第4話 はじめての水球
次の日もいい天気。
教室の窓から差し込む日差しが暑いくらいだ。
「今日は魔法学の基礎です。いきなり魔法は危険ですから、まずは知識をつけましょう」
担任のノア先生は教科書を片手に、黒板に板書を始めた。
魔法は「才能」ではなく「知識と技能」――。
オリバーはノートに書き写すが、教室の子どもたちは全く集中していない。
隣のレオも、相変わらずうつらうつら。
教科書に水魔法が載っていた。
オリバーの胸の奥で小さな期待が芽生える。
水なら。少しは。教われば。どうだろうか。
恐る恐る伺う。
「水魔法、は、私にもできますか?」
ノア先生はオリバーの顔と子どもたちの様子を見ながら、やさしく答えた。
「初歩ですから。少しコツをつかめば、誰でもできますよ」
教室の外に出て、校庭に集まる。
ノア先生は校長先生も呼んで来られた。
「みなさん、事故のないようにお願いします」
「これから行う水球は、水魔法の初歩です。
杖を持たない今は、集中と詠唱が必要になります」
空は青く、風も穏やかだ。
「精霊に命令するのではなく、お願いする、力を貸して と、いう感じですね」
ノア先生は杖を構え、詠唱を始める。
「我が親愛なる精霊よ。集え、恵の水よ。円球となれ」
白い雲のような水の粒を集まったかと思うと渦を巻き、一瞬で目の前に水の球が現れる。
ひとかかえもありそうな、大きく、透き通って、回転しながら浮かぶその姿に、オリバーは息をのんだ。
レオも目を丸くして、口を開けたまま見つめる。
「これはこれは。さすがノア先生。きれいな真球ですなあ。」
「恐れ入ります。校長先生。久しぶりで緊張しております。」
急に現れた水球に子供たちは、あっけにとられ、ついで興奮のさなかだった。
「すげー!」
「こんな事できるの?」
「せっかくです。みなさんもやってみましょう」
ノア先生は手を添えて、一人ずつ順番に指導してくれる。
オリバーの番が来る。
心臓がドキドキする。みんなの視線を感じる。
「出来なくてもいい。誰も怪我はしない。精霊に頼むだけ」
自分に言い聞かせ、手を差し出す。
「我が親愛なる精霊よ」
小さく、でもしっかり声を出す。
空中の白い粒が少しずつ集まり、手のひらの前で小さな水球に形を変える。
「円球となれ」
ピンポン玉ほどの小さな水球が、ふわりと浮かんだ。
ゆがんでスライムのようだ。
できた。
「やった!」
「オリバー、すごい!」
歓声があがる。レオもにっこり笑った。
オリバーは思わず地面に座り込む。
疲れた――でも、怖くはなかった。
制御できる魔法なら、大丈夫。
そう思えたのは、生まれて初めてだった。




