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転生鍛冶師ラストダンジョン手前の街で新人冒険者を救う神になる!  作者: 飛来甲殻類
1章

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10話「初精錬」


「ほんとうにいいの?」


「いいっていいって。どうせ使ってないんだしー!」



 わたしは、エリンに連れられてミルトンの商業地区に来ていた。


 治癒術詐欺に遭って大金を巻き上げられたことを知ったエリンが、



「うちに使ってない倉庫があるから来なよー! 泊めたげる!」



 とありがたい申し出をしてくれたのだ。


 なんでもエリンの父は商店を営んでいるらしく、使っていない倉庫があるそうだ。

 そこにタダで泊めてくれるという。



「エリンちゃん、若い娘さんが得体のしれない人物を自宅に招いてはいけませんよ?」



 ほんとうなら人生の先輩としてそうアドバイスするべきなんだろうけど、そんなことを言える財力がない。


 まだHP(懐ポイント)がゼロになったわけじゃないけど、収入がない身分だからできるだけ出費は節約したい。


 そんなわけで、お言葉に甘えさせてもらうことにした。


 

 神殿のある中央広場から商業地区はそれほど遠くなかった。

 商業地区の繁華な街路を歩く。


 しばらく行くうちに、なんだか見覚えのある通りに差し掛かった。



「ついたよー。ここがうちの店!」



 エリンが指さした先には『ゴンドのよろずや』という看板がかかった店。


 見覚えがあるはずだよ。


 ここは初日に巫女服を売った店だ。

 まさかここがエリンの父親が営む店だったとは、ミルトンは狭い。


 エリンは店の裏手にある倉庫に案内してくれて、扉にかかっていた鍵を開けた。


 それから「ちょっと待ってて!」と奥の部屋に行って皿に水を入れて戻ってくると、それをウサギの前に置いた。



「お父さんには話しておくから、くつろいでてねー! ネズミくんも!」



 と言うとどこかへ行ってしまった。


 この世界の人にはウサギがネズミに見えるらしい。


 ウサギはまったく気にせず水をなめ始める。

 じつはわたしもちょっと喉が渇いているんだけど、贅沢は言うまい。


 倉庫内に1人で放置。


 まあ、こういうときは1人のほうがやりやすい。

 家人がいるとジロジロ観察するわけにもいかないし。


 倉庫内はそれなりに広い。


 いくつもの棚があり、いろいろな物品が置いてある。

 某通販大手の倉庫みたいにぎゅうぎゅう詰めというわけではないけれど、がらんとしているわけでもない。


 すこし埃っぽいけど、ぜんぜん掃除されていないわけでもない。

 商品らしき物がきちんと整理整頓されていて、保存状態も良好のようだ。



 この倉庫は、ふつうに現役で使っているのでは……?



 ただエリン個人が使ってないだけで。

 いるよね、自分が使ってないとだれも使ってない扱いするひと……。



「夜は冷えそうなのじゃ。毛布を探さんとなー」



 とウサギが勝手に棚を漁りはじめた。



「あ、こら、勝手にいじっちゃダメだって! 毛とか落ちたら迷惑じゃ――」



 ウサギの不躾な行動を注意していたとき、わたしの目にあるものが飛びこんできた。


 炉。


 ワグネリア工房のものよりかなり小ぶりだけど、これは間違いなく鍛冶炉だ。


 埃をかぶっているが、壊れているわけではなさそうだ。

 鍛冶炉の横には石炭桶と水槽もある。



「ここ、昔は武具屋だったのやもしれんなあ」



 ウサギが言った。

 すでに拝借した毛布と戯れている。


 さっきまで味気ない倉庫にしか見えなかった場所が、急に工房に見えてきた。

 心なしか輝いて見える。


 これなら、わたしでもエリンに恩返しができそうだと思った。



 夜。

 夜の時間をゆっくり過ごすのは久しぶりだ。


 最近いろいろ立て込んでたからなぁ……。


 寝る前に時間があったのでウサギから『鍛冶の神』スキルについて本格的にチュートリアルを受けた。




―――




 翌朝。



「おっはよーシノさーん!」



 エリンは早朝から元気いっぱいにやってきた。


 これからまた森に腐肉狼狩りの依頼をこなしに行くらしいけど、その前に様子を見に寄ってくれたのだ。


 優しくて働き者なんて、いい娘さんだ……親の顔が見てみたい。

 あ、見たことあったわ。


 あらためてエリンの装備をよく観察した。


 ショートソード。

 革の小盾。

 薄手の革鎧。


 初心者というわりにはよく使いこまれている気がする。

 まるで何年も使い古したような味があるというか……。


 毎回ダメージを受けているから使い古されるのも早いってことなのかな。


 とりえあず、例のアビリティを試すために状態を詳しく確認してみるか。

 わたしは『鑑定』した。



---

 ・ショートソード(-1): 攻撃力2 (Eランク)


 ・革の小盾       : 防御力2 (Eランク)


 ・薄手の革鎧      : 防御力20(Dランク)

---



 なるほどなるほど。


 ショートソードと盾はダメだな。

 元がEランクでは、強化してもほとんど効果がない。


 ショートソードのマイナス1ってなんだ?


 気になったからエリンに渡してもらって調べようとした。

 どうやら刃こぼれのせいで劣化してるように見えたけど、触ったら一瞬で勝手に直ったので、詳しい原因はわからずじまい。


 便利なのか不便なのか……。


 でも、Dランクの鎧はいける。


 今わたしが使ったのは『鍛冶の神』スキルのアビリティの1つ『鑑定』だ。

 『鑑定』は武具の詳細な能力や状態を見ることができる。


 昨夜ウサギに教えてもらったんだけど、こんな細かい数値まで見えるとは思ってなかった。

 これは便利だ。



「ヨシノさーん。なんで炉に火がはいってるのー?」



 鍛冶炉に石炭がくべられていることに気づいて困惑するエリン。



「今からエリンの防具を精錬します」


「精錬???」


「そう。強くするの」



 すでに昨夜のうちに準備は済ませてある。


 倉庫を漁ってゴミみたいなEランク鎧をかき集めておいた。

 やはり昔は武具屋だったのだろう、物置棚に鍛冶道具もあった。


 道具と設備さえあれば『上位精錬』を使える。



「ささ、脱いで」


「脱ぐって。あたしの鎧を?」


「そう。脱いで」


「いいけどさー。なにするのー?」


「いいからいいから、わたしに任せて。悪いようにはしないから!」



 などと、ポン引きのようなことを言ってエリンに革鎧を脱がせた。

 わたしは『精錬』に取りかかった。



 ベースとなるエリンの革鎧に強化素材のEランク防具を重ねてハンマーで叩く。


 何度か叩いているうちに、強化素材はまるで吸収されるかのように革鎧に同化していき、やがて完全に消えてなくなってしまった。


 残ったのはベースの革鎧だけ。


 後ろでエリンがハッと息を飲む。


 革鎧の表面を手のひらでなぞってみると、ほんの少し硬くなっている気がした。

 どうやら1度目の精錬は無事に成功したようだ。


 2度目はEランクの金属鎧を強化素材にした。


 革が金属を同化吸収していく光景はかなり奇妙だ。

 けど「今強化してるぞ!」って感じがしてわかりやすい。


 ちなみにわざわざ炉に炭を入れて火をくべたのに、一切使ってない。

 しかし、鍛冶炉に火をくべるのはアビリティを使うために必要なことらしい。


 ウサギいわく「儀式のようなものなのじゃ」とのこと。

 火入りの鍛冶炉がアビリティの発動条件ってことだろうね。


 なにが行われているのかさっぱりわからないエリンは目をぱちくりさせっぱなしだ。

 それでも文句の1つも言ってこないのはありがたい。


 作業が捗るから、ではない。


 困惑しつつもわたしの好きにやらせてくれるのは、エリンがわたしを神鍛冶師と信じてくれているからで、その信頼がありがたい。


 この信頼に応えないと!

 わたしは気合いを入れ直して、同じ作業をさらに8回繰り返した。 




 約30分後。

 エリンの革鎧は、生まれ変わっていた。



---

 ・薄手の皮鎧(+10): 防御力40(Dランク)

---



 上限まで強化したおかげで防御力が一気に2倍になった!


 見た目にも大きな変化がある。

 くすんでツヤのなかった皮革がテカテカと光沢を帯びているし、見るからに強靭になっている。



「ヨシノさん、これ……!」


「武具が新調できなくて困るって言ってたから。泊めてくれたお礼。あと、前に助けてくれたこともね」


「すごーい、ぴかぴかだー! さすが神鍛冶師だねーっ!!」



 まあ、ぴかぴかなのは磨いたからであって、アビリティは関係ないんだけど。


 約30分の作業時間のうち、精錬アビリティにかかったのは10分ほどで、残りの時間は鎧の汚れを丹念に落として磨くという普通の地味な手作業に使ったのだ。


 どうやらエリンは普段ほとんど手入れをしていなかったようだ。


 ずぼらだなーこの子。

 わたしがお世話してあげなきゃ。



「ありがとー!」



 感激したエリンが抱きついてくる。

 あー運動部の女子の匂いだーいいぞーこれ。


 これは健全なハグであって、なんの変態性もありません。

 わたしは匂いフェチではありません。


 新しい防具を着こんであからさまにテンションが上がったエリンは踊るように冒険に出かけていった。


 何度もこちらを振り向いて手を振っちゃって……かわいいなぁ。

 我が子を見送る親の気分とはこのことか。


 わたしは充実感に満たされていた。

 こんなに満ち足りた気持ちになるのはほんとうにひさしぶりだ。


 やっぱり鍛冶師だ。

 わたしが生きる道は。


 がんばるぞ、闇営業!



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