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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
3章

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67話「属性耐性防具」


 ダンジョンを出たわたしたちはミシャの家へ直行した。


 寝込んでいるミシャの母親は高熱のせいか、衰弱して意識が朦朧としていた。



「どこ……ミシャ……どこ……」



 と、うわごとを発している。


 高熱に冒されながらも娘を心配しているのだ。

 その娘は、意識のない母親を心配して危険をかえりみずに死地に赴いていた。


 なんて美しい母娘愛……。


 しかし、感動している暇はない。


 永氷花の花びらを布にくるんで氷嚢がわりにして、母親の頭を冷やす。

 それから水をキンキンに冷やして、少しずつ飲ませた。


 体の内外から急速に冷やしたおかげか、しばらくするとミシャの母親の容態は落ちつき始めて、静かな寝息を立てるようになった。




 翌日にはかなり回復し、話せるようにもなった。


 母親はまず、危険なことをしたことを叱り、それからミシャを優しく抱いた。



「おかぁさーん! おかぁさーん!」


「ああミシャ! わたしの宝物!」



 わんわん大泣きする2人を見ていると、くるものがある。


 なんか、冒険者稼業にハマっちゃうひとの気持ちもわかるなぁ。


 そんな心温まる光景を見守りながら――




 心の底からぞっとした。




 あっぶねー!!!


 もし最終小動物兵器ウサギのアルティメット熱線がなければ、この感動的な光景は今頃お通夜会場と化していたわけだ。


 高熱に浮かされながら、帰らぬ娘の名を呼び続ける母親。

 人目の届かぬ地の奥底で物言わぬ氷の彫像と化した娘。


 2人が再会することは永遠にないのである……。


 いや、あっぶねー!

 取り返しのつかないことをやらかすところだった!


 わたしは冒険者なんて絶対にやらない、やるべきじゃない。

 もう2度とこんなことはやらない。




―――




 ミシャの母親は涙ながらにお礼を言って謝礼を払いたがったけど、わたしは冒険者じゃないし、依頼を受けてやったわけでもないから断った。


 ただ、お礼をできないのも心苦しいだろうから、荷車を借りていくことにした。


 わたしは湖水のダンジョンに引き返し、荷車に積めるだけ『永氷花の花びら』を積むと、ミルトンへの帰還の途についた。




 数時間後。


 ミルトンの城壁が見えてくると、安心してどっと疲れが出たのか、猛烈な眠気に襲われた。


 工房で荷物を下ろしてから、足早に冒険者ギルドへ向かう。


 出発前に「ダンジョン探索行動計画書」を提出した以上、ちゃんと帰還報告をしておかないと、遭難者扱いされてしまいかねないからだ。


 これでもわたしは三部会の代表だから、遭難したとなれば、それなりの規模の捜索隊が編成されてしまうだろう。


 よく考えたら冒険とかしちゃダメじゃん。

 望んでなったわけではないといっても、要人としての自覚を持って行動するべきだった。


 手続きを終えて冒険者ギルドから戻ると、ベッドにばすんと倒れこんだ。




―――




 目覚めると、丸一日たっていた。

 寝すぎたせいかまだ眠い目をこすって、1階の工房へ下りていった。


 工房では、ルイーズとリュドミラが話していた。



「クロちゃんおっはー」


「お、お邪魔してます……!」


「いらっしゃい。ゆっくりしてってねー」



 珍しい取り合わせだな、と思いながら、わたしはお茶の用意をする。


 聞こえてくる会話を盗み聞きしていると、どうやら魔術談義をしているようだ。


 あれでもリュドミラは魔術学院の導師という偉い立場の人らしい。


 ルイーズは手をぎゅっと握りしめ、迫真の面持ちで傾聴している。



「――だからね、魔術の属性イコール属性攻撃って考え方はもう古いってワケよ」


「そ、そうなんですか……!」


「アタシが発見したんだけどね、魔術ってのは、じつは物理的な打撃を与える攻撃魔術が多いんだ」



 それ気づいたの、わたしかもなー?



「で、アタシは物理打撃を衝撃属性と斬撃属性に分けた。たとえば、土魔術の『石岩弾』は衝撃属性、水魔術の『水影刃』は斬撃属性、って感じでね。こっからがすごい話なんだけど、どっちもある程度の防御力を持った金属製の防具ならデフォルトで耐性がついてるわけ」


「は、はじめて聞きましたっ……!」



 それ言いだしたのも、わたしじゃないかなー?



「そうやって耐性面から属性を定義しなおすとだね、従来の属性区分は多すぎることにアタシは気づいてしまったのだよ」


「もっと、少ないということでしょうか……?」


「そそ。実際には熱、冷気、そして雷。とりあえずこの3つに圧縮できたわけ。とりあえず、だけどね」


「すごいっ……ま、魔術界に革命が起きますっ……!」


「でしょー? わかってるねー、ルイちゃん見どころあるよー。学院入ったら? アタシの直弟子にしたげよっか?」



 この女、導師の資格認定試験で他人の論文を盗んだ過去とかないだろうな……?




 しかし。

 どうやら魔術学院の弟子を動員して行っている調査・研究ではそれほど大きな成果は出ていないようだ。


 わたしと実証実験したときと比べて、大して概念理解が進んでない。


 けど、それはがっかり要因ではなく、むしろ歓迎すべきことだろう。


 反証材料が新しく出てこないということは、今推し進めていることが大きく間違ってはいないという好材料でもあるからだ。




 わたしは2人に淹れ立てのお茶を出した。

 せっかく導師先生がいるわけだし、気になっていることを聞いてみることにしよう。



「リュドミラ、『火産霊(ほむすび)』って魔術知ってる?」


「は、なにそれ? 魔術界に革命を起こそうとしている新進気鋭の導師であるアタシが聞いたことないんだけど。それほんとに魔術?」



 やっぱりそうか。

 ちょっと術の名前が日本的すぎると思ってたんだよな。


 わたしは術の内容をかいつまんで説明した。

 もちろん、小動物が使ったことは隠して。


 説明を聞くうちに、リュドミラがふんふんとうなずきはじめた。



「それ『真紅炎(クリムゾンファイア)』じゃん。トーシロが変な名前つけんなよ。『真紅炎』はかつて大魔術師、劫火のマルケルススが編み出した究極の火術。その威力は山脈をも消し飛ばしたって話。ま、ほんとにそんな魔術あったのかどうか怪しいけどね。あまりにも危険だからって、魔術学院では調べることも禁止されてる。で、それがどうしたの?」


「いや、ちょっと気になってねー」



 リュドミラは目を細めて、ずいっとこちらに体を寄せてくる。



「あんま大きな声で言わないほうがいいよ? アタシだからいいものの、マジメな導師連中に聞かれたらクロちゃん禁断破戒で捕まっちゃうよ?」


「気をつけます!」



 やはり、ウサギの使った魔術はとんでもない魔術だった。


 ちょっともったいない気がしてきた。

 あのときは致し方なかったし、ミシャもわたしも助かったのでウサギには感謝している。


 でも、あれほどの高威力魔術。

 来たるべき魔族との戦いでこそもっと効果的に使えたんじゃないだろうか、とも思ってしまう。


 ま、今さら言ってもしょうがないけど。




 リュドミラが工房に来た用件は、催促だった。


 どこで聞きつけてきたのか知らないが、わたしが耐性素材として『永氷花』に目をつけたことを知っていたのだ。


 昨日は帰ってきてすぐ寝てしまったため、まだ試していない。


 わたしは『永氷花の花びら』を消費素材にして、適当な防具を『精錬』することにした。


 作業中、リュドミラとルイーズの期待のこもった視線を感じる。

 アビリティのおかげで失敗はないけど、なんか緊張するなぁ……。


 いつものように精錬はすぐに終わった。


 わたしは、自分でも緊張しているのを感じながら『鑑定』した。

 あれだけ苦労したんだ、おねがい!



---

 ・布の服 : 防御力2(Eランク)


 (冷気耐性)

---



「できてる! 冷気耐性がついてる!!!」



 わたしが『布の服』を掲げ持つと、リュドミラとルイーズが手を取り合って飛び跳ねた。

 わたしも参加して3人で輪になって成功を喜び合う。


 嬉しい。

 なんか泣いてしまいそう……。


 今回は素材採取がとくに大変だったから、ということもあるけど、属性耐性への道を拓けたことがほんとうに嬉しい。


 達成感に浸っていたわたしは、しかし、リュドミラの一言で凍りつくことになる。



「んじゃ、それ着て立って。試そ」


「は? 試す?」


「おたくが鍛冶師として確かな目をもっているのは知ってる。それは信頼してる。けど、試さないわけにはいかないっしょ。ほんとに耐性が機能するのかどうか」


「そりゃそうだけど、なぜわたし?」


「ルイちゃんに実験台やらせんの? アタシはそれでもいいけど」



 とリュドミラが胡乱げな視線を向けると、ルイーズは「ふぇ!?」と縮こまった。



「だいじょうぶだって、ちゃんと手加減するから」



 しょうがないな。

 耐性があることをこの目で確認したのはわたしだけだし、責任もって自分で人体実験するとしよう。

 いつもやってることだし。


 人体実験は必要だ。


 「冷気耐性」があればそれでよし、というわけではないからだ。


 たとえ防具自体が凍結しなくても、装備している中身が凍結してしまうのなら、意味がない。


 着用している人間そのものに耐性を与えてはじめて、実用に耐えうると言えるのだ。




 そんなわけで、また実験することになった。

 リュドミラが使う魔術は『星霜』。


 前回の実験で大盾を凍結させた術であり、永氷花がわたしを凍結させたのもたぶんこの魔術だ。


 『星霜』を受けても凍結しなければ、冷気耐性が実戦で使えることの証明になる。


 わたしは覚悟を決めて着がえた。

 リュドミラがいつになく真摯な面持ちになる。



「この結果に人類の命運がかかってる。自ら身を捧げる覚悟と尊い犠牲に敬意を」



 尊い犠牲?

 覚悟の部分はいいけど、犠牲ってなに?


 犠牲になるつもりはさらさらないんですけど……!?

 ほんとに手加減する気あるの???



「炎よ、燃やし尽くせ!」



 いつもの嘘詠唱を聞きながら、わたしはぎゅっと目を閉じた。


 ぶわっ、と肌を冷たい空気が撫でていくのを感じる。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 ちらっ。


 おそるおそる目を開けて自分の胸を見下ろす。

 少し白くなっているけど、布の服は柔らかな形を保っていた。


 指でつまんでみる。

 柔らかい繊維の感触。

 凍りついてはいない。


 服を引っ張って、隙間から肌の状態を確認する。

 温かみのある、いつもの自分の皮膚。


 成功だ。

 「属性耐性防具」が完成した。



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