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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
2章

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43話「潜入3 夕暮れの工房」


 総督は毒武器を量産させている……。


 クソっ。

 アミリアヌスの野郎、やってくれたな。

 なんてことをしでかしてくれたんだ!



「困ったもんだよねえ」



 急に耳元で囁き声がした。

 驚いて振り向くと、目の前にケモ耳があった。


 リュドミラだった。

 工房の足場の手すりに寄りかかるように立っている。



「よっ、奇遇だねえ、黒魔女ちゃん」



 と、リュドミラはウインクしてくる。


 まったく気づかなかった。

 いや、ド素人のわたしが忍び寄りに気づかないのは当然として、なぜリュドミラはわたしに?


 わたしはまだ『隠れ身のマント』を着ているのに。



「あぁ気にしないで。インビジブル対策は魔術師の嗜みみたいなもんだから。それより」



 リュドミラが人差し指を口の前で立てた。

 大きな声をだすな、ってことだろう。



「なーに作ってんだと思うアレ?」


「……武器に毒属性を付与してる」



 わたしたちはひそひそ声で会話する。



「夜に、備えてるんですかね……?」



 三部会で総督は「夜会」での単独徹底抗戦を訴えていた。


 そのための武装強化を急ピッチで進めている、と解釈することもできる。



「ハッ。んなわけないって。わかってるっしょ」


「……」


「あれ大サソリの毒だよねえ? あんな弱毒、魔族に効きゃしないよ」



 そのとおりだ。


 状態異常耐性の研究をしているから毒にはそこそこ詳しくなった。

 大サソリの毒は自分より小さな獲物を弱らせ拘束するための弱毒だ。


 体の大きな動物や魔物にはそれほど効果がない。

 魔物の親玉に効くとは思えない。




 だけど、人間には深刻な状態異常を引き起こせる。




 つまり。

 職人たちは対人間用の毒属性武器を作っているのだ。


 これではっきりした。

 総督は夜に備えてなどいない。


 人間同士の戦争の準備を進めている。



「この事態、おたくはどう見る?」


「もうかなり配備が進んでると思います。さっき、街の兵が毒武器を装備してました」


「あぁ、そりゃまずいよねえ。とってもまずい。あの口だけ大将、殺しとくんだったよ。でも聞きたいのはそうじゃなくてさ」



 金色の瞳がわたしの顔をじっと見つめる。

 夜行性の獣のような怖い目だった。



「こいつらの仕置き、どうするべきかって聞いてんだけど?」



 仕置き……?

 処罰ってこと?


 下で毒武器を作っている職人たちは総督に命令されてやっているだけだろう。



「いや、でもみんな命令されて」


「関係ないね。断ればいいじゃん。天下の鍛冶職人なんだから」



 鍛冶職人はこの街では地位が高い。


 独立した事業者であり、引き受ける仕事を選べる。

 本来なら総督に命令される立場ではない。


 師匠の命令は絶対。

 だけど、それ以外の人間の命令を聞く義務は一切ない。

 それが鍛冶師の徒弟制をつらぬく鉄の掟だ。


 でも、それはあくまで平時のルールだ。



「断ったら総督になにされるかわからないじゃないですか」


「断って捕まった職人もいる。気骨あるよねえ。職人とはかくあるべしって感じ? 結局、こいつらは金に目がくらんだのさ」



 その言葉で、兵営で捕まっていた職人たちを思い出した。

 やけに多いとは思ったけど、彼らは総督の命令を断ったから捕まったんだ。


 そして、今ここにいるのは断らなかった職人たち……。


 そのとき、気づいた。


 さっきからリュドミラはふつうに話している。

 ふつうの、まるで世間話をするようなトーンで。

 もう、ひそひそ声ではない。


 慌てて1階を見ると、すでに何人もこちらを見上げていた。

 総督秘書官がこちらを指さしてなにか言っている。


 まずい……。


 見つかったことがまずいんじゃない。




 見つかってもかまわない、とリュドミラが考えていることがまずい。




 リュドミラは毒武器を作った人間を許さないつもりだ。

 いや、総督の命令に従ったことを許さないつもりか?

 どちらにしても、彼らをただで帰すつもりはない。


 秘書官に命令された兵士が2人とも駆け足で外へ出て行った。


 あれだ!

 あれを利用しよう!



「応援を呼ばれちゃいますよ!」


「呼ばれない」


「すぐ逃げないと……え?」


「呼ばれない。ここには誰も来ない」



 その言葉を証明するかのように、外から小さな悲鳴が2つ聞こえた。



「アタシが兵士にお願いして入ってきたと思ってんの? 外のやつらはとっくに排除させたよ」


「か、鍛冶炉を壊せば生産を止められます」


「偉大なるワグネリア親方の工房を壊せってゆうの? なんも悪いことしてないのに? そりゃ筋違いってもんでしょ」



 リュドミラはやれやれと言いたそうに手を広げた。



「ミルトンに工房がいくつあると思ってんのさ? 代わりはいくらでもある。職人は違う」



 ぞくっとした。

 この女がやべえやつなのは知っている。

 やると決めたらやる、そういうやつだ。



「逃げて!」



 わたしの叫び声に何人かが反応した。


 けど遅かった。


 入り口に魔術師らしきローブの人物が立ちはだかり、道を塞いでいたのだ。


 リュドミラがばさりとローブを翻し、両手を交差させる。



「劫火よ、生きとし生けるものを燃やし尽くせ!」



 詠唱が高らかに響き渡る。


 つぎの瞬間、職人たちが凍りついた。


 ある者は鎚を振り上げたまま。

 ある者は汗を腕で拭ったまま。

 ある者は走りだそうとしたまま。


 実際に凍りついたわけではないだろうけど、動作の途中でぴたりと静止し、微動だにしない。


 一階で動いているのは、秘書官だけになった。


 リュドミラはまた嘘魔術を使ったらしい。

 三部会のときにも詠唱とぜんぜん違う効果が発動していた。

 とんでもない嘘つきだな、この女……。


 ほんの少しまでの喧噪が嘘のように静かだ。


 鎚が金属を打つ音も、職人たちの大声も消えて、鍛冶炉で燃える火の音だけが響いていた。




 秘書官は腰を抜かしたのか、その場にへたりこんだ。


 リュドミラが手すりを乗り越え、一階にふわりと優雅に降り立ち、入り口を塞いでいた魔術師になにか命じた。


 命じられた魔術師は秘書官の襟首をつかんで強引に引きずっていった。


 リュドミラは棚に歩き寄って瓶を1つ取り、ローブの懐に入れた。



「じゃ、例の件、引き続きよろしくねー!」



 リュドミラが颯爽と出て行くのをわたしは見送ることしかできなかった。


 例の件って……?

 ああ、属性耐性防具か……。


 今はそれどころじゃない。

 1階に行かなきゃ。

 とにかく職人たちの様子を見ないと。


 やめておけばいいのに、わたしはリュドミラと同じ下り方をしてしまった。

 

手すりを乗り越え、当然落下し、べちゃりと無様に着地した。



「いてえ……」



 頭を庇ったせいで、腕をすりむいてしまった。

 骨折や捻挫はしてなさそうなのがせめてもの幸運だ。


 魔術師の真似はするな、と心に銘じておこう。




 職人たちは彫像のように見えた。

 けど、生きてはいるようだった。


 おそるおそる触れてみると、体が温かい。

 血流もあるし、浅いけど呼吸もしている。


 リュドミラは命までは奪わなかったようだ。


 ただ、動かない。

 魔術で引き起こされた症状だから処置方法は見当もつかない。


 凍りついた職人のなかに顔見知りの顔を見つけた。

 この前会ったときに「先月子どもが生まれたんだ!」とうれしそうに話していた。



「じゃあがんばって稼がないとねー」



 となんも考えずに返した覚えがある。

 がんばって稼ごうとしたらこの仕打ちなんてかわいそうに……。


 ただ、最悪ではない。

 さっきの詠唱が嘘じゃなかったら、あの内容だともっとひどいことになっていただろう。


 生きてるだけまだマシか……。


 気の毒には思ったけど、今はどうしようもない。

 もたもたしてると新手の兵士が来るかもしれない。




 わたしはやるべきことに取りかかった。


 棚を倒して毒の瓶を割り、完成品の山から運びやすい毒のナイフを手に取る。


 このサンプルは証拠になるかもしれない。

 使いどころは、今のところわからないけど……。


 外に出ると、兵士たちが倒れていた。

 どうやら眠っているだけのようだ。


 急いで立ち去った。




 日が暮れかかり、街はオレンジ色に染まっていた。


 止めないと。

 アミリアヌスの暴挙をなんとしても止めないと!


 なにしろ毒武器を作っただけであの仕打ちなんだから、戦争なんかになったら、毒素材を盛大に流出させた張本人なんてリュドミラになにをされるかわからんぞマジで……。


 焼かれる……。

 ぜったい焼かれる……。


 気分は内臓を紛失してしまったフグ職人だ。


 自己保身の権化と化したわたしは、テルマとの合流場所へと急いだ。



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