76.カレーライスのちHMVRD
赤い服を着たヒゲもじゃのおじーさんと赤い鼻の動物が街中を何人も闊歩し始めたそんなある日のこと.
1日ぽっかり時間が空いたのでカレーを作ることにする。
カレーなんて野菜切って肉と炒めて煮こんでカレールーを入れてさら煮こめばいいんじゃね?と普段料理を作ってる人がいれば言うのかも知れないが、僕の場合色々仕込んだりするので1週間分食べることを考えて多めに作るから他の人より時間がかかってしまう。
ま、所詮はなんちゃって料理なんだけどね。
まずは野菜の下拵えからだ。
ジャガイモ、ニンジン、タマネギを野菜カゴからゴロゴロ取り出しピーラーでジャガイモとニンジンの皮を剥き(ニンジンは皮に栄養があるっていうけど癖なので)、ジャガイモの芽を取り半分に切り、ニンジンはてきとーに乱切りに、タマネギは半分に切ってから大きめのくし切りに切っていく。
次に別にしていたジャガイモとニンジンを3コつづおろし器で摩り下ろしていく。
それを小振りの寸胴鍋に切った野菜を入れ、水を野菜がひたひたになるくらい入れて火を点ける。
それから冷凍庫から凍らせたシメジ、マイタケ、エリンギ、シイタケを取り出し、適当な大きさに切っていく。(エリンギかたっ)
これをオリーブオイルをしいて温めたフライパンへドサリと投入。中火でしばらく炒めて、隣の寸胴鍋へ投入。
キノコエキスの入ったフライパンに冷蔵庫から出した豚バラ肉500g分を何度かに分けて軽く焼き目を付けた後、これも寸胴鍋へ。
しばらく灰汁を取り様子を見ながら、ラーメンスープ(醤油)を何袋か入れていく。家ではちょっとした隠し味的にラーメンスープをよく使う。
少しばかり煮込んだ後、いったん火を止める。
冷めるのを待つ間、部屋の中の細々としたことを片付けることにする。
掃除、洗濯と乾いた洗濯物を畳んでしまい。ゴミを分別してひと纏めにしておく。
冷蔵庫の中の物を見ながら足りないものがないか確認していく。ビールが無くなってる。
明日の分の食材もあるし、今日はビールだけ買いに行けばいいかなと呟き、寸胴鍋の前に行き再度仕込みを始めることにする。
ひたひたに入れた水が少しばかり減った中身に水を8分目まで注ぎ入れ、中火で火を点ける。
冷蔵庫からガラス製の容器とカレールゥを2種類取り出し準備完了。
しばらくすると鍋がくつくつ沸騰してきたので、そこにガラス容器からカーさん特製のスパイスを大さじ1杯パラリと入れて、次に黄金印のカレールゥ〈辛口〉を1/3、禁断果実とトロりんアマミツのカレールゥ〈甘口〉を2/3規定量投入する。
ルゥが溶けやすくなるように掻き混ぜていくと、やがて鍋全体がカレー色に染まっていく。
カレーの匂いがなんとも香ばしく、思わず胃袋がくるると鳴ってくる。
だけど、この後またしばらく冷まして寝かせる必要がある。
夕飯時には美味しく食べる事が出来るだろう。今でも充分美味いとは思うけどね。
姉が来ることを見越して、ゴハンは5合炊きの炊飯器にばっちり炊き上がっている。
今日のお昼は新作カップうどんとゴハンを予定している。お昼前だし少しだけゲームでもやろうかなと思い、ゲーム機をテレビ台から出そうとしたとき、ララが声を掛けて来た。
『マスター。お客様が来るのです』
ホームセキュリティシステムに常駐したララが僕にそう教えてくれる。
こんなところにいてゲームの方はいいのかと思い聞いてみると、現在ララは4体までマルチタスクに分化しており、ゲーム、僕の端末、ホームセキュリティ、その他をローテーションで回ってるそうな。
ちなみに今日のホームセキュリティのララは3号だそうだ。
『力の1号、技の2号、その全てを併せ持つのが3号なのです!!』
『『『みんな同じなのですっ!!』』』
ララ3号がポーズをとってそう言ってた時、他から突っ込みが来たのには少し驚いたけど。
その日の終わりに情報統括をしてまたララに戻るらしい。
だからなのか、4人のララそれぞれの性格が少し違ってる感じがするのは僕の気のせいなんだろうか。
「えっと。誰だか分かる?」
『開発部長さんなのです』
?しゃちょう………ってーと、ああミラさんか。はて姉に何か用でもあるんだろうか。
そんな事を考えてると、チャイムがピンポーンと鳴り響く。
『来たのです』
「はいはい。今行きま~す」
居間からキッチンを抜け玄関のドアを開ける。
「やぁ、キーくん。久し振り」
ララの言うとおり姉の友人、御厨未来さんがそこにいた。
「お久し振りですミラさん。あ、良かったどうぞ入って下さい」
僕が中へ入る様促すとミラさんは恐る恐る入って来た。玄関側の卓袱台に座布団を置いてそこに座ってもらう。
「ちょっと待っててください。今、お茶淹れますんで。あ、コーヒーの方がいいですか?」
「………あ、いや。お茶でいいよ。うん、ありがと」
キッチンへ行き急須にお茶っ葉を入れポットからお湯を注いで30秒。そこから湯呑みにお茶を均等に2ついれる。
ちょっと行儀よくないけど、両手に湯呑みを持って居間へと向かう。
ミラさんはテレビ台にあるゲーム機をまじまじと見ていた。
「お茶どうぞ。サキちゃんは今日は来てませんけど。用があるんだったら連絡しましょうか?」
卓袱台に湯呑みを置いて、僕は反対側に座って姉に連絡するか聞いてみる。ここに来るのに用事があるとすれば、姉の事しか無いからだ。
「い、いや今日はキーくんに用があって来たんだ」
そう言ってミラさんが頭を下げてきた。ん?なんじゃらほい!?
「この度はアルバイトで解雇にしたとはいえ、うちの会社の人間が申し訳ないことをした」
「?」
「ほら、以前キー君が拐われそうになった話があっただろう?その犯人がうちの関係者だったんだ」
ミラさんの説明を聞いて、やっと思い出す。そういやそんな事もあったっけ。
でもあれから大分経つのに、今頃謝りに来るってのもなんか変な話だよな。
そんな風に僕が首を傾げていると、ミラさんがさらに説明してくる。
「サキはいいって言ってたんだが、やっぱり責任者としては謝りたいと思ってたんだ。丁度渡したいものがあったんでいい機会だと思って来たんだ。お詫びの品といっては何だけど、受け取って貰えるとありがたい」
ミラさんはそう言って脇にある持って来ていた大きな箱を卓袱台に置いてこちらに寄越してくる。
箱の横にHMVRDうんたらかんたらと書かれたある。
え?これってVRに入るための専用デバイスってヤツ?
絵ええっ!!確かこの手のデバイスってかなり高くなかったか?お詫びでこんな高いもの受け取るわけにはいかないよ。
「いやいや、謝罪は受け取りますけど、お詫びにこんな高いもの受け取れないですよ」
「でもキーくんが改めてゲームやるのに必要だろ?サキはいつもキラくんは爺様のゲームしかやってないって言ってたぞ?」
改めてゲームってどういう事だ?僕が再び眉を寄せ首を傾げていると、ミラさんが補足するように説明を続ける。
「サキに頼まれてモニターヴューとはいえプレイしてて中途半端に終わるのも嫌じゃないかと思ってな。ちょうど年末に新規プレイヤーを受け入れることになったんで、最初からのプレイになるとは思うがVRの中でやってもいいと思うならぜひ、という訳だ」
………確かにララとは色々会話はしてるけど、ララ自体とは会ってるわけではない。
ウリスケも元気ということだけど、このまま別れたままになってるのも、ちょっと残念な思いもある。
あ、ラビンタンズネストっ!!………くぅっ、何と言う誘惑っ。
このまま受け取る受け取らないの堂々巡りもあまり社会人的によろしくないなと考えていると、ララが助け舟を出してきた。
『マスター、ララもマスターに会いたいのです』
小さく僕にしか聞こえないような大きさの声でララがそう言ってきた。はぁ〜。
僕は少しばかり肩を落としつつ、目の前にある箱を受け取ることにする。
「………分かりました。それじゃこれは有り難く受け取っておきます」
箱を受け取り、それを僕の脇へと置いてペコリと一礼する。
ミラさんは安堵した様に息を吐き立ち上がリ帰ろうとした時。
「良かった。ぜひ楽しんでくれ。それじゃ私は――――」
ぐるるる〜ぎゅるるるるん。
ミラさんおお腹が盛大な音を鳴らす。ミラさんの顔が少しばかり赤くなる。まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないかと思う。
部屋の中にはカレーの香りが充満していたからだ。さっきもちらちらキッチンの方を見てたしね。
今のままでも食べる分には十分美味いと思うので、ミラさんにカレーを食べるか聞いてみることにする。
「今作ったばかりですけど、カレー食べます?」
「え?いいのかい?」
「ええ、たくさん作ったので。お替わりもありますよ」
始めは少し遠慮がちだったミラさんだったが、お替りできる量があると聞いてこちらにお願いしてきた。
「朝から何も食べてなかったので、食べさせて貰えると有難い」
少しお腹を押さえてミラさんがそう言ってくる。背が高いしエンゲル係数高そうだもんね。
僕はキッチンに行き、カレー用の容器(楕円形の深皿。洋食屋さんにある様なヤツ)にゴハンをよそいで行く。
「盛りはどうしますか?」
「大盛りで!!」
元気よく声が返って来たので、容器の2/3にゴハンを大盛りに入れて、空いた1/3にカレーをダダ―と入れていく。ゴハンの方にも気持ちかけていく。
僕の作るカレーはジャバジャバとトロリの中間と行ったところだろうか。ゴハンに少しだけ染みやすくかつ固形な感じ?かな。
福神漬けをゴハンの上にちょいと載せスプーンとレモン水を持って居間へと戻る。
ミラさんが何故かビシッと背筋を伸ばし正座をして待っていた。?
「どうぞ」
ミラさんの前にカレーとレモン水とスプーンを置いて勧める。
ミラさんはスプーンを手に取り首を伸ばしてカレーの香りをひと嗅ぎした後、スプーンでカレーを掬いひと口食べて噛み締めて目をくはっと見開きひと言。
「うまっ」
そう言うやいなや、カレーの容器を手に持ち掻きこみ始める。
も少し味わいながら食べて貰えると有り難いのだけど、今の様子を見ると何だかそれも言い難くなる。
「おかわりっ」
「おかわりっ」
「おかわりっ」
すっげー食欲。まぁ、確かにエンゲル係数高そうとは思ってたけど、ここまで健啖家だったとは……。
姉とタメを張るんじゃなかろうか。少しだけジト汗になる。
「あの………おかわりいい?」
「はい、ちょっと待ってて下さいね」
容器を受け取り、ゴハンをよそう。んー残り少なくなっている。5合近く食べたってことか、すげー。
カレーのお替りを持って居間へと戻ると、ミラさんが肩を落とし申し訳無さそうにしている。
カレーを渡すとミラさんが背中を丸めてペコペコしてくる。
「ゴメンネ、つい食べちゃって………」
「気にしなくて良いですよ。美味しく食べてくれればこっちも嬉しいですから」
僕はニコリとミラさんに笑って答える。カレーはともかくゴハンはまた炊けばいいのだ。
僕の言葉にミラさんは安心した様にカレーを食べ始める。
そして容器をすっかりキレイにして食べ終えたミラさんは帰って行った。
「今度はゲームの中で会おう」
「?」
さて、受け取ったHMVRDを横目に僕は残ったゴハンを別に移し、白米を5合取り出し研ぎ始める。
たぶん姉が来る前には間に合うだろう。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
お盆なので間が空くかもしれません
ブクマありがとうございます(T△T)ゞ




