第3章・第10話 碧の共闘
歪んだ水流が荒れ狂う。
大水流循環中枢。
その内部で、
感染した施設長が咆哮した。
既に人の姿ではない。
濁った水脈が身体へ絡みつき、
巨大な異形へ変貌している。
だが。
完全に壊れ切ってはいなかった。
理性。
苦痛。
暴走。
それらが不規則に混ざり合っている。
だからこそ、
動きが読めない。
歪水の腕が振り下ろされる。
「っ――!」
アルが飛び込む。
剣で受け流す。
重い。
水とは思えない質量だった。
床が砕ける。
その横を、
レイオスの槍が駆け抜けた。
「アルトゥス様!」
槍が異形の腕を弾く。
アルが距離を取る。
直後。
後方から蒼い光が広がった。
「循環治癒」
ミレーナの支援術。
水流がアル達を包む。
疲労が薄れる。
痛みが和らぐ。
同時に。
「右から来ます!」
ミレーナの声。
アルが反射的に身体を捻る。
次の瞬間。
歪水の槍が横を貫いた。
「ありがとうございます!」
アルが叫ぶ。
ミレーナは息を整えながら頷いた。
「止めます……!」
だが。
異形は止まらない。
濁流が床を侵食し、
施設内部へ広がっていく。
循環炉へ向かって。
レイオスが低く呟く。
「中枢を狙ってます……!」
アルも剣を構え直した。
そして。
再び前へ出る。
レイオスも同時に動いた。
――初めての共闘。
のはずだった。
だが。
妙に噛み合う。
槍が弾き。
剣が斬る。
互いの死角を自然に埋めていた。
レイオスが一瞬目を細める。
(……似ている)
踏み込み。
間合い。
剣の軌道。
違う。
レオンほど洗練されてはいない。
だが。
戦い方の根幹が、
あまりにも近かった。
異形が咆哮する。
濁流が爆ぜた。
「っ!?」
アルとレイオスが飛び退く。
その隙に。
歪水がミレーナへ伸びた。
「危ないです!」
ミレーナが咄嗟に両手を広げる。
「アクアウォール!」
蒼い水壁が展開される。
轟音。
歪水が激突する。
壁が軋む。
砕け散る。
「ミレーナ様!」
レイオスが叫ぶ。
だが。
ミレーナは退かなかった。
脳裏に浮かぶ。
学園時代。
訓練場。
レイオスとレオンが打ち合っている。
槍と剣。
高速で交差する武器。
その後方。
ミレーナは支援術を展開していた。
だが。
いつも遅れていた。
レオンは強すぎた。
レイオスも速すぎた。
自分が支援へ入る頃には、
戦況が終わっている。
悔しかった。
置いていかれる感覚が。
その時。
見学していたセリーナが笑っていた。
『ミレーナ先輩、
ちゃんと合わせられてますよ』
『……え?』
『レオン先輩、
ちゃんと待ってます』
ミレーナが驚いて前を見る。
レオンが軽く笑っていた。
『支援役がいるなら、
使わねぇ方が勿体ないだろ』
剣を肩へ乗せながら言う。
『前衛だけで戦う必要なんてねぇよ』
――思い出す。
そして今。
目の前には。
レオンに似た剣を使う少年がいた。
ミレーナが顔を上げる。
蒼い魔力が広がった。
「アルトゥス様!」
アルが振り返る。
「今です!」
水流が変わる。
床。
空間。
歪水。
全ての流れが変化する。
異形の動きが、
一瞬だけ鈍った。
レイオスが即座に理解する。
「合わせろって事ですか……!」
槍を構える。
アルも踏み込む。
その瞬間。
アルの右手。
竜族紋章が輝いた。
熱。
力。
踏み込み。
身体が自然に理解する。
竜族戦技。
アルが低く息を吐く。
「――竜閃」
爆発的加速。
一瞬で距離を詰める。
異形の懐へ潜り込む。
剣が振り抜かれた。
斬撃が、
感染した施設長の身体を深く裂く。
「――ァァァァァァァァッ!!」
絶叫。
だが止まらない。
濁流が暴走する。
腕が膨張し、
施設そのものを破壊し始めた。
壁が砕ける。
床が軋む。
循環炉へ、
侵食が伸びていく。
ミレーナの顔色が変わる。
「このままでは……!」
レイオスが前へ出る。
「止めます!」
槍が唸る。
異形の腕を弾き飛ばす。
だが。
次の瞬間。
濁流の塊が爆発した。
「っ……!」
アルとレイオスが吹き飛ばされる。
異形が咆哮した。
理性はもう残っていない。
ただ暴れるだけの怪物。
歪水が再び循環炉へ伸びる。
その瞬間。
「アルトゥス様!」
ミレーナの声。
蒼い魔力が広がる。
「今です!」
水流が変わる。
歪水の流れが、
一瞬だけ止まった。
レイオスが即座に動く。
「――穿てぇッ!!」
槍が異形の腕を貫く。
動きが止まる。
そこへ。
アルが踏み込んだ。
竜族紋章が強く輝く。
「――竜閃!!」
全力の斬撃。
剣が、
感染した施設長を真っ二つに斬り裂いた。
断末魔。
濁流が爆散する。
そして。
異形は崩れ落ちた。
静寂。
荒れた施設内に、
水音だけが響いていた。




