第5話 女神様の日と、動かないもの
女神様の日は、学校が休みだ。
でも、家の仕事は休みにならない。
レオは家を出る前、姉と言い合いになった。
「ちょっとレオ、部屋、いつまでそのままなの?」
「今日、掃除するって言ったよね?」
「……それ、もう要らないでしょ?」
「石なんて、また拾えばいいじゃない」
箱の中には、レオが集めた小さな石が詰まっていた。
きれいなもの、形が気に入ったもの、理由はそれぞれだ。
「ほら、箱ごと捨てるよ?」
慌てて止めると、姉は呆れたように息を吐いた。
「ほんと、あんたって頑固」
「動かないと、きれいにならない。何も変わらないんだから」
その言葉が、耳の奥に残ったまま、レオは家を飛び出した。
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「……オリバー、いる?」
オリバーの家の戸口で声をかけると、すぐに顔を出してくれた。
事情を細かく聞かれることはなかった。ただ、頷いてくれただけだ。
それが、妙にありがたかった。
オリバーの母さんに声をかけられ、子ども三人で牛小屋に向かう。仕事を頼まれた。
ジャックは張り切って先を歩く。
乳搾りは、思ったより難しかった。
力を入れすぎると、牛が嫌がる。
「ほら、強すぎ」
オリバーの手つきは落ち着いている。
――なんで、そんなに丁寧なんだ。
自分の手を見る。
思ったよりうまくいかない。
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そこへ、オリバーの父が仕事の手を止めて様子を見に来た。
「力があるやつほど、加減を覚えないといけない」
レオは、どきりとする。
力だけじゃうまくいかない。
作業が終わり、木陰で休んでいると、レオは思わず口にした。
「おじさん。……属性ってさ。親と同じになるもんなのかな」
オリバーの父は少し考えてから言った。
「なることもある。ならないこともある」
「レオの親父の属性は、土だったなあ、、、。
土属性って、動かないだろ。
だから、頑固だって言われやすい」
レオは、朝の姉の言葉を思い出す。
「でもな。動かないってのは、支えるってことでもある」
その言葉を、レオは黙って聞いた。
「なんだか、怖かったんだ。自分が変わらないといけないのかって」
「……僕も、怖かった」
不意に、オリバーが言った。
「勝手に、風が出たことがあって。制御できなくて」
レオは顔を上げる。
「でも、教わったら、少し安心できた。」
「怖がりの自分は、変えられないけどね」
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しばらく沈黙が落ちた。
レオは地面を見つめたまま、ぽつりと言った。
「……正直さ。
俺、自分のこと、嫌いになりかけてた」
オリバーは何も言わなかった。
ーーー
朝の姉の言葉を、きちんと受け止めているからこそ、
レオはこうして、言葉にできているのだとオリバーは思った。
変わらない自分を、投げ出さずに抱えたまま。
それは、簡単なことじゃない。
――まぶしい。
それは、オリバーには、そう見えた。
思いをきちんと語れること。
素直に表に出せること。
相手の言葉を、乱暴に切り捨てないこと。
オリバーは、責めなかった。
馬鹿にもしなかった。
「……そうなんだ」
それだけ言って、隣に座る。
しばらく、二人は並んで、何も言わずに風を感じていた。
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帰り際、レオは少し照れながら言った。
「また、来てもいい?」
「うん」
ジャックが元気よく手を振る。
「次は、ぼくが教えるからね!」
レオは思わず笑った。
女神様の日は、静かに終わる。
でも、レオの中で、少しだけ何かが変わり始めていた。




