第1章・第4話 巫女と無色
通りを抜ける。
人の流れが、少しずつ落ち着いていく。
王都の中心から外れた道。
「……」
アルトゥスは周囲を見る。
見慣れた景色。
それでも。
歩く理由が違うだけで、印象も変わる。
「ギルドは、この先です」
セリーナが言う。
「はい」
短く返す。
少しだけ間が空く。
そのまま歩く。
「……」
アルトゥスは、ふと口を開く。
「一つ、聞いてもいいですか」
セリーナは歩いたまま答える。
「どうぞ」
「無色って……実際、どういう扱いなんですか」
セリーナの足が、わずかに緩む。
だが、止まらない。
「一般的には」
少しだけ言葉を選ぶ。
「ほとんど知られていません」
アルトゥスは少し驚く。
「……そうなんですか」
「ええ」
続ける。
「本来、無色は限られた存在です」
「巫女と、王族のみ」
アルトゥスは黙る。
「……じゃあ俺は」
「例外です」
即答だった。
迷いはない。
ただの事実。
「それに」
セリーナは続ける。
「無色は、基本的に魔法が使えません」
アルトゥスは苦笑する。
「……知ってます」
学園でも、それは散々だった。
「ですが」
セリーナの声が少しだけ変わる。
「その代わりがあります」
アルトゥスの視線が動く。
「……代わり?」
セリーナは少しだけ間を置く。
「特別な力です」
それ以上は言わない。
アルトゥスも、深くは聞かない。
「……俺は、まだ何も使えませんけどね」
軽く言う。
セリーナはわずかに頷く。
「ええ」
そして。
「今は、まだ」
その一言だけを添える。
少しだけ、沈黙が流れる。
アルトゥスが話題を変える。
「セリーナさんは」
セリーナが視線を向ける。
「巫女なんですよね」
「ええ」
当然のように答える。
「やっぱり……普通じゃないんですか」
セリーナは少しだけ考える。
「普通、ではありません」
正直な答え。
「巫女は、神殿に属しています」
「基本的には、国から出ることはありません」
少しだけ間を置く。
「それが、役割ですから」
アルトゥスの足が、わずかに止まる。
「……じゃあ今回って」
セリーナは前を向いたまま言う。
「問題はあります」
あっさりとした言い方。
だが。
軽くはない。
「……大丈夫なんですか」
アルトゥスが問う。
セリーナは少しだけ視線を動かす。
「大丈夫ではありません」
はっきりと言う。
そのまま続ける。
「ですが」
一瞬だけ間を置く。
「それでも、来る必要がありました」
アルトゥスは何も言わない。
理由は、聞かない。
今はまだ、その時じゃない。
「……そうですか」
それだけを返す。
セリーナは小さく頷く。
「ええ」
会話はそこで途切れる。
だが。
十分だった。
少し先に、大きな建物が見えてくる。
人の出入りが多い。
ざわめきが漏れている。
「……あれが?」
アルトゥスが視線を向ける。
「ギルドです」
セリーナが答える。
学園とも、神殿とも違う空気。
「……」
アルトゥスは小さく息を吐く。
「ここからですね」
セリーナが言う。
アルトゥスは頷く。
「はい」
クウが、ぴょんと跳ねる。
まるで。
その先を急かすように。
アルトゥスは前を見る。
まだ、何も始まっていない。
だが。
ここから、すべてが変わる。
その入口に、立っていた。




