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77.HMVRDをいじってみる

 

 

 白米を研いで炊飯器に入れ、水を適量入れてスイッチをオンにする。

 夕方前には炊き上がるだろう。

 カレーは………1/4程減っている。よく食ったなミラさん。まぁ、あれだけ美味そうに食べてくれれば作者冥利に尽きるというものだ。

 美味しく食べてくれる(そういう)人がいてくれるって事は、きっと僕という人間は恵まれているのだろう。

 そんな事を感慨深く思いながら、カレーはこのままに蓋をして冷ましておく事にする。

 お昼を少し過ぎてたので、まずは自分のお昼を頂くことにする。

 さっき別に移しておいたゴハン(茶碗2杯分)とカップうどんにお湯を入れ規定時間待つ。

 ど〇べぇ~なんかだと10分待ってお湯が減っててろんてろんの麺が美味って言ってる人もいるし、まぁ人それぞれだけど僕は規定時間派かな。

 時間になったのでフタを取って麺をかき混ぜ馴染ませてからスープを啜る。

 レモン塩スープに辛味油がアクセントになっていて、けっこー食べれるかな。イロモノ商品かと思ったけど、まぁまぁイケル方かな。ずるずるぱくぱくとうどんとゴハンを平らげた後、しばらくテレビを見ながら食休みしてから、ミラさんから受け取ったものに手を付ける事にする。


 カップ容器と茶碗を片付けた後、ダンボールを手前に寄せて上に貼られているテープをピリリと剥がしていく。

 上部分を左右に開き中を見てみると、片側1/3にやたらA4位の分厚そうな冊子が2冊ともう片方には圧縮厚紙《コンパウンドパック》に覆われたものが納まっていた。

 まずは冊子を取り出し卓袱台へと置く。ひとつはHMVRDの取説《マニュアル》でもうひとつはゲームの取説《マニュアル》みたいだ。ん、分厚い。

 ゲームソフトはともかく、ゲーム機やその手の機械に関していえば僕は取説を読む人間なんだけど、国語辞典並の厚さの物を見てるとげんなりしてしまう。

 初めてPCとか端末を手にした時のことを思い出す。はぁーと思わずため息が洩れてしまう。


 とりあえず軽く流し読みをしていく。ふむふむ、本体のセッティング、パーソナルコード登録、注意事項、よくある質問、FAQ、それ程面倒ではないものの、ほかの電化製品と同様やりながら覚えるしかないようだ。

 もう1冊の方は【アトラティース・ワンダラー】の簡単な取説のようでそれ程厚くもない。

 こちらは本体にソフトが組み込まれていることと、キャラクターメイキングの仕方やゲームの進め方を簡単に説明してるだけだ。


 今時、この手の取説《マニュアル》を付けてるのも珍しい事だ。最近の電化製品は大体本体にプレインストールされてるものだからだ。

 ………何とはなしに姉の影が見え隠れしている気がするが、……そんな事は無いだろう、たぶん………。


 取説を卓袱台に置いて、圧縮厚紙《コンパウンドパック》に包まれたものをダンボールから取り出す。

 上下部分で構成されたそれは複雑な形で成型されており、前後左右にある凸凹で封がされている。

 それらを丁寧に外し上部分を取ると、そこには濃いグレーの底の浅めのヘルメットみたいなのが鎮座していた。

 おおーっ。何となく感動する。こういうのを見てわくわくしてしまうのは男子の性《さが》だろうか。などと思いながらHMVRDを取り出す。


 ツルリとした材質で目の部分全体を覆うようにカバーがされており、縁の部分が1cm程厚みを帯びている。右側面に直径1cmほどの黄緑の丸い起動スイッチがある。

 後頭部には電源接続部があり、圧縮厚紙《コンパウンドパック》に一緒にコンセントが入っている。

 見た目も構造も単純な感じがするけど、高度な精密機械なんだよねこれ。


 VR自体は学校とかで何度か体験したことはあるけど、すごいなーと思ったが正直良く分からないというのが印象だ。

 確か歴史探訪という授業で視聴覚室で簡易VRシステムとやらで観たのだけど、実際コスプレした人達が歴史再現を目の前でやっていただけという感じがしただけで、ふうんという思いしかなかった。

 なんか皆は感動とかしてたみたいだけど。

 僕としてはなんか掴みどころにない映像って気分だったのだ。


 あれから大分経ったので技術も進歩してるだろうから変わってるのかも知れないけど、まぁ僕としてはVRとはそんな感じのものなのだ。


『マスター、コンセントを繋げて充電してなのです』


 端末からしたララの声に考え事をしていた僕は我に返る。

 コンセントを取り出し、HMVRDの後ろに差しこみ電源を繋ぐ。昔のゲーム機だとACアダプターといってコンセント部分がやたらとゴツかったのに今はそれもない。

 するとホロウィンドウが起ち上がり、『充電中』の文字とパーセンテージが表示される。何でおサルがお手玉してるのかよく分からないけど。


『あとはしばらく待ってなのです』


 ん?そうか。ララがいれば取説読まなくてもいいんじゃないのか?

 いや、やっぱある程度理解してないといざという時困るかも知れない。重要そうな所を重点的に読み込んでおこうと取説を開いて読み始める。


 テレビの中では「Pre“G”dent”の午後はハピハッピィタイム」をやっている。

 5人組のアイドルグループがゲストとフリートークをする番組だ。この中の1人が学祭に来てくれた娘なんだーとボヤンと見ていると、ララが声を掛けてきた。


『マスター、HMVRDが使えるようになったのです』


 へぇ〜、まだ10分位しか経ってないのにけっこー早いな。電源繋げっぱなしで設定やら何やら色々出来るらしい。

 えーと、仰向けに寝るか、背もたれのある椅子で楽な姿勢で腰掛けるだったな。

 部屋の隅っこに置いといた座椅子を運び、角度を浅くして背もたれに身体を預ける。ホロウィンドウに注意事項とパーソナルコード入力の指示が出ている。

 注意事項確認の後パーソナルコードを入力してと、このパーソナルコードとは以前はマイナンパーといってたヤツで、数字だけで管理してて情報漏洩が酷くて急遽アルファベットと記号と数字になったものである。それで今では二重三重に施されたキーワードにより堅甲なセキュリティーとなっているとか。結局はイタチごっこなんだけどね。

 

 認証が終わりホロウィンドウが消えたので、そのままHMVRDをスポリと被る。少しばかり余裕がある感じだけど大丈夫だろうか。目元までスッポリ覆われるので、視界は真っ暗だ。


『起動してなのです』


 ララに言われて右側にあるスイッチを手探りで探しぽちっと押す。

 『サイズを調整します』とララでない声がしたかと思うと頭が軽く締め付けられる。でもきついという感じはしない。

 『しばらく目を閉じてお待ちください』再度声がしてきたので言う通りに目を閉じる。

 しばらくテェック項目と音声が羅列していき、2分ほど過ぎてから声がこう言ってきた。


『VRルームへライドシフトしますか?』

「はい」


 その声にすぐに答えると、身体がふわりと浮き上がる感覚がしたと思うと白の部屋の中にいた。

 周囲を見回すと8畳ほどの広さのところにひとつの壁に本棚があるだけで、中央に座り心地のよさ気な社長椅子と机があるのみで、何とも寂しい感じがする。


「マスター!お帰りなさいなのですっ!!」


 ララが天井から僕の周りをクルクル回りながら飛んできた。

 妖精のその姿のままに。


「ララ!」


 僕の目の前にララがピタリと空中で停止する。

 テレビ画面ともホロウィンドウ越しとも違う現実感を伴って目の前にララの存在を感じることが出来る。


 いや、………凄いなVR。


「ここの姿では初めましてなのですマスター。ララなのです!」


 そうか、確かにこっちの方では初めましてになるのかな。


「うん、はじめましてララ。よろしくね」

「はいなのですっ!」


 ララが以前の1.25倍の笑顔でにぱっをしてくれる。いや、確かに凄いわこれ。現実《リアル》と認識が変わらない感じだ。

 軽く手を握ったり、身体を動かしてみても何の違和感も感じられない。


「マスター、VRルームについての説明をするのです。そこの椅子に座ってなのです」


 ララの指示に従い、社長椅子を後ろに引いてドサリと座る。

 身体を柔らかく包む様な優しさと、ドッシリとした安定感。

 身体を背もたれに預けると何とも言われぬ気分になる。偉くなった感じ?

 社長椅子をギシゴシしてるとララがVRルームについての説明を始めてくれる。取説で流し読んだ時に目にはしてるけど、詳しくは見てなかったので有難く拝聴することにする。


「まず、このVRルームの機能は脳内の安定を保つためのセーフティーゾーンなのです」


 ふむふむ。自己の確立と精神安定の休憩所みたいなところだったかな。確か人間の脳の働きが器用すぎて、あらゆる事象に最適化しようとするらしく、仮想現実で違った形態(4足歩行とか飛行形態とか)で活動していると脳がそれに適応してしまい現実《リアル》の身体に馴染めなくなった事があるとか。


 それの修正の為、一時的に脳の補正と最適化をする目的で必ずVRルームですごす必要があるらしい。

 なるほど、モニターヴューのゲームならプレイヤーが4足でも巨大生物でも現実があるからそんな事も無いだろうと思うけど、実際に自分が身体を元の現実の身体に戻った時、どうなるとか考えないもんね。


 昔VRゲームが黎明期にそんな事があって、こういうシステムが作られたらしい。

 以前テレビのニュースで掲示板が紹介され【俺のフレが2本足で立てなくなった件wwwww】というスレッドがたくさん上がって騒動になったこともある。逞しいと言うか………、ある意味そら恐ろしい。

 そんな経緯で作られたVRルームなのだが、他にも色々利用することが出来て重宝しているとのこと。


 まずは電子媒体での書類作業、これは現実の活動と同様のことが出来、肉体自体は活動していない事で(脳は活動している)肉体の疲労の蓄積が抑えられるとか、事務職や作家、アニメーター等の人が好んで使用してるとのこと。


 なる程、色々利用価値があるんだなぁ〜と感心する。

 ん?てことはうちのゼミなんかでロボ造りにも応用が効くんじゃなかろうか。

 いや、先生の事だからもう導入してるかも知れないな。

 今度、ゼミの誰かに聞いてみるかな。

 僕自身もちょっと使わせて貰うのもいいかも知れない。


 ララの説明を聞いてるうちに思いついたので、説明の合間に聞いてみる。


「ララ、ここって現実みたいに物を作ったりって作業は出来るの?」

「はい、出来るのです。それにはそれ専用のソフトをインストールする必要があるのです」


 そうして本棚にある方へと飛んで行き、本棚にある本を何冊か抱えて持って来る。


「これがこのHMVRDにプレインストールされてるソフトなのです」


 ララが机に置いたのは、【アトラティース・ワンダラー】と運動をする為のアスレチックゲーム、部屋の模様替えをする為のインテリアソフト。後は世界遺産を巡り見る事が出来る旅行《トラベラー》ソフトのお試し版だ。

 僕がためす眇めつそれらを眺めてから、そういや自分の姿はどうなってるんだろうと思い出しララに確認を取ることにする。


「ララ、ここでの僕の姿ってどうなってるの?」


 今僕の服装はといえば、黒っぽいジャージに突っかけサンダルというものだ。目に見える範囲で僕の身体は現実とは何の違和感も無い気がする。

 手に触れた顔の感触も自分だなという認識はあるのだけど、こう現実《リアル》と差異が無いと少しばかり不安になってくる。


「インテリアソフトに鏡があるのです」


 そう言ってララは1冊の本をタップすると、ホロウィンドウが現れてくる。

 そこには色々な家具(机、椅子、タンス)等がズララと表示されていた。いやー、凄いねこれ。

 ズララとスクロールさせていくと鏡が見つかる。


「これがいいのです、マスター」


 ちょっと細めの全身鏡をララが指差す。ふむ、まーいっか。

 それをタップすると部屋のレイアウトが表示され設置場所に赤い鏡のシルエットが出て来た。


「それを動かして、設置場所を決めてなのです」


 指でそれをホールドして適当に動かすと、一緒に移動する。面白い。

 それを本棚の脇に動かして止める。………この後どうするんだ?


「場所が決まったらダブルタップしてなのです」


 チョチョンと2回タップすると、本棚の脇のところから光のシルエットが現れて弾けるとそこに全身鏡が現れる。


「ふお〜っ」


 僕は鏡を覗きこみ動いてみる。。そこにはいつもの僕の姿が覗きこむように映しだされている。


「マスターのその姿は、パーソナルコードから転用したものが利用されてるのです」


 そういやパーソナルコードが始まってから年1回の健康診断に必ず行くようになったっけ。

 セキュリティーが頑健になったことや管理PCのある場所の警備強化云々とかで、安全に個人情報が管理出来るので、義務化されたのだった。逆に身体情報や指紋、声紋を登録してセキュリティーの強化にも繋がってるらしい。

 これを怠ると公共サービスの一部にペナルティーを科せられるらしい。一部の人権団体が抗議をしてるとか聞いたことがある。

 僕もこの地区の健康診断にこの春に行った記憶がある。


「へぇ〜パーソナルコードにそんな使い方もあるんだ」

「はいなのです。でもコードだけじゃダメで住んでる位置情報とか本人確認の質問とか必要なのです」


 となると今日は僕の住んでるアパートからの入力だったから、それだけで済んだってことかな?


「されにパーソナルコードの利用には、必ず本人にメール等で連絡が行くので成り済ましは難しくなってるのです」


 ふうん、けっこー厳重ではあるんだな。まぁ、穴は色々ありそうな気もするけど、常にパスワードとか変えていけば何とかなりそうかな。


「あとはクローゼットソフトがあるのです」


 そう言ってララが別の本を指し示してくる。


「ん、これ?」


 本を手に取りタップすると、ホロウィンドウが出て来て様々な衣服が表示される。

 男物、女物、ユニセックスなものまで、それ程数はないけど僕としては充分な数と言えよう。

 この手のVRルームでの初期設定では最初は皆ジャージにサンダルなのとか。外からの設定も出来るみたいだ。


「マスター、再設定するのです?」


 僕は部屋を見回して少し考える。オフィスみたいなこの部屋も悪くはないけど、ちと落ち着かなくもある。


「服はこのままでいいけど、ちょっとだけ模様替えしよっか」

「はいなのです。リフォームなのです」


 いや、ちょっと違う気もするが、まぁやる気満々なので流しておくことにする。


 あれやこれやとララと話し合いながら出来たのは、畳敷きの床に卓袱台と座布団、本棚のある部屋となった。服装の方もサンダルは外しておくことにする。

 まんま、僕のアパートの居間である。

 変に凝るよりかは落ち着くので、いいんじゃないかと思う。

 出来上がった部屋を見回しながら満足していると、ララが時間を伝えてくる。


「マスター、もうすぐ夕ゴハンの時間なのです」


 お、こりゃいかん。色々やってたら時間が経っていたようだ。姉にカレーを作ったことは連絡してあるので、準備をしなくちゃいけない。


 僕はメニューを出してVRルームからライドシフトした。

 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

Pt&ブクマありがとうございます(T△T)ゞ


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