34.エリアボスと対決する
靄が晴れるとそこは草原というか芝生の生えた野原と言った方がいいのか、自然公園にある大きな広場みたいなところだと思った。
空は不気味な薄紫でいかにもな雰囲気で、BGMがそれをさらに盛り上げるようにアップテンポに変わっていく。
そして、どこからか女性の声が空間に響き渡る。
『“この世界の地を刻みし新しきワンダラーズよ。今こそその力を示しなさい”』
なんか神様っぽいヤツなのだろうか。んでワンダーラーズってのはPCのことか。
「ララ、エリアボスってどんなモンスターなんだ?」
『それは―――、来るのです!』
『グッ!』
「へっ?」
前方5m先の地面が赤、黄、青、緑と次々と光り輝き出し、そこからモンスターが出現する。
ポコンポコンと地面から出て来たのは30cmくらいの葛マンジュウ。いや、RPGでお馴染みの冒険始めのモンスターであることの多いスライムだ。
「え?スライムがエリアボスなの?」
『いっぱい出てくるのです。素早く倒さないと大変なのです』
ララが詠唱を始めるのを横目にとりあえず1体のスライムを【鑑識】してみる。
モンスター:マギスラーミ(火属性) Lv3
HP 30/30
MP 30/30
スラーミの上位種
魔素を取り込み進化した種
動きは鈍い
衝撃と風魔法に弱い
スライムじゃなくてスラーミっていうんだ。しかも上位種か。レベルは低いけど強いのか?赤いスラーミで火ということは 他のスラーミも色が違うと別の属性を持ったヤツって事になるんだろう。なかなか面倒そうだ。そうしている間にもマギスラーミが8匹に増えていた。
“ヤマト”への違和感を拭い切れないまま戦闘を開始する。
ウリスケが青色へ向かって突進。ララが赤色に向かって詠唱を終えて魔法を放つ。僕は1番手前にいる緑にロックオンしてダッシュする。近付きざまに縦斬りを1撃するが、ダメージは1/3程か、あまり堪えた様子がない。ってか分かり難いな。この後2撃を与えるとマギスラーミが消えて行った。
ララが風魔法で赤スラーミを何体か倒し、ウリスケが次々と青スラーミを体当たりで粉砕し消していく。
それでもボコボコ数が増えていってる。
「一体何体出てくるんだ?こいつら」
僕の何気ない呟きにララが答えてきた。
『ごめんなさいなのですマスター。メインスキルにある魔法×10匹が出て来るのです。もっと早く気づけば良かったのです』
4魔法×10で40匹か、けっこー大変だなこりゃ。その間も倒しても倒してもポコポコとマギスラーミが出てくる。目の前はモザイク模様に彩られたマギスラーミの海だ。ってか40匹以上いるんじゃないのか、こいつら。とりあえず数を減らすのが先決だ。
「コンビネーションアーツを使って数を減らしてみる。攻撃後のフォローを頼むな」
『はいなのです』
『グッグ―――ッ』
もともと動きの鈍いスラーミなのでこちらが攻撃をを受けるのは体当たりだけなので、ダメージは殆ど無いに等しい。手近にいた青スラーミに10連撃を与える。(アーツ発動状態になるとダメージ量を越えても消えたりしないようだ。不思議だー。)
光を纏った斧を青スラーミに浴びせると竜巻のエフェクトとともにマギスラーミ達が次々と宙へと吹き飛ばされていく。
中心部にいたマギスラーミ達は光の粒子となって掻き消えていき、残りは1/3程になる。
技硬直した“ヤマト”を見てララとウリスケに残りを頼む。
「ララ、ウリスケ。残りの奴等をお願い!」
『分かったのですマスター』
『グッグ!』
ララが魔法の詠唱を始め、ウリスケが突進する。
技硬直が解けた“ヤマト”を操作して僕もスラーミをロックオンして斧で攻撃する。
残り1体をウリスケが体当たりで倒そうとした時、突風が巻き起こりララとウリスケが風で飛ばされてしまう。
「ララ!ウリスケ!」
『きゃあああぁぁぁっ!』
『グゥッググ――――ーッ!!』
突風が収まるとそこには巨大な葛マンジュウが鎮座していた。
風で飛ばされていたララとウリスケが僕のところに戻ってくる。
「大丈夫?ララ、ウリスケ」
『大丈夫なのです。問題ないのです』
『グッググッ!』
2人の無事を確認して目の前の巨大葛マンジュウを見る。大きさは幅が3m、高さが2m。僕のアパートの8畳間程の大きさだ。なんなのこれ?
僕の心の疑問をララが答えてくれた。
『あれが最初のエリアボスなのです』
「え?じゃ、さっきのスラーミは何だったの?」
『あのボスモンスターの前哨モンスターなのです』
なるほどね、ボスの前に小手調べってやつみたいだ。
そこに再び女性の声が響き渡る。
『“新しきワンダラーズよ、次なる試練にその力を示しなさい”』
いや、こんなデカイのどうしろっていうんだ…………。
『マスター!避けてなのです!!』
巨大葛マンジュウがブルブル震えると、その身体の輪郭が光りだしビヨ――――ンと空中へと飛び上がった。
「おおおおおっ!!!」
ドポォォォォォン!
慌てて左ダッシュでかわしたが、着地時の反動で平たく広がった巨大スラーミに思いっきり弾き飛ばされてしまう。HPゲージが1/4もダメージで減ってしまった。
ブヨンブヨン上下に揺れながら平たい姿が元の葛マンジュウへと戻ろうとしている。
『マスター大丈夫なのです?平気なのです?』
「あ、うん。ちょっとダメ貰ったけど大丈夫だよ」
『グッグゥ』
2人とも突風で飛ばされた時のダメージは無いようだ。
『アクアヒール』
ララが“ヤマト”に水の回復魔法をかけてくれHPが9割まで回復する。
巨大スラーミは力を溜めているのか上下に身体を揺らしながら動かないでいる。何だ?ボスモンスターってのは飛び上がり攻撃が好きなんだろうか?よくこれで襲われるし。
『でもおかしいのですマスター。ビッグスラーミはあんなに大きくないのです』
ララの言葉に【鑑識】を使って巨大スラーミを調べてみる。
モンスター:ビッグビッグスラーミ〔変異種〕 Lv??
HP ??/??
MP ??/??
何らかの原因で超巨大化したビッグスラーミ
物理攻撃に強い
魔法攻撃に弱い
………また変異種が出たみたいだけど、なにこのてきとーな説明文は。こうなると魔法でちまちま削るしかないみたいだけど、MPの量が心許無い。
「ララ、MPは大丈夫?どうやら物理攻撃は聞きにくいようだから魔法で攻撃するしかないみたいなんだけど―――――――」
『ララのMPはまだ半分ほどあるので大丈夫なのです。あ、そういえばサキさまがMPポーションを買ってたのです。マスターはそれを使ってなのです』
どうやら元の形に戻った巨大スラ-ミが何かしようとしてか、身体をブルブル揺らし震わせて光を纏い出す。
MPポーションを飲むか回避するか迷った刹那、ウリスケがストトトトと巨大スラーミに向かって突進していく。
物理攻撃の効かない相手に体当たりしても、逆にこちらがダメージを受けてしまうかも知れない。僕は思わず声を上げてしまう。
「ウリスケッ!!」
『グッグ――――――ッ!』
大丈夫とでも言う様に僕の声に応えるウリスケ。その周囲に火の粉が舞い上がるような紅いエフェクトがウリスケの身体を覆うように包みこんでいる。
ストトトトトタッ、ドゴォォォォォォン!
4tトラックに幼児が乗る足漕ぎ自動車のオモチャが体当たりをする感覚で様子を見ていたが、へこまされれたのは巨大葛マンジュウの方だった。
さすがに吹き飛びはしなかったがウリスケの体当たりした部分がへこみ波打っている。
『ブオオオオホォアァァア!!』
巨大スラ-ミの悲鳴?が響き渡る。
「へ?何で大丈夫なの?平気なのウリスケ!?」
体当たりした後に、宙でくるくる回転しながらシュタッと着地するウリスケ。何気にカッコ良いんですが…………。
『そういえば、先ほどレベルアップして何かスキルを覚えたと言ってたのです』
『グッグッグ―――――――ッ』
『〝ボクはさっき【火纏】を覚えたのだ。ボクは足手まといにはならないのだ。”なのです』
いやね、そんなこと露ほども思ってないから。まぁみんなに戦う術があるのは悪い事じゃない。
とりあえずメニューを開きMPポーションを取り出し使用する。
5本あるうち2本を僕が使い、3本をララに使う。僕のMPゲージが満タン近くに回復するが、大量にMPを持ってるララには雀の涙ほどで大して回復はしていないみたいだ。
今のところヤツの攻撃はアーツみたいな溜めジャンプ叩き潰しの様なので、ウリスケに攻撃してもらいキャンセルさせて、その間に僕とララで魔法攻撃をしてダメージを稼ぐことにする。
2本あるうちのHPゲージが1本消えると、攻撃方法が変化してきた。
巨大スラーミがブルンブルン震え出すと鞭の様な触手が身体から飛び出て、僕達に襲い掛かってくる。
灰色だった体色が赤色に変化して触手をブルンブルン振り回す。
うわぁー、今度は対応した属性の魔法で無いとたいしたダメージが与えられないのかも知れない。
下手に回復でもされたら目も当てられないので、ウリスケに注意しておく。
「ウリスケ、アイツの身体が赤い時は攻撃しないでくれ」
『グッ!』
鞭のように触手をしならせて〝ヤマト”に叩き付けて来るのを躱して風魔法を放つ。
『〝ウィンドカッタ!”』
『ウィンドカッタ!』
風の刃が巨大スラーミの身体を切り裂く。今度は碧に色が変わる。身体がデカイ分外れることは無いが、ファンブルして魔法をキャンセルしてしまうことが多い。またMPが心許無くなる。
MPポーションを使うか考えあぐねている所に触手が〝ヤマト”を突き貫こうと真っ直ぐにこちらに向かってくる。
僕は思わず斧の横斬りを押してしまう。!しまった。HPを半分近くも割ってる今ダメージを受けたら終わってしまう。
やられることを覚悟していると、僕の予測は外れ斧は触手の先端を切り払い弾き飛ばしてしまう。
あれ?物理攻撃いけるのか?試しにスラッシュを打ってみると魔法よりは低いが攻撃が効いてるみたいだ。
ララが魔法で、ウリスケが体当たりで、僕がイミットアーツで攻撃して残りHPが3割迄になったところで、巨大スラーミが三度ぶるぶる震えだして形を変えていく。
ブルブル震えていた葛マンジュウがムクリムクリと上へそそりあがっていく。
変化した巨大スラーミの姿は、薄灰色のボールへとなっていた。
直後3m程の巨大スラーミがグラリと揺れると僕らの方へと転がり始める。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ―――――――――――――――ッッ!!
その姿に僕らは慌てて右へと走りなんとかわす。少しだけ勢いを弱めて方向転換して再度こちらに向かってくる。
「うおぉぉぉぉぉっっ!!」
『ひあぁぁぁぁぁぁっ』
『グッグッグ―――――――ッ!』
巨大スラーミボールは真っ直ぐにしか進めないらしく直前(だいぶ前)でかわせば何とかなるが、攻撃出来なければどうしようもない。
〝ヤマト”を操作しながら考えているが、いい方法が浮かばない。玉砕覚悟ってのも何だかって感じだし………どうしようか。
『マスター、ララに考えがあるのです』
「分かった!任せる何したらいい?」
『ララが穴を掘るのでマスターはその手前に壁を作ってなのです』
「わ、わかったっ」
穴なんか掘ってどうなるもんなのか知らないけど、ここはララの言う通りにしよう。
巨大スラーミボールが、またこちらに突進して来る。その進行方向にララが土魔法を詠唱して穴を出現させる。
『グランディグ!』
巨大スラーミボールがすっぽり入るほどの大きな穴がズンッという音と共に進路上に現れる。車は急に止まれない。そんなフレーズが頭にふと浮かんで来た。
僕はその穴の手前に土魔法の壁呪文を唱え進路を塞ぐ。穴にズボリとと入り、勢いのまま飛び出そうとするが壁に阻まれ穴へと戻ってしまう。穴は進行方向に少し長めに掘られてあったが、幅がサイズぴったりなのでなかなか動けずプルプル震えてる。
半分ほど身体を出してる巨大スラーミボールに近づき笑顔を見せる。
「それじゃ」
『いくのです!!』
『グッグッグ!』
ビッグビッグスラーミはイミットアーツと各種魔法と体当たりの袋叩きにあって光の粒子となって消えていった。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




