序章・第18話 神託の祠
森は、静かだった。
風の音も。
鳥の声も。
すべてが、遠い。
「……こんな場所だったか」
アルトゥスは小さく呟く。
記憶にある森とは違う。
もっと、重い。
まるで――
“何かに押さえつけられている”ような空気。
「……感じます」
セリーナが低く言う。
「普通ではありません」
アルトゥスは頷く。
「……はい」
クウが、ぴょんと跳ねる。
進む方向を示すように。
迷いはない。
まっすぐに奥へ進む。
やがて。
それは現れた。
祠。
古びた石の建造物。
苔に覆われ。
崩れかけている。
だが――
そこだけが、異様に“残っている”。
時間から切り離されたように。
「……ここですね」
「はい」
アルトゥスの足が止まる。
幼い頃の記憶が蘇る。
触れてはいけない場所。
理由も分からず、そう言われていた場所。
「……入ります」
「はい」
二人は祠の中へ足を踏み入れる。
空気が変わる。
重い。
だが同時に――
どこか懐かしい。
奥へ進む。
中央。
石の台座。
何もない。
はずだった。
その時。
クウが跳ねる。
ぴょん、と。
台座の上へ。
「……クウ?」
次の瞬間。
――空気が震える
光ではない。
音でもない。
だが。
確実に“何か”が始まる。
空間が歪む。
セリーナの表情が変わる。
「……神託ですね」
だが――
次の瞬間。
その表情が崩れる。
「……っ、これは……」
想定外。
それがはっきりと分かる。
アルトゥスは構える。
だが――
違う。
これは敵じゃない。
理解が先に来る。
その瞬間。
頭の中に流れ込む。
意志。
『――無色』
空気が止まる。
『――目覚めたか』
重い。
冷たい。
セリーナの息が詰まる。
「……無色神……?」
断定できない。
だが。
それに近い。
『――器』
その言葉に、強い違和感。
『――既に選ばれている』
圧がかかる。
膝が沈みそうになる。
だが――
――跳ねる
クウが。
強く。
その瞬間。
別の意志が重なる。
温かい。
包み込むような感覚。
『――干渉を拒絶する』
圧が消える。
「……創造神……!」
セリーナの声が漏れる。
『――我は創造の系譜』
アルトゥスの呼吸が戻る。
『――聞け』
世界が静まる。
『――無に返さないためには』
『――十二の印が必要だ』
その言葉が刻まれる。
『――均衡は崩れ始めている』
『――無色は二つに分かたれた』
『――一つは創造』
クウが光る。
『――一つは崩壊』
祠の奥。
見えない“何か”。
『――やがて、すべてを飲み込む』
沈黙。
『――選ぶのは、お前だ』
光が収束する。
そして。
すべてが消える。
静寂。
祠は元に戻る。
「……今のは」
アルトゥスが呟く。
セリーナはゆっくり息を吐く。
「……神託です」
そして。
「ですが――異常です」




