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94.めざせ!ラビタンズネスト

 

 

 その日の夜。夕ご飯を食べた後、ライドシフトののちログインする。

 相変わらず時計台広場の周りはPCがたくさん行き交っている。

 アップデートから10日も経ってないことを思えば、それも致し方ないのかな。


「き……ラっギっく〜〜〜んっ!!」


 僕を呼ぶ声がしたかと思うと、ガバッと後ろから抱き着かれる。一瞬びくっとなったけど、軽く息を吐いて平静を装う。

 もちつきイベントの時は静かだったのに、ゲーム(こっち)ではその反動なのかやたらスキンシップしてくる。くんくん嗅ぐのはやめて欲しい。


 そして示し合わせたかの様に、ミ―――ラミィさんとアンリさんが僕らの所へやって来た。


「今日も食堂行くん?」


 ラミィさんが口元を緩めながらそう聞いてくるが、さすがに料理ばかりやっててもしょーがない。

 【調理】スキルだけやたらと上がってるのもなんだかなぁという気がしないでもないのだ。


「今日は討伐クエストを請けようかなって。そろそろ他の人達も少なくなってきたと思うし」

「お、そうか?んじゃ、依頼請けに行くか」


 一瞬残念そうな顔をラミィさんは見せるが、すぐに切り替えて冒険者ギルドへと移動を始める。

 アトリは定位置ぼくのあたまに、ララは目の前をふわふわ漂いウリスケはさっきから変な動きをしている。


「さっきはありがとな、ウリスケ。いいデータが取れたよ」


 VR空間(ここ)とは違って動きが制限された中で動き回ってくれたお陰で、行動データがいい具合に蓄積されて行った。

 VR内の作業もやはりある程度は限度があるんだなぁと理解できたのはいい勉強になった。


「グッグッグ――――ッ!」

「“次は2本足で動けるようになりたいのだ”とウリスケさんが言ってるのです」


 ウリスケが2本足で立ち上がりながら鳴いたのを、ララが通訳してくる。2本足ねぇ。

 修了論文で作製したうさぎはラビタンズを模して作り上げたので、基本2足歩行で行動するようにしてある。

 まぁ、本人の希望だし作ってみてもいいかな、改善点も色々見つかったしね。


「分かった。ちょっとやってみるね」


 依頼者クライアントの希望にはある程度添わなくちゃな。


「グッグッ!」

「“楽しみなのだ”なのです」


 ウリスケが2足歩行で歩きながら右前脚をしゅぴっと上げて鳴いてくる。そしてララが通訳。

 楽しみね。それなら頑張らなきゃな。

 そんなウリスケの姿を通りがかったPCが目を丸くして見ている。

 あー、そうなるよなぁと思い、後で街中では自重して貰うようお願いしとこう。


 バロンさんの店には、パーティーを組んでない時に行ってみようと思ってる。

 アトリには悪いと思うが戦闘系のスキルレベルも高くないし、ある程度レベルを上げてから行った方が不安も少なくて済む。


 ララとウリスケのステーキに関してはマルオー村まで行かないとワイルブモーは狩れないので、しばらくは保留ってとこかな。

 自分でご褒美と言っておきながら、先送りになることをララ達に申し訳なく思いながら話すと。


「それでいいのです」

「グッグーッ」

「あとでおけ」


 手な感じで優しいお言葉を頂くこととなる。いい子達やなぁ。

 そんな事を話しながら冒険者ギルドの中へと入り依頼の貼ってある掲示板へと向かう。

 人の数は以前よりかはマシな感じだ。


 僕はこの前ギルドランクがEになったので、1つ上のDランクの依頼も請けることが出来るようになった。

 ちなみにラミィさんとアンリさんはCランクで姉はFランク。

 姉的にはギルドランクはどーでもいーらしく、スキルやPCのレベル上げを適当にやってたみたいだ。(しょっちゅう食堂で飲み食いしてたし……)

 とは言えこのブロロアの街では、ギルドランクの高い依頼は殆ど無いので、ある意味最初の街だなぁって感じだ。


 先に掲示板の前にいたラミィさんが何を請けるのか聞いてくる。


「ラギー。何にする?私達は何でもいいからな」

「はい。問題ありません」


 ラミィさんとアンリさんは僕に全部任せる気マンマンだ。パーティーリーダーという事で立ててくれるんだろうが。

 それじゃということで、僕はワイルラビットとホーンラビットの討伐依頼を選ぶことにする。


「ワイルラビット?あっ!もしかして!!」


 僕の脇腹越しに覗きこんでいた姉が、僕の選んだ依頼書を見て声を上げてくる。


「うん、ラ―――」

「マスター」


 僕がラビタンズネストの事を話そうとした時、それを遮る様にララが声を掛けてきた。

 ん?突然どうしたんだろ。何かあるんだろうか。


「じゃ、あたしが請けに行くね」


 何かを察したらしい姉が僕が選んだ依頼とラビット系の討伐依頼書を取って受付へと行ってしまった。

 何が何やら訳が分からず皆と連れ立って手続きのあと、冒険者ギルドを出て西門へと向かう。


「さっきのって何だったの?」


 僕がララにさっきの事を聞いてみると、ララは周囲をくるりと見回した後、こそって感じで話ししてくる。


「聞き耳ずきんさんがいたのです」


 聞き耳ずきんって………盗み聞きってことか?んー、何でそんなことを………。

 僕が不思議そうに首を傾げてると、僕以外の皆がしょーがないなぁって顔ではぁ〜と溜め息を吐く。


「ラギは自分がどんだけ注目を浴びてるか知らないだろ」


 ラミィさんがそんな事を諦め気味に言ってきた。

 姉やアンリさん辺りなら納得も出来るけど、僕が注目を浴びるなんて事は無いような気がするんだけど………。


「どう見ても初期装備のPCが、従魔2体とアテンダントスピリットを引き連れているので自然と目を引いてしまいます」


 アンリさんがそう説明してくれて、なる程と納得する。

 目立つのイヤなんだけどなぁ、はぁ〜と思わず溜め息が漏れてしまう。


「あと、生産スキル持ちじゃ、【開拓者】とか【救生主】とか言われてるよっ」

「えっ!?なにそれっっ!!」


 姉がついでという感じで爆弾発言をしてきた。その二つ名に思わず声を上げてしまう。あ、ごめん。


「え?ほら、ラギくん食堂で調理補助やってたでしょ。それを知ったPCが商店街のクエスト依頼を請けてスキルが上がって、それから他のPCもこぞって依頼を請けてった経緯でラギくんお話になる訳」

「ほら、【調理】やら【調薬】とか【鍛冶】なんかは材料ものが無いとスキルレベル上がんないだろ?ドロップアイテムとか採取、採掘なんかも戦闘系と違って手に入れ難いからレベルが上がり辛かったんだ。パーティー組むのもいろいろだし、もちろん冒険者ギルドの教練所でもある程度上げられんだが………あんまやる人いないんだよなぁ」


 ラミィさんがしみじみとそんな風に語りだす。そうかぁ、ガンさんカッコいいのになぁ。

 と言いつつ僕も教練所では武器スキルと魔法スキルしかやってない。………いや、あの時はまだ持ってなかったか。

 あれ?でもヤマトの時にあったように、目立つとこの手のヤツって絡んでくるのがいると思うんだけど今回来ないのは何でだろう?


「あの………こういう目立ってる人間て何かと絡まれたり集られたりしたと思うんだけど、そういうの無いから僕じゃないんじゃないかなぁ」


 僕が予防線を張るようにそんな事を皆に話してみると、ラミィさんがその辺のことを説明してきた。


「それはな、ちょっと前にラギが変なのに絡まれただろ?あれを見てたPCが掲示板で注意を促したんだよ。変にちょっかい掛けると危ないってな」


 ああ、あの金ピカPCの件か。ってか僕、危険物じゃないんだけどな。まったく。


「それはそれで助かるけど、何でそれが盗み聞きとかになる訳なの?」

「注目されるという事は、それだけ情報を求められる事になります。行き過ぎるとストーカーになりかねませんが………」


 瞬の間、肩がびくっと微動する。

 時が経ってもこの手の事(トラウマ)は忘れない振り切れないって感じか。

 そっかぁ。だから僕がラビタンズネストの事を話そうとした時、ララが遮って来たって事か。

 下手に知られても困るもんな、ラビタンズネスト(あそこ)は。


「ララ、ありがとな」

「まかせてなのです」

「グッ!」

「アトリも」


 何か良く分からないけど、慰めてくれてる様だ。また皆に軽く礼を言って西門を抜け街道を外れ南へと転進する。


「で、ラビタンズネストを目指すんだよね?」


 姉がスキップしながら僕の横に来て聞いて来る。


「うん、まぁやって見ないと分からないけど、多分こうじゃないかなってとこだけどね」


 やって見ないと分からないから、少しだけ自信無さ気に答える。多分大丈夫だと思うけど。


「やっぱ討伐数か何かか?後はエリア内のマップ踏破率じゃないかと思うんだがな」


 ラミィさんが予測した様に、そんな所なんじゃないかと思う。なので頷きをもって答えに変える。


「あの時ワイルラビットとホーンラビットの討伐数は全部で108体になるのです。そして踏破率は32.2%なのです」


 ララがあの時のデータをスラスラ伝えてくれる。108は意味深だけど目安になるからありがたい。


「ラミィ、ラビタンズネストとは何なんですか?」


 1人だけ蚊帳の外にいたアンリさんがラミィさんに問い掛ける。


「キタシオバラがこっそりこのエリアに作ったハーミィテイジゾーンだ。私はサキから動画を見せて貰っただけだけどな」


 ラミィさんがそう前置きしてアンリさんに説明を始める。テストプレイという話だったから、ヤマトの事はに何かやって見てたんだろうな。うん。

 特に変な事はしてないと思うから問題ないよな………たぶん。


「2足歩行のうさぎさんっっ!!」

「めっちゃかわいーんだわ、これがぁ」


 アンリさんの頬が紅潮して両拳が胸の前でぎゅぎゅっと握り締められる。


「やりましょう!!殲滅ですっっ!!」


 アンリさんに変なスイッチが入ってやる気に満ち満ちている。お゛ー。


「マスタ。まえ3たい」


 喋りながら南へ進んでいると、さっそくモンスターがやって来たらしくアトリが警告してくる。


「戦闘準備!」

「おっしゃ」「はいっ!」「いくよっ」「やるのです!」「グッ!」「ごー」「あね様やります」「ぷくぅ」「参ります」



 ラミィさん、アンリさん、姉、ララ、ウリスケ、アトリ、エレレさん、コンドォーさん、レリーさんが頷き返し声を上げる。人多くね?

 これ良く考えるとオーバーキルになる様な気がする。


「……………」


 はい、やっぱりオーバーキルでした。

 ホーンラビットを先頭に後ろに2体のワイルラビットが並んでこちらに突進してきたのを、アンリさんの火魔法がホーンラビットを瞬殺する。

 ドゴォォンと衝撃波が後ろの2体を襲い左右に吹き飛ばされる。

 そこをラミィさんの鞭が高速で走り1体をスパンと叩き消し、もう1体をララとレリーさんとコンドォーさんの魔法がヒット、そしてウリスケの体当たりから姉の2連撃。


 僕の出番はありませんでしたね。うん。

 ま、ある程度数を狩らないといけないから、オーバーキル気味でいいのかも知れない。

 でも次は僕も戦わせて貰うことにしよう。

 どうやらまだ湧き期間らしく、次から次へとウサギ達がやってくる。


 16。


 弓を構え弦を引き絞ると、弓の中央に淡い光の矢が現れる。現れた矢を番え前方のホーンラビットへ放つ。

 シュピューンと黄色い光の線が迸り狙い過たずホーンラビットの真ん中を貫く。


「おおっ」「やったのです」「グッ」「ないす」

「“ファイヤランス”」


 右側を駆け走るホーンラビットを炎の槍が襲い燃やし尽くす。

 飛び込みから縦斬り横斬り、そして右足爪先で蹴り上げ宙に浮かせたホーンラビットを姉がシャランと回転して回り斬り倒す。


 23。


 僕が装備しているこの魔力矢の指輪リングは、ガチャで出たアイテムの1つでMPを消費する事によって魔力の矢を番え放つ事が出来る物だ。

 レベルが低い今の僕が放てるのは数発ぐらいだけど、矢の消費を気にせず使用出来るのは助かっている。


 ララとレリーさんが魔法攻撃で相手を硬直させて、ウリスケがストトと体当たり。

 ラミィさんがスパパパパンと鞭を振るい、その後にエレレさんがちくちくちくと剣を見舞いワイルラビットが光となって散って行く。

 アトリが風魔法でちまちま牽制して姉が止めを刺して行く。


 41。


 現れた8体!を包囲される前に接近し、【手甲】のイミットアーツをホーンラビットへ浴びせる。

 地面に叩き付けられ撥ね上がったそれを、ワンツーパンチとアトリが風魔法でちまちま攻撃して倒して行く。

 姉は踊るように小剣を振り回し振りかざし弧を描きながら3体を駆逐していく。

 ラミィさんがおらおらと言いながら鞭をビシバシヒットさせ、器用に2体を巻き付けて上空へ舞い上げてスドバアンと叩き落とす。

 ギャフ―と言いながらワイルラビット達は光の粒子になって散っていった。


 76。


 さすがに満腹度が減ってきたので、一旦街に戻りいつもの(ヒィデェーオ)食堂で軽く食事を取ってから冒険者ギルドで精算&依頼を請けて再度南西エリアへ。

 戦闘は楽しく面白くはあるけど、柄もすれば作業にもなりかねない部分も出てくる。次々とレベルが上がってくれば尚更だ。

 TVモニターの時なんかは惰性でこなすなんてこともあるが、仮とはいえ肉体を用いた戦いは常に緊張に晒される。

 でもやっぱレベルが隔絶してくると、作業っぽくなるよなぁとワイルラビットやホーンラビット、時たまワイルボーアなんかを蹂躙してるとつい考えたりしてしまう。


 僕達が南西エリアを西に東に南に北にと行ったり来たりしてると、その時がやって来た。

 リアル時間で午後6時を過ぎて辺りが灰闇に包まれる。ラミィさんが灯り玉を使い周囲が明るく照らしだされる。


 100。


 現在地はちょうど南西エリアの中心部。これは本当にたまたま偶然のタイミング。

 ヒュウウウウウという少し甲高い風の音と共に地面から靄が湧き上がり次第に濃く辺りへと立ち込める。


「ぼすくる。みぎ」


 アトリの言葉に皆に注意を促す。


「右から何か来る。気を付けて!」

「おっしゃ!」「了解」「うんっ、わかった」「はいなのです」「グッグ」「はいっ」「ぷくぅ」「畏まりました」


 くるりと右側へ向きを変え、その時を待ち構える。

 ポゥと明るく淡い2つの赤い丸が揺れながらついとこちらにやって来る。

 赤の軌跡を残しつつヒュウと接近して来た。

 モニターの時もそうだったけど、VRの中はさらにその恐ろしさを身体に纏わせられる。


「散開っ!」


 僕の声に皆が無言で左右へと散らばる。赤の線が流れ僕達がさっきまでいた場所に強烈な一撃が炸裂する。


 ドゴゴオォォォオアアァン!!


 その衝撃で地面が揺れ、その破片が撒き散らされ飛び交う。僕らは少し離れてそれを囲むように対峙する。

 靄が晴れ空間が切り替わると、ホロウィンドウが現れボス戦を知らせてくる。


 ラビタンズネストの守護者のカンムリラビットがのそりと立ち上がる。


「うおおっ!すっげー」

「やります!うさたんのため!!」

「やるよっやるよぉ―――ーっ!」

「ララの最強魔法が火を吹くのですっ」

「グッグッグッ!!」

「がばる」「あね様やります」「ぷくぅ」「參りますっ」


 出現したカンムリラビットに皆臆すること無くやる気に満ちた声を上げる。


 僕達のパーティーはPC4人の従魔2体。アテンダントスピリットが4体という形態で(アテンダントスピリットはパーティー上限外らしい)、うち前衛が4、中衛1、後衛5という配置になってる。

 そして武器使いが6で魔法使いが4。


 アテンダントスピリットがいる分、戦力的には充分過ぎると言ってもいいと思うけど。PC2人(僕と姉)がレベルが低いのでギリギリって感じな気もする。

 盾役が1人でも入ればそこに意識を集中させて攻撃する手もあるけど、どうなることやら。


 僕は少し離れたところから魔力矢を出してカンムリラビットへ向けてシュパッと放つ。

 それを機に皆が得物を手にカンムリラビットへ攻撃を始める。

 戦闘開始だ。

 

 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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