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平穏を望む転生魔王、今度こそ世界を変える  作者: 彼岸茸
第十一章

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41 聖塔侵入

本日 1 回目の投稿です。

 ゼギスとシエラは聖塔(ソフィエル)の階段を上っていた。

 魔獣同士の戦闘やイリス=エルディナが暴れる混乱に乗じて、侵入を果たした。


 外の喧騒から切り離されたかのように、聖塔内は静寂に満ちている。

 聖なる造りに対し、内部の魔素はどこか異質だった。

 階段を踏む音が響く。


「このまま教皇のところに行ければいいが」

「リウス=ヴァルドがきっと待ち受けています」


 ゼギスの呟きに、シエラが反応する。

 ゼギス以外には敬称をつけて呼ぶシエラが、呼び捨てにするほど怒っていた。

 非人間族を迫害することをなんとも思っておらず、人間族ですら使い捨てにするようなリウスを、彼女は許すことができない。


「立ち塞がるなら、排除するまでだ」


 ゼギスが力強く告げた。


 階段の踊り場に出た時、複数の足音が聞こえてきた。

 下りてきたのは、純白の鎧を纏った聖騎士だ。数は十程度と多くはない。

 一糸乱れぬ動きは相変わらずだ。何度見ても薄気味悪さが勝つ。


「あいつらを癒すことはできるか?」


 ゼギスも深い洗脳を受けたことから、おそらく無理だろうと思っている。

 現聖女であるミリエルに至っては、聖騎士のことを『動く死体』と評していた。

 だが、ゼギスを救い出したシエラなら可能性があるかもしれない。


 もし可能なのであれば、殺すのは躊躇われる。

 しかし、シエラは首を横に振った。


「あの方々の壊れた魂を戻すことは、わたしにはできません――たぶん誰にも」


 彼女は表情を曇らせ、「元に戻すことを想定されていないと思います」と続けた。


「シエラでも無理なら、やはり殺してやるのが救いだな」

「……はい」

「せめて苦しまずに逝かせてやる」


 シエラは納得できないが、理解はできる。

 彼女が頷くと、ゼギスは幽輝剣(アトルムルクス)を静かに抜いた。

 剣とその身に纏わせる魔力は高位の腐食系状態異常――【腐朽】だ。


 やがて目前に聖騎士が整列し、各々の武器を同時に掲げる。


 ゼギスが力強く踏み込み、幽輝剣で突きを繰り出す。

 盾持ちが防ぐが、【腐朽】の効果で、剣先が触れた箇所が崩れ、純白の鎧をも貫通する。そのまま心臓を刺した。

 聖騎士は呻き声すら上げずに崩れ落ちた。


 即座に剣を引き抜き、振り下ろされる大剣を避ける。続けて、大剣持ちの首を横一閃に斬る。


 さらに突き出される槍を斬り、返す刀で槍持ちを斬り上げる。

 そこに聖騎士の長剣が振り下ろされる。


「ゼギス!」


 シエラの声が響くが、安心しろとゼギスが彼女に視線を送る。

 聖騎士の長剣はそのままゼギスに振り下ろされた。

 しかし、ゼギスに周囲を覆う紫の魔力に触れると、溶けるように崩れた。ゼギスは無傷で、長剣は柄だけが残った。


 長剣持ちを袈裟掛けに斬り伏せ、次の聖騎士の相手をする。

 ゼギスは相手の鎧や盾を貫いて攻撃できる一方で、聖騎士の武器はゼギスに届くことすらない。


 ゼギスの幽輝剣が壁を掠めた。

 堅牢なはずの聖塔の内壁は、幽輝剣を弾くことなく、その表面に一筋の傷が走った。


 十人の聖騎士を掃討するのに時間がかからなかった。


「先を急ごう」

「はい」


 シエラはゼギスが命を奪った聖騎士たちに、祈りの言葉を短く唱えてから、ゼギスについていく。

 長い階段を上る二人。

 途中の階は無視して、教皇フォルがいるであろう最上階を目指す。


 どれほど上った頃だろうか。


「私の――いえ、教皇猊下の計画をよくも潰してくれましたね」


 リウス=ヴァルドが立ちはだかった。

 宮廷筆頭魔導士にして、教皇フォルの腹心。

 光ノ騎士団を生み出し、ゼギスに洗脳を施した者でもある。

 背後には何人もの聖騎士を連れている。


「シエラ、お前には失望しました。せっかく教皇猊下が命を助けたというのに、神聖教会に牙を剥くとは。破門した時に召天させてやるべきでした」


 リウスの冷たい視線がシエラを射貫く。

 以前のシエラであれば怯んだだろうが、今なら言い返すことができる。


「非人間族を迫害し、人間族を洗脳するような方に言われたくありません! わたしの大切な人に酷いことをさせようとしたことは、絶対に許せません!」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、落ち着け、シエラ」


 ゼギスがシエラを制する。

 リウスは次にゼギスに視線を向ける。


「魔王、どうやって洗脳を解いたのか分かりませんが、ここでお前を滅ぼせば後はどうにでもなります」

「ほう? 教皇の腰巾着の貴様にできるのか?」

「なんとでも言うがよろしい。私は教皇猊下の尊き目標――世界を平和にする手伝いをさせていただいているに過ぎません」


 リウスは両手を広げ、滔々と教皇フォルがいかに素晴らしいかを語る。


 リウスには話が通じない。

 ゼギスがシエラに万が一の可能性を小声で尋ねる。


「『平和』を語るくせにやっていることは破滅に繋がるものだ。あいつが洗脳されている可能性はないか?」

「いいえ。あの人はあれで正気です。心から教皇に賛同しているんだと思います」


 語り終えたリウスが、もう一度ゼギスを見る。


「教皇猊下のご意志を穢す者に神罰を。今度こそ滅して差し上げましょう」


 そう言うと、リウスは片手を上げた。

 後ろの聖騎士が一斉にぶつぶつと呪文を唱え始める。

 天井が神々しく輝き始め、ゼギスの周囲に魔法陣が次々と現れる。


 ゼギスを一度捕らえた魔法だ。だが規模は小さい。

 聖騎士の人数も、詠唱時間も稼げなかったのだろう。


「同じ手が通用すると思われているなら心外だな」


 ゼギスが中位の封印系状態異常――【封言】を纏わせた幽輝剣を振るい、鎖を放とうとする魔法陣を破壊する。


「何をしているのですか! 早く捕えなさい!」


 リウスの表情に焦りが浮かぶ。

 彼の言葉に反応し、聖騎士の口の動きが速まる。それに呼応し、魔法陣が現れる速度も速くなる。


「まずは聖騎士を倒した方がいいな」


 ゼギスは呟き、魔法陣を斬りながら詠唱中の聖騎士に接近する。

 だが聖騎士は反応せず、詠唱を続ける。

 新しい命令がない限り、別の行動を取ることがない。

 意志や思考を排除した弊害だ。


 リウスが新たな指示を出す前に、聖騎士は全員床に伏せることになった。

 天井の光も消え失せ、光粒の残滓が舞う。


「なぜですか……なぜお前たちは神のご意志に背くのですか!」

「神の名を騙る者にすがって、貴様は何を得た? 誰か救うことができたのか?」

「わたしたちは何をすべきか、自分たちで考えているだけです」


 睨みつけるリウスに、ゼギスは冷ややかに言い、シエラは語り掛けるように答えた。


「この異端者どもめ! がはっ」


 ゼギスの拳がリウスを殴り飛ばした。

 リウスは受け身も取らずに倒れる。しかし、それでもよろよろと立ち上がり、瞳に怪しい光を滲ませながら、叫ぶ。


「教皇猊下! 私が必ずや貴方のご意志をお守りいたします!」


 そしてすぐ近くの部屋に駆け込んだ。


「どうしますか、ゼギス?」


 このままリウスを無視して、教皇の元に向かうこともできる。

 だが、あの目はまだ何か企んでいる者のそれだ。


「ここで放置はできん。先にリウスを黙らせよう」


 ゼギスの即答に、シエラも頷く。

 リウスが入った部屋に慎重に足を進める。何か罠を仕掛けられているかもしれない。


 部屋の中では、光ノ騎士団の聖騎士たちが隊列を組んでいた。

 彼らに守られるように、リウスは壁際にいた。

 聖騎士ではなく、リウス自身が詠唱を始めている。


 床や壁、天井に描かれた魔法陣が淡く輝き、光の粒子が室内を漂っている。

 神聖さと禍々しさが混ざり合う、異常な魔力の奔流だった。

次回投稿は本日夕方の予定です。

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