第2章・第9話 重なる影
施設内の空気は、まだ張り詰めていた。
火は抑えられ、負傷者の搬送も進んでいる。
だが——終わったとは言えない。
フレアとアルは、崩れた通路を見回っていた。
足音だけが響く。
アルが周囲を確認しながら言う。
「……ひとまず、大きな被害は防げたようですね」
フレアは短く返す。
「まだ分からねぇ」
一拍。
「数が合わねぇって話だ」
視線を巡らせる。
「どっかに残ってる可能性はある」
アルが頷く。
「警戒は続けます」
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しばらく歩く。
戦いの余韻だけが残る静かな時間。
フレアがぽつりと呟く。
「……さっきの動き」
アルが顔を向ける。
「何かありましたか」
フレアは答えない。
ただ、目を細める。
(……あの踏み込み)
(崩し、止め——)
(似てやがる)
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意識が過去へ引き込まれる。
乾いた地面。
砂が舞う。
学園の訓練場。
金属音。
「そこまで!」
声が響き、動きが止まる。
フレアは肩で息をしていた。
視線の先——
レオン。
後輩だが、強い。
「フレア先輩、今の遅いです」
「……うるせぇ」
踏み込む。
届かない。
躱される。
崩される。
「また見てから動いてますよね」
「合わせてる」
フレアが睨む。
「……悪いかよ」
「悪くはないです」
一拍。
「でも、それだと遅れます」
少し離れた位置に、カイエンが立っている。
世話係として、当時から付き添っていた。
「水、持ってきました」
「今はいい」
カイエンはそれ以上何も言わず、一歩下がる。
見守る。
レオンが続ける。
「先を読んでください」
「そんな簡単に——」
「簡単じゃないです」
一拍。
「だからやるんです」
風が吹く。
砂が舞う。
フレアは呼吸を整える。
見る。
読む。
「……焦らなくていい」
カイエンの声が小さく入る。
呼吸が、わずかに落ち着く。
踏み込む。
半歩早い。
レオンの動きに重なる。
拳がかすめる。
「……今の、いいですね」
フレアの目が細くなる。
何度も繰り返す。
合わせるのではなく——
先を読む。
噛み合わせる。
気づけば、動けていた。
「ちゃんとできるじゃないですか」
「……最初からできてた」
「はいはい」
「……無理しすぎです」
カイエンがタオルを差し出す。
「うるせぇ」
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光景が途切れる。
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現実。
崩れた施設。
焦げた空気。
目の前に、アル。
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フレアが小さく呟く。
「……似てやがる」
アルが首を傾げる。
「?」
フレアは一瞬だけ立ち止まる。
アルを見る。
少しだけ目を細める。
「……お前、使えるな」
アルが短く答える。
「……ありがとうございます」
フレアは視線を外す。
「……あいつほどじゃねぇが」
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その一瞬。
アルの表情がわずかに揺れる。
ほんの一瞬だけ。
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フレアは気づかない。
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再び歩き出す。
「……あいつ、今どこにいるんだろうな」
何気ない声。
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アルの足が、わずかに止まる。
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「……さあ」
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視線を逸らす。
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フレアはそのまま続ける。
「まぁいい」
一拍。
「祠、連れてってやるよ」
アルが顔を上げる。
「行きたかったんだろ」
フレアは少し視線をずらす。
「……どうせ、そういう流れだ」
アルは静かに頷く。
「……はい」
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それ以上は何も言わない。
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二人は歩き出す。
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その先に——
祠がある。




