第7話 ちょっとちがう②
学校の生活にも、少しずつ慣れてきた。
国語、算数、理科、社会。
どの授業も、特別なことはない。
字を書く時間、先生の話を聞く時間、ぼんやり窓の外を見る時間。
そして、魔法の時間。
この日は水魔法の実習だった。
校庭に出ると、ノア先生のほかに校長先生の姿もある。
何度目かの水球。
最初は指先ほどだったそれは、今ではバスケットボールくらいの大きさになっていた。
形はまだ歪で、表面もぷるぷると不安定だ。
それでも、確かに浮かんでいる。
――前より、できている。
オリバーはそう思いながら、自分の水球を見つめた。
「大分、みなさん作れるようになりましたね」
ノア先生が頷き、続ける。
「では、ここで少しお話をしましょう。
魔法は便利ですが、ときどき問題が起こります」
水球を消し、先生は子どもたちを見渡した。
「魔法が、もし暴走してしまったら。
そんな時、どうしたらいいでしょう?」
すぐに手が上がる。
「逃げる!」
「そうですね。自分の身を守るのは大切です。はい、次の人」
「先生を呼ぶ!」
「それも正解です。ひとりで抱えないことは重要ですね」
子どもたちは、満足そうに頷く。
オリバーは、胸の奥が少しだけざわついた。
――暴走。
それは、特別な事故のことだろうか。
それとも、あの日のように。
教室に、勝手に風が入った時。
誰も怪我はしなかったけれど、確かに、制御はできていなかった。
もし、突発的な事故が起きたのだとしたら、、、。
考えているうちに、指名されたわけでもないのに、言葉が口をついて出た。
「……被害状況の確認と、周囲の安全確保、ですか」
言ってから、しまったと思った。
ノア先生の動きが、一瞬止まる。
校庭の音が、すっと遠のいた気がした。
校長先生と、短く視線を交わす。
誰も、何も言わない。
――あ。
これは、言わなくてよかったやつだ。
余計なことだ。
オリバーは、そっと視線を落とした。
列から、半歩だけ下がる。
次の人を、呼んでほしかった。
「……そうですね」
ノア先生は、やや間を置いて頷いた。
「それも、大切な考え方です」
それ以上は、何も付け加えなかった。
授業はそのまま続いた。
他の子が質問し、先生が答え、また水球を作る。
何も起きていない。
問題はなかった。
オリバーは、それでも、最後まで足元の草しか見なかった。
揺れる影。
踏み固められた土。
自分の靴先。
――ちがう。
何が、とは言えない。
でも、どこか、少しだけ。
授業が終わる頃には、胸のざわつきも薄れていた。
ただ、小さな引っかかりだけが、残っていた。
オリバーは、その感覚に名前をつけないまま、校舎へ戻った。




