50.マルオー村で下拵えと麦の刈り取り
いつもより少し長めです
「ララ、グランドクエストって何?」
どこからかそこからかい!って声が聞こえないでもないが、知らないもんは知らないのだ。
『グランドクエストはMMORPGにおける大規模イベントの事なのです』
「大規模?どんな感じなの?」
「普通のクエストは1人から6人までのソロとパーティーでプレイするのです。あるいは複数のパーティ-で組まれたレイドパーティーが、それぞれの難易度に合わせて人数を増やしたり減らしたりしながら個々のクエスト―――冒険者ギルドの依頼や、何らかのフラグで起こされたイベント―――をプレイするのです。そしてグランドクエストは数百人規模のプレイヤーが、同じクエストをプレイするものなのです』
数百人規模とは何とも想像もつかないがとんでもない事だけは分かった………気がする。
「それが近日中に行われるってわけなんだな」
『そうなのです。ワクワクドキドキなのです』
拳を握り締め二の腕辺りでブンブン振ってる。すごく楽しみにしてる感じだ。それって全員参加なんだろうか。
「んー、それって全員参加なの?」
『いいえ違うのです。期間限定のクエストなので参加したいと思ったプレイヤーだけになるのです』
「ふーん。今迄にもグランドクエストってあったの?」
『はいなのです。今迄3回あったのです。種族旗争奪戦とローグ系ダンジョン攻略と、巨大モンスター討伐戦なのです』
ローグ系って何だっけと考え、マップが入るたびに変わるヤツかと思い出す。なんかめん………大変そう。
『あのぅ………。いったい何のお話をされてるんでしょうか?』
僕とララの会話を聞いていたスーさんが、不思議そうに質問してくる。
『ララとマスターの秘密のお話なのです』
右人差し指をピッと口元に当ててスーさんへ答える。
『……そう、ですか。分かりました』
理解は出来ないので無理やり納得したってとこか。そこで僕は料理について聞きたい事があったので、話を切り替える。
「ところでスーさん。お肉の下拵えをしたいんだけど、どこか使える部屋とか場所はありますか?」
『あっ、はい!宿屋の方に厨房があるので、そこを利用して頂きたいと思います』
厨房があるならそこを使わせて貰えば色々出来るかな。うん。
「じゃ、刈り入れの時間まで間があるんで、さっそく使わせて貰っていいですか?」
『はい!ではこちらです!!』
スーさんが笑顔全開で僕達を引き連れて宿屋へと案内する為、冒険者ギルドを出る。と言っても1軒先の建物なんだけど。
武器防具屋を通り過ぎようとすると、扉が開きリャンさんが顔を見せる。
『あら、ス―姉。どこに行くの?』
『んーとサァンのとこだよ』
笑顔でリャンさんに答える。すっごく嬉しそうだ。
『え?何しに行くの?』
『お料理して貰うんだ。ワイルブモーのステーキ!』
その言葉を聞いて見をキラリンとさせるリャンさん。
『今?これから!?あたしもいい!?』
スーさんへ飛びかかるように迫ってくるリャンさん。どんだけ飢えてるんだ、この人達は。
『えっとね、先に麦の刈り入れの依頼があるから、時間までに下拵えだけしたいって言うんで、厨房のある宿屋へ行くとこなんだけど……』
言外に今は食べれないよと、言ってるんだと思うんだけどたぶん聞いちゃいないな。
『じゃ、じゃあたしも行ってもいい?邪魔しないからさ』
行ってみたところでまだ食べられやしないのだけど、何でなんだろう。
『いいですよね。ヤマトさん!』
振り向いてすんごくイイ笑顔で聞いてくるスーさん。こちらが言える言葉はひとつしかない。
「……ええ、いいですよ」
『ひゃっほ〜っ。ありがと〜』
こうしてスーさんリャンさんの後をついて、宿屋へと向かう。
勝手知ったるナントヤラで、2人して宿屋へと木製ドアを開けて入って行く。
後に続いて入って行くと、広さ10畳程の中は灯りもなく暗がりが広がっている。
どう見ても営業中とは思えない。掃除もしてないらしく埃が積もっている感じだ。
何もここまでリアルにしなくてもいいだろうにと思う。
『サァンはどこにいるのかな?』
『自分の部屋に引き篭もってるんじゃないの?』
『じゃ、リャンはここを掃除しておいてくれる?あたしは厨房へ案内するから』
『分かった。やっとく』
『お願い』
2人で役割を決めて行動へと移していく。
『こっちが厨房になります。どうぞ』
宿屋の内部は入って左手側に受付、右手側に食事を取るためのテーブルが2つとそれぞれに椅子が4脚づつ置いてある。
そして受付の脇と入り口の正面に奥へと進む出入口がある。
スーさんが左側、すなわち受付脇の出入口へと僕達を案内してくれる。中に進むと通路が奥へと伸びていて、スーさんはその手前の左側にある出入口へと入って行く。
厨房の中は受付よりもやや広めで、正面の壁にはコンロやオーブンが置いてあり、出入口の右手側には食器棚、中央には調理と配膳用の大きめのテーブルが設置されている。
『ここが厨房になってます。依頼の料理はここで作って頂けますか?』
「はい、分かりました。とりあえず下拵えだけやっておきますね」
『はい、よろしくお願いします。あたしはリャンを手伝ってきますので』
スーさんが厨房を出て行くのを見送ってから、僕は周りを見回す。
受付の場所とは違いこちらは埃も積もっておらず綺麗になっている。
こっちは日頃からしっかり掃除をしているみたいだ。
『マスター、始めるのです!』
夕ゴハンを作る関係もあるので、ララの声を合図にさっさと下拵えを始めることにする。ま、肉切って塩コショウ振るだけなんだけどね。
調理用のテーブルの前に移動して、メニューを開き【調理】スキルを選び決定。
画面が調理モードに切り替わりコマンドが表示される。
“切る”を選んでワイルブモーの肉を選ぶと、まな板の上にワイルブモーの肉塊と包丁がやってっくる。
包丁を左から右へと少しづつずらして行く。さて1.5cmくらいがいいかな。よし、と肉を切ろうとした瞬間、女性の声が聞こえてきた。
『……もっと厚く切って』
「へ?」
『…もっと』
声はすれども姿は見えず、って当たり前なんだけど仕方ないので言うとおりにする。
少しずらして2cm。
「これくらい?」
『……もっと』
さらに3cm。
『……あとちょっと』
ついに4cm。ん―あんまり厚すぎると肉が完全に焼けなくなるんだけどもどうするかな。
『……それくらい』
「了解」
まぁ、たぶん何とかなるだろう。レベルが上がって出来ることも増えた訳だし、ララもいるし工夫すれば美味しく作れるだろう。
女性の言葉通りに4cmの厚さで肉を切っていく。レベルが上がったお陰でptも高めだ。
とりあえず人数分+アルファで10枚分を同じ様な厚さで肉を切り終わり、次にララに頼んで肉に切り込みを入れるように頼む。
「ララ、悪いんだけど肉に小さな切れ込みを入れてくれる?一枚につき10ヶ所くらいでいいから」
『わかったのです。任せてなのです』
ララが包丁を抱えて切り取った肉へと、次々と切れ込みを入れていく。
さすがに調理モードじゃこんな真似は出来ないから、ララがいればこその裏技的なものだな。
『終わったのですマスター』
「ありがとララ」
ララの言葉を聞いて、一旦【調理】を終わらせる。
通常画面に戻ると、僕達がいる調理用テーブルの反対側に顔の上半分をテーブルから出してこちらを見ている女性がいた。
『……あなた、誰?』
「僕は冒険者のヤマトって言います。スーさんに料理の依頼を受けたんで、場所を提供して貰ってここにいます」
その女性の問い掛けに名前と依頼の件を説明する。
『……スー姉、何を……。…分かった自由に使って…。…ちゃんと後片付けして……』
『あなた様はどなたなのです?』
分かっちゃいるけど、とりあえずララが誰何してくれる。ララの言葉に、女性は立ち上がりこちらを見て自己紹介を始める。
『……私はここの主人。……サァン。…終わったら出てって……』
冒険者へ思うことがあるのか、少しばかり苦味を含んだ自己紹介?をしてくる。
僕自身は特に何だとか思うところは何もないけど、約2名その言葉にカチンと来たものがいた。
『ああ?あなた何言ってるんです?いきなり見ず知らずの人間に出てけとか。客が来ないなんてふてくされて営業努力もせずに引き篭もっている分際でマスターにそんな事を言うなんて巫山戯てるのです!』
『へ?』
『グッグッグ――――ッ!!』
『“ただ待ってるだけでどうにかなるなどと考えるのは愚者の論理なのだ!マスターに八つ当たりはいけないのだ!”とウリスケさんも言ってるのです』
グッが3つ程でそんな事を喋っているとは……ウリスケも奥が深いな〜〜。
『…………っっ!』
2人に責め立てられ、サァンさんは眉にシワをよせ頬を膨らませて睨んでいる。2撃目を受ければ怒りだすかもしれないので、僕は2人を落ち着かせる。
「ララ、ウリスケもういいよ。庇ってくれてありがとな。サァンさんすみませんね。2人とも悪気はないんで、許してやって貰えますか?」
僕はララとウリスケを宥めて、サァンさんに許しを乞う。
僕の言葉と様子に頬を膨らませていた顔が収まって眉間の皺が消えていく、それから眉尻を下げてこちらを見て謝ってくる。
『……私もすみません。……あなたのせいでないのに出て行けって言いました』
「いやいや、冒険者が通り過ぎて行ったのはあなたのせいじゃないし、これからどうすればいいか考えていけばいいんですよ」
『……ありがと』
サァンさんも他の4人と同じ顔をしておりショートがちの紫髪はあちこち跳ね回ってボサボサだ。鼻の右側にホクロが付いている。
「それで下拵えと後で調理をしますんで宜しくお願いします」
『……お願いします』
そう言って本来の主人に許可を貰う。よしよし。そこへスーさんが厨房へ顔を出してきた。
『あら、いないと思ったらここにいたの?サァン』
『……スー姉』
『あなたねぇ、いじけて引き籠もるのは構わないけど、掃除くらいはしなさいな。ほら、あなたも手伝って』
『……お客なんか来ない』
『いるじゃない』
スーさんがそう言って僕等を指差す。サァンさんは不服そうに頬を膨らませるが、やがて溜め息を吐いた後スーさんの方へ歩き出す。なんか僕等がここに泊まるようなフラグ立てはやめて欲しい。
『……わかった』
『はい。ちゃちゃっと行くわよ』
サァンさんが厨房を出て行った後、スーさんがこちらに申し訳なさそうに謝ってくる。
『ごめんなさい。あの娘少し人見知りなものでついぶっきらぼうな口調で話すから知らない人だと誤解して行き違いがあるみたいなんです。なのでお気になさらないでくださるとありがたいのですが……』
「ええ、気にしてませんから大丈夫ですよ。あと刈り入れの依頼はどこに行けばいいんですか?」
『はい、えっと時間がきたら案内しますので、それまでここで待ってて貰えますか?』
「分かりました」
スーさんの謝罪を受け入れて刈り入れの依頼の場所を聞くと、案内してくれるというので、それまで下拵えの続きを再開する。
メニューを開き【調理】スキル→その他→かけると選ぶ。
材料からワイルブモーの厚切り肉を選んで塩とコショウを振り掛ける。麦粉は焼く前に掛けるので下拵えはこれで終わりだ。
さて、後は刈り入れの時間まで待機するわけだけど、リアルでも夕ゴハン作りを始めたいのでララとウリスケにしばらく後を任せる事にする。
「ララ、ウリスケ。ちょっと夕ゴハンの仕度をするからしばらく頼むね」
『分かったのです。任せてなのです』
『グッグッグ!』
後はオートアクションプレイを起動させてヤマトへと引き継ぐことにする。
「ヤマトもよろしく頼むね」
『……………』
*
目を凝らし首を巡らせ手を握る。観ていただけだった身体が自由に動かせる。それだけの事が俺に喜びを与える。
しかし、操主に頼まれた事を思い出し心を静めていく。
「ヤマトさま、向こうの部屋で少し待つのです」
「ああ、分かった」
厨房を出て通路を受付の方へと向かう。動かす足取りも軽く感じてまた気持ちが上がってくる。いかんいかん。落ち着け落ち着け。
通路を抜けると受付兼食事処へと辿り着く。先程まで埃まみれだった室内は綺麗に整えられている。
奥の方からスーさんとサァンさんが連れ立ってやって来た。
「あ、下拵え終わりました?それじゃそろそろ時間になるので案内しますね」
「よろしく頼みます」
「?」
俺が返事を返すとスーさんが不思議そうな表情を見せる。しばらく眉根を寄せてこめかみを押さえて考え込んでいたが、何かを切り替えるように表情をあらためこちらを見て先導して宿屋を出る。
「では、こちらへお願いします」
!そうか声が違うんでおかしく思った訳か。んー迂闊だったな。しかし喋らない訳にもいかないし、ここは見逃して貰うとしよう。
スーさんの案内で東街道を東へ進み、ワイルブモーを狩ったのとは反対側の脇道へと曲がり歩き進める。脇道といっても大人3人が余裕で歩ける幅の道を、建ち並ぶ家々を眺めながら南へとさらに歩いて行く。
村境の木の柵が見えてくると、そこに3つの人影が立っていた。
「お待たせしましたヴァーバさん」
「いや、俺らも今来たとこだし」
夜があけ、次第に空が明るくなってくると人影だった人達の姿が良く分かるようになった。
1人はいかにもお爺さんと呼ばれる背の低い老人。
1人は背の高いガッチリとした体格の壮年の男性。
いま1人は帽子をかぶった金髪を後ろにひとつ束ねた若い女性。
3人の前に行くと各々自己紹介を始める。
「おお、今日はよろしく頼むなし。俺はヴァーバってもんだ」
「おいはコルドンっていうだ。コルって呼んでくれ」
「あーしはマインハって言います。よろしく!」
老人、男性、女性がそれぞれ名前を告げくる。
「俺は冒険者のヤマトって言います。よろしく頼みます」
「ララなのです。こちらはウリスケさんなのです」
「グッ!」
「「「よろしく〜」」」
そんな風に挨拶をした後、俺達は麦の刈り入れ作業を始めることになる。
朝焼けが空を染め輝きキラキラと麦を照らしている。
「キレイだな」
「なのです」
「グッ」
操主も呟いていたが、朝日の中で黄金色に輝く麦畑もまた格別だ。
ヴァーバさん達の後について中程まで脇道を進んでいくと、麦畑の中へと入って行く。
「さーて、ここから始めるべ」
麦畑のある一角で止まると後ろに背負った籠から刈り取り用の鎌を取り出しこちらに渡してきた。
「それじゃ、俺らの作業を真似してやってくれなし」
鎌を受け取りヴァーバさんの言葉に従い作業を見つめる。
まずはヴァーバさんがお手本を示す為か1人で麦畑へと入りしゃがみ込むと、麦穂の束をひと掴みしてそれを捻る。
そして捻った根本に鎌を添えて両断。スパリと麦穂が刈り取られる。
「ほら、こんな感じで麦穂を捻りながら切ると簡単に出来るなし」
ヴァーバさんが場所をよけて俺に示す。俺は示された場所に進みしゃがんで麦穂を掴みねじって鎌を振るう。
ザカザク。ありゃ、若干斜めに入った切り口から歪に麦穂が切れてしまう。失敗した。
「ヤマトさま。刈った麦穂はこちらに渡してなのです。きっちりかっちり運ぶのです」
「ああ、頼む」
「ぐっ!」
相棒の言葉に手に持っていた麦穂の束を渡すと、飛びながら両腕でしっかり抱えて置いてある籠へと入れていく。
大した力だ。そしてウリスケが次に麦穂を受け取ろうと、2本足で立って待ち構えていた。
その期待に応えるべくあらためて麦穂を掴みねじり、ふとヴァーバさんの動きを思い浮かべそれをトレースする。
麦穂の束を握り、ひと纏めにしてねじる。そして鎌を水平に―――いや、麦穂に添えるように鎌を垂直に並べ切る。
スパ。
出来た。切り口も歪ではなく綺麗なものだった。
「グッ!」
前足を前に広げて待ち構えているウリスケに麦穂の束を渡す。
ギュッと麦穂の束を抱えて嬉しそうに駆けて行った。アイツは何でもありだな。
要領を掴んだので、次々と麦穂を刈り始める。
その様子を見ていた3人も場所を変えて、刈り入れを始める。
しばらく作業をしているとそいつ等がやって来た。
「ヤマトさま、モンスターが3体南の空からやって来るのです」
「分かった。戦闘の準備をしよう」
「了解なのです」
「グッグッ!」
作業をヴァーバさん達に任せ、俺は鎌から斧へと得物を持ち替えて南の方を向いて刈り取った麦穂の束の前で待ち受ける。
奴等は何故か刈り取った麦にしか襲いかかってこないらしい。謎だ。
「ピ〜ヒョロロロロッ!」「ピヒョロロローッ」「ヒョオオオロロローッ!」
「来るのです!」
「グ―――ッ!」
上空からこちらに向かって急降下してくる鳥型モンスターが3体、俺の目にも見えてきた。大きさは1m程の茶と黒色の猛禽類の鳥の姿をしている。
「ステップピヒョローなのです」
相変わらず微妙な名前だ。そんな事を考えながら魔法を放つ準備をする。
火と風は麦畑に燃え移る可能性があるので拙い。なので土魔法を選び詠唱を始める。
「ピヒョロロロゥ~ッ」
麦穂の束でなくこちらに狙いをつけて来る。結構好戦的なモンスターだ。
魔法の攻撃範囲に入って来たので、相手を見据えすかさず魔法を放つ。
「グランバレット」
「アクアバレット」
「グッグッグ―――――ッ!」
「ピギャ!」「ロロギョッ」「ヒョガッ」
縦隊列で飛び込んできた1体目、2体目にそろぞれ魔法が命中する。その2体がダメージを受けバランスを崩しながらも立て直し上空へと飛び上がる。
3体目は飛び込む様に突っ込んだウリスケのカウンターをもろに食らって地面へと叩き付けられる。やるなウリスケ。
俺は地面に転がるステップピヒョローへ斧で攻撃を加える。
ウリスケもさらに追撃を加える。俺とウリスケの攻撃でまず1体目を撃破!
そして次の攻撃に対して再び待ち構える。
体勢を立て直した2体が上空で旋回をしている。
俺はその間に【付与】で皆に攻撃力と防御力の付与を与える。
そして今度はアーツの準備をする。
やはり飛行型は地上型とは違いタイミングが肝となる。ワイルピジョンの時もそうだが、こちらが後手に回ってしまうのは致し方が無い。
その間も3人は麦の刈り取りを続けている。こちらを見て「いやぁ、助かるなし」とか言ってる。
あんまり緊迫感とか悲壮感とか感じられないのだが、盗られても別にいいやみたいな雰囲気だ。
何となく力が抜ける感じだ。
俺自身は依頼であるので出来る範囲でやればいいかと思い直し、アーツを放つ為斧を構える。
「ヤマトさま!来るのです!」
相棒の言葉を合図に、俺はステップピヒョローへ向かってイミットアーツを放つ。
「スラッシュ」
斧から放たれて衝撃波が下から上へと吸い込まれるようにステップピヒョローへ襲いかかる。
「ストンバレット!」
すかさず相棒が土魔法を唱え石弾を浴びせる。
「ピュロッ!!」
先頭のステップピヒョローがスラッシュで衝撃波を食らって斜め上へ飛ばされたところに、石弾が的確に当たり宙を舞い落ちて光の粒子となって消えていく。
あと1体。
さっきの奴に時間差で襲いかかってきた奴に、あらかじめ溜めていたクロスラッシュを放つ。
衝撃波がステップピヒョローに直撃すると、クリティカルヒットの表示が出て気絶状態になりくるくると回りながら落下してくる。
それを待ち構えていると脇からウリスケがビュヒュンと飛び出し、身体を回転させてステップピヒョローに体当りしそれを貫く。
「グッグッ――――ッ!!」
「ピヒョヒョロォ――――ッ!」
一瞬遅れてステップピヒョローが光の粒子になってい消えて行った。うむ、美味しいところを取られたな。やるなウリスケ。
「グッグッグッ――――ッ!!」
「さすがなのです!ウリスケさん!」
勝利の雄叫びを上げるウリスケに、それを相棒が讃える。
こうして麦の刈り入れとモンスターの狩り取りを、操主が戻るまで続けたのだった。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




