第34話 街の市場での小さなトラブル
二年生になったばかり。
今日は市場に行って、アプリコットや雑貨を買う日。
小さな冒険のはじまりだ――。
市場へ行くことになった理由
ジャックが、この間市場で買ったアプリコットをまた食べたいとねだったのだ。
果物には時期がある。来月、とはいかない。でもお金はない。
「そんなら、何か売れば?」とガイルが思いついた。
今年は桑の実を売って、そのお金でアプリコットを買おう! という作戦はレオが思いついた。
レオの姉はかわいい声で言った。
「私も一生懸命に取って、売るから、きれいなネックレス買いたい。お小遣いだと少しだけ足りないの」
ジャックも行くなら、大人も同行しないと危ない。
「良いのよ。本当にたまになんですから。子供のために親が時間をとったとしても女神さまは怒らないわよ」
忙しい時期なのに、ありがたい。
結局、オリバー、ジャック、母さん、レオ、レオの姉、ガイルの大所帯で市場に向かうことになった。
桑の実を売ってアプリコットを手に
前日に桑の実を山のように取っておいて、籠3つがいっぱい。
母さんは他に売れそうなジャムも用意した。
道中、ジャックは飛び跳ねて嬉しそう。
レオの姉は一年前よりも可愛い。髪も肩まで伸び、スラっとした体格はそのまま。
でも伏せた目と笑った口元は…本当にレオの姉さんか? いや、面影はあるけど、やっぱり自然にジャックのお世話をしている。
「今日はお母さんが2人だな」とレオが茶化すと、
「えへへ。うれしいな。ねーお姉ちゃん」とジャックはニコニコ。
ガイルはそっと尋ねる。
「本当にレオの姉ちゃん? 確かに似てるけど…」
目を白黒させて下を向き、再び姉さんを見る。顔が赤い。
…や、マジ? そういうこと?
市場での小さなトラブル
「うちは特にギルドに入っているわけではないから、勝手に売ると怒られるのよ」
母さんは市場の屋台の人に話しかけ、籠3つ分を売る許可をもらった。
「半刻、うちの呼び込みを手伝ってね」
「お安い御用だ!」ガイルは大きな声で「いらっしゃーい」と始める。
籠はあっという間に空っぽになり、母さんのジャムも売れた。みんなニコニコ。
次に目をやると、ジャックより小さな男の子が泣いていた。
「お母さん…どこお?」
「迷子なの?」姉さんが声をかける。
ガイルは肩車して叫ぶ。
「この子のお母さーん!どこですかあ‼」
「迷子で~す! お母さ~ん!」
やがて女性の元へ走っていった。
アプリコット屋台へ
さあ、次はジャックの番。だが…いない。
「あ!あんなところで屋台を見てる!」
怒られてしばらくシュンとなるが、姉さんが助け船。
「さあ、買い物に行こ! ジャックはアプリコットが買いたかったのよね?」
「うん!」
泣いたカラスがもう笑う。
アプリコットの屋台は少し離れた場所。
みんなで迷子にならないように移動。
姉さんが先頭で、人ごみの少ない方向をスイスイ進む。
周りだけ空気の帯があるかのようだ。
レオは土属性だけど・・・。
人ごみのわりに早く着けた。
ジャックは幸せそうに、「いいにおい~」と叫ぶ。
姉さんは「レオ、私の分も選んでて。私、そこの屋台でネックレス買うわ」と足取り軽く離れていく。
誰のために買うんだろう…。
小さなハプニング
「うわあ!」急に屋台のつっかえ棒が外れ、ジャックのそばでアプリコットの山が崩れる。
わああ! と聞こえたのは自分の声。
思わず風が出て、屋台を押す。
レオが台を支える。
「重い!」
ガイルも手を出す。
「お兄さんたち‼ 怪我はないか? 大丈夫か? ごめんよ。古くて壊れたんだ」
屋台の持ち主はお礼を言い、アプリコットを籠3つくれた。
「レオ。ガイル。ありがとう、助かったよ」
「何言ってるんだ、ほんと。お前の風、すごいな」
「俺、見てたよ」
離れた屋台から、姉さんが少し驚いた顔でこちらを見る。
目線が外れる。
何か買ったようだ。
こちらに走ってくる。
「大丈夫? オリバー、君、上手だね。」
あたりが静かになる。
帰り道はその声しか頭にない。
風がひとふき肩に触れたような気がする。
まるで心が落ち着くように撫でられたみたいに。
帰り道
「アプリコット山分けだ! すげえ」
「どうしよう、こんなに~。うちの母ちゃんが喜ぶぜ」
「ね、買いに来てよかったでしょ」
「その顔! ジャックは迷子になってただろ」
みんなの笑い声が遠くに消える。
「あらあら、レオの姉さんはきれいなネックレス買えたのね」
母さんもガイルも褒める。
姉さんの顔は見れない。
夕日で石が光る。
それが目に刺さる。
子ども同士のやり取りだと思いつつも、
何だか自分が、自分ではないような気がした。
風がほんの少し。
あちこちから、変に吹いていた。




