことにする。
それも泰然自若と佇む姿は名前の様に王者の風格を漂わせている。
姉やラミィさんも攻撃はするが、躱されたり弾かれたりと攻めあぐねている。
とにかく隙がないのだ。ってか前より強くなってない?
突破口が開かれたのはなんとコンドォーさんだった。
地を這うような低い姿勢で駆け走りながらカンムリラビットへ接近し、足元へ来るとドンと地面を踏みしめたその勢いを水を肘に纏わせ集中させカンムリラビットの膝へぶちかます。は、八〇拳っ!?
ドギャッと音を響かせバランスを崩したカンムリラビットの身体が傾ぐ。態勢を整えようと逆足を踏ん張ろうとしたカンムリラビットのその足元がボコリとへこみ、バランスを完全に崩して倒れ込む。
「やったのですっ!」
「“アクアヴォルテっっ!!”」
水の形をした雷の群れがカンムリラビットへ降り襲いかかる。
狙い過たず倒れたカンムリラビットへ命中する。
『グギャギァアアッッ!!』
叩きつけられなぶられ叫び声を上げるカンムリラビット。
「“ライジングウィップ”!!」
紫電を纏った雷鳴の鞭がその上へと振り下ろされる。
ドンッ!バチバチバチィ―――――ッッ!!
『ギャグギャァアァアアッッ!!』
これで2本あったHPゲージの1本が消える。
「目を狙ってなのです!」
「行きます!」「やりますっ」「やる」
レリーさんとエレレさんとアトリが近づき攻撃しようとすると、カンムリラビットが咆哮を上げる。
『グアラララァララッッ!!』
すると紅い衝撃波のエフェクトが物理攻撃を伴って周囲へ撒き散らされる。3人がそれに飛ばされてしまう。
「くっ!!」「ありゃああぁ」「ななな」
衝撃波に弾き飛ばされた3人をそれぞれ回収して、改めてカンムリラビットと対峙する。
「何か前より強くなってない?これ」
「たぶんなのですが、パーティー人数かLvが関係してるかもなのです」
「それだけではないように思います。あるいは―――」
僕の呟きにララが思い付いたことを答えレリーさんが別の事を言おうとした時、カンムリラビットの咆哮が再度轟き紅の衝撃波を周囲に撒き散らすと、その姿が紅く変化していった。
「スタイルチェンジなのですっ。飛び上がり攻撃に気をつけてなのですっ!!」
衝撃波と散らされる砂や石を両手で防ぎながら思わず心の中で叫んでしまう。
もうこれ、最初のエリアのボスとかじゃないよねっ!
4人がカンムリラビットを囲むように対峙してるので、おそらくその誰かへと攻撃すると思うのだが、誰に向かうかは予測がつかない。
両足をググッと縮めドンと音を立てて上空へと飛び上がる。
ググンと紅が空を駆けその影がすいっと移動してくる。
はい――――――っ!僕のとこにですっ!!
前の時にここら辺の攻略は出来てるので、カンムリラビットがさっきまでいた方向へと全力疾走する。
駆け出してすぐさまドゴォォオオンという音と共に衝撃波が僕の背中へ襲い掛かり、勢いと共に吹き飛ばされてしまう。
「うぉぉおおおっっ!」
受身を取りごろごろ転がり、膝を突きつつ後方を見返す。
抉り取られた様に地面が砕かれクレーターのようになっている。その中心いる紅のカンムリラビットがのそりと立ち上がる。
「………………(汗)」
あっれぇー。硬直とかしないんですかぁ?ちょい酷くない?これ………。
そんな事をぼやっと考えていたせいで、目の前にやってきたカンムリラビットに反応が遅れる。
「っ!!」
振りかぶった右拳がゆっくりゆっくりこちらに突き込まれ――――――――
「“ウィンドカッタ”」
『グガァッ!』
定位置にいたアトリが、風魔法をカンムリラビットの目へと浴びせる。
攻撃を受け技がキャンセルされカンムリラビットがのけ反る。
その絶妙なタイミングに助けられ、不格好な姿を見せながら転がり逃げる。あっぶなーっ。
ドッドッドと高鳴る心臓を感じつつ、アトリにお礼を言っておく。
「ありがとなアトリ。助かった」
「おけ」
「ラギく〜〜〜ん!どぉーするぅ〜?」
何度か大ジャンプ飛び込み攻撃と接近攻撃をヒィヒィ言いながら躱していると、姉がそんな事を聞いてくる。
このカンムリラビットの攻撃を皆で固まっていると、巻き添えでダメージを食らう恐れがあるので4人でバラけて戦おうと事前に決めてあったのだ。
何故か僕にばかり攻撃を仕掛けてくるので、大体のパターンと距離感は掴めてきた。
ならば僕が囮となってカンムリラビットの注意を引いてる間に皆に攻撃して貰うのがいいだろう。
僕の考えを皆に伝えてもらうようにララにお願いする。
「ララ、僕がカンムリラビットの注意を引きつけるからその間に皆に攻撃してくれるよう伝えてくれる?」
「わかったのです!行ってくるのです!」
「ウリスケもサポートに回ってくれる?ここは僕とアトリでやってみるから」
「グッグッ!!」
そうして2人がバラけて散って行く。そして上空からの落下音。ヒュウ―――――ンってどんだけ飛び上がってるんだか。
何度か繰り返された結果分かったのは、僕に大ジャンプ攻撃、僕に接近攻撃の繰り返しということだ。
その都度ダメージを回復させながら、カンムリラビットの大ジャンプを見て影の移動を確認してから攻撃範囲ぎりぎりの場所まで移動して防御姿勢をとる。
「アトリもよろしく頼むな」
「おけ」
ドガゴオォォオオンッ!!
衝撃はと石飛礫がやって来はするが、ダメージはそれほどでもない。
すかさず僕はカンムリラビットへ突進し、イミットアーツで攻撃をする。
「“スクリュー・ブロウッ!!”」
繰り出した右ストレートに風の渦が纏いその威力を挙げながらカンムリラビットの右肩へとヒット。さらに左アッパーをその脇腹へ食い込ませすぐに離脱。
『グッガアアッッ!!』
わずか1秒ほどの硬直タイムに2撃を与えられカンムリラビットが叫び声を上げる。
「“ウィンドカッタ”」「“ウィンドカッタ”」
アトリが離脱の合間に風魔法をちまちま放って行く。
カンムリラビットがそれを手甲で弾く。
ちっ、やっぱりあの手甲は厄介だな。
そして間隙を縫うようにラミィさんが後ろから鞭で左足を攻撃し、すぐ退く。
そちらに視線を向けようとすると、僕が近付き右肩を攻撃。すぐ退く。
こちらに攻撃を仕掛ける前に、姉が連続攻撃と3人でヒット&アウェイを繰り返す。
前後左右に翻弄され、カンムリラビットのダメージが蓄積されていく。
そしてアンリさんの水魔法がカンムリラビットを貫く。カンムリラビットがぐらりと揺らめく。
残り3割にHPゲ-ジが減った瞬間、ドドンとカンムリラビットから音が響くと赤かった毛皮がさらに紅く光彩を纏いグググッ身体がひと回り大きくなって行く。
いやいやいやいやいや、さすがにこれは無いでしょ~~~~ッ?
カンムリラビットから吹き付けられてくる突風を両腕で庇いながら腕の間からその姿を垣間見る。
首周りと肩の筋肉が盛り上がり、腕と足が少しだけ引き締まるスタイリッシュなる。
手甲がゴトリと抜け落ち両手があらわになる。見ただけで剣呑極まりないものと理解する。
突風がやむと紅く朱く光る眼がこちらをギンと見据え貫くように刺してくる。
どう見ても僕がターゲットなんだよなぁ………。その武道家の如き佇む姿に覚悟を決めて、息をひとつ吐き構え対峙する。
うっわ~~っ。じーちゃんと相対してる気分になってくる。存在感半端ねぇ~~。
じりじりとして気持ちを抱えて待ち構えていると、カンムリラビットの身体が微かに動いたかと思うと、ラミィさんアンリさん姉の声が打撃音と共に聞こえてきた。
「ぐあっ!!」「あうっっ!」「にゃっっ!!」
うおっ、残像しか見えんかった。
元の位置に戻ったカンムリラビットと倒れこむ3人――――いや、姉だけは辛うじて防御したけど、片膝を着いて座り込んでいる。
ラミィさんとアンリさんは死んではいないが、打撃以外の何らかの攻撃を受けて状態異常に陥り動けないでいる。
アテンダントスピリットの皆はそれぞれのマスターの傍で困ったような表情で佇んでいる。
ひぃえ~~っ!姉を一撃で跪かせるとは…………やばいことこの上ない。
「アトリ、ちょっと離れてくれ」
「や」
「………………」
カンムリラビットの強さを再認識した僕は、頭の上のアトリへ退避する様に言うが拒否られてしまった。……たくっ。痛い目にあって知らないぞ。今の僕にそんな余裕は無いのだ。
呼吸は―――――――ゲームだから無理か。感じられない。ならカンムリラビット全体を視野へ捉える。出来た。
僕自身は呼吸を整える。スーハースーハートントントン。
身体が馴染んだ受け攻めの構えを取る。
そこへ5、6m程あった距離を一瞬にして縮めカンムリラビットの右拳が襲い掛かってくる。
振り降ろし気味の右ストレートを到達点が来る前に踏み出し左手で内側にいなし(おもっ!)嘗底を顔面へ当てようと突き出す。
しかしこちらの狙いを見透かす様にいなされた勢いのまま、くるりと回転しそのまま裏拳を左で放ってきた。
唸り音を上げ迫る拳をしゃがみ込んで躱す。あ、アトリ。
「“ウィンドカッタ”」
僕がしゃがむ前にアトリはヒョイと飛び上がり拳を避けたと同時に風魔法を放つ。
『グッガアァ!』
魔法が顔面に命中し、のけ反るカンムリラビットの腕を取り、背面投げでうつ伏せ気味に地面へ叩きつける。
今まで退避していた2人に追撃を頼む。
「ララっ!ウリスケっ!」
「はいなのですっ!“グランバレット”」
「グッグッグッグッ!」
ララの土魔法が命中し、ウリスケがジャンプして錐揉みボディアタック。
『グヒャギャラララァァアアアッ!!』
僕は少し離れたところから弓を構え魔力矢を番え残りのMPを全部込めて、よろよろ立ち上がったカンムリラビットへ放つ。
「“ウィンドカッタ”」「“ウィンドカッタ”」「“ウィンドカッタ”」
そこにアトリが風魔法を連続で放つ。へ?詠唱時間は!?
どういう原理かは分からないが、風魔法を纏った魔力矢が螺旋を描き勢いを増してカンムリラビットの胴体を穿ち貫く。
ドヒュウウウゥウゥ―――――ドドンッ!!
その一撃で胴体に大穴が開き、光の粒子が散らばり消えてこうとするカンムリラビット。
『ソナタ………ガ……オ…ウダ………』
そう言葉を漏らしカンムリラビットは消えて行った。
なんか不穏なことを言って消えて行ったけど………。今はいっか。
はぁ―、何とか倒すことが出来たってか。こんなに強いってあり得ないんですけどーっ。
僕は仰向けにバタリと倒れ込みながら思わず心の叫びを漏らす。
仰臥してる間もホロウィンドウからレベルアップやら何やらのリザルトが流れ表示されている。
ピロコリン
[【称号】ラビタンズ の 王 を得ました]
はぁっ!?
ハーミィテイジゾーンの登録の後にそんなものが表示される。
思わず起き上がり確認しようとするが、ホロウィンドウが掻き消えてしまう。
僕は立ち上がり指パッチンでメニューを出してステータスを確認する。
「……………」
【称号】ラビタンズの王
守護戦士カンムリラビットを倒すことで得られる
ラビタンズネストにおいて絶対権力を有する
ラビタンズの民に様々な命令を下すことが出来る
が民を幸福に導く責任も伴うことになる
うっわー…………。なんか面倒い事になってる………。
称号なのでそこまで効力があるとは思えないから、後で要相談ってとこか。
「ラギく〜〜んっ!大丈夫!?」
「ラギっ!やったな!」
「うさたんですっっ!!」
状態異常から復帰した3人が僕のところへと集まってくる。
アンリさんがちょっとおかしい。
「マスターやったのです!王様なのですっ!!」
「グッグッグ――――ーッ!!」
ララが宙に浮きながら飛び跳ねるという器用な真似をして、ウリスケは嬉しそうにピョンコピョンコ跳ねまわる。
「ララとウリスケがフォローしてくれたからね。ありがとう」
「当然なのです。ララはマスターのララなのですっ!!」
「グッグッグッグ!!」
ララはビシっと敬礼し、ウリスケは立ち上がり右前脚をバシッと掲げる。
………どこで覚えるんだろ、これ。
そして集まってきた皆に確認の為、称号を取得してるかを聞いてみる。
「ラビタンズの王!?………はぁ、これぜってーキタシオバラの仕業だな。バージョンアップしてやがったな……」
「真面目に作業されてたと思ったんですが、いつの間に……」
「タジマもそうだけど、腕の良い奴って変なの多いよねぇ〜」
肩を竦めてはぁと息を吐きながらそんな事を言う姉を見て、ラミィさんとアンリさんがじと目で姉を見やる。うん、まぁそういう事だよねぇ。
やがて空が元の色に戻り、目の前に木の柵と木の枠で組まれた門が現れてくる。上の方にはラビタンズネストの看板が掲げられている。
僕達は頷き合って中へと入る。
「おおぅ」
「ふわあぁっっ」
「ら、楽園がここにっっ!!」
ラミィさんと姉があちこちを見回して感嘆の声を上げ、アンリさんが滂沱の涙を流して大きな声を上げる。
門を抜けると広場とラビタンズの姿が見えてくる。
ちょこちょこと歩き回るその姿は何とも愛らしい。
そして僕等に気がついたラビタンズ達がわらわらと歩いてやってくる。
「おうさま、おうさま〜」
「おうさま〜」
ちびラビタンズ達が僕?を見て両手を差し出しながら飛び跳ねている。
なんか王様認定されてるし………。はぁあ?言葉通じてる!?何で!!
いろいろ疑問は湧いてくるが、諦めてちびラビタンズに挨拶をしようとしゃがみ込むと次々と僕の胸へと飛び込んでくる。
「おうさま〜、おうさま〜」
「お〜う〜さ〜ま〜」
頭をぐりぐり擦り付けてくるその姿に思わず顔が綻んでしまう。可愛いのぅ。
側で複数の「のふおお」とか「ひぃああ」とか「にゃひゃあ」とか聞こえてくるがスルーしておこう。
その後、村長のサギューさんがやって来て歓迎の宴を開いてくれて、家を建ててくれることになった。
サギューさんからいろいろ話を聞かされるが、要はラビタンズを導いて欲しいという事だった。
ただ僕もゲームを楽しみたいので、常にここにいることは出来ない事と導くなどという大それたことは出来ないと説明し、困った事があったら相談に乗ることを話すとサギューさんはそれで構わないと嬉しそうに言ってくれたので、僕はほっと息を吐く。
「ならば私が皆さんを導きたいと思いますっっ!!」
突然アンリさんが立ち上がり拳を握り締めてそう宣言する。
身体中にちびラビタンズを張り付かせ、ふにゃふにゃな顔で言ってるので変な感じだ。
でも周りのラビタンズ達はおーっとか言って拍手している。
「キャラ変わってんぞお前………」
「わかる~ぅアンリちゃん。すっごく分かるぅ~」
そんな事を言いながらもラミィさんは膝上に乗っかってるラビタンズ達に食べ物を与えてニコニコしてるし、姉に至ってはラビタンズを抱えて顔を身体に押し付けてふがふがやっている。………嫌がって無さそうなのでいいか。
「という訳でラギさん、しばらくパーティーから外れたいと思います。よろしくお願い致します」
もふもふ塗れのアンリさんが、そう言って頭を下げて来る。そもそも断りを入れる事も無いもんだと思うけど、パーティーの事はともかく僕の代わりにラビタンズのお世話をしてくれる様なので、こちらこそと頭を下げてお願いする事にする。
「いえ、こちらこそラビタンズ達の事をお願いします。まぁ、皆が王様という事で」
カンムリラビットを倒せたのは、僕だけの力ではない。皆の力が有ってこそなので、そう付け足しておく。
「分かりました。承ります」
ニコニコ―――――ッと笑顔でアンリさんが了承してくる。すっげーいい笑顔。
その日はこれでログアウトして、翌日からはアンリさん抜きのパーティーでマップの踏破率を上げてエリアボスと対峙したのだけど…………。
僕と姉、ララとウリスケ。そしてアテンダントスピリットのアトリとレリーさん(ラミィさんとエレレさんは取得済みで不参加)であっさりと倒してしまい称号【円門1の通過者】を取得してしまった。
僕はビッグスラーミの扱いに少しだけ涙した。
そして秘書であるアンリさんがラビタンズネストに入り浸ってしまい、ミラさんのめっちゃ叱られるのはお約束だ。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




