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六件の殺害現場を見ても、アロイスは「ふむ」とか「ふん」とか言って鼻を鳴らすだけで、一向に犯人に繋がるようなヒントを口にすることはなかった。道化はアロイスが何を考えているのかわからなかった。それでも、特に不機嫌な雰囲気ではなかったので、余計謎が深まる。
「事件の真相がわかりそうですか?」
道化が尋ねる。アロイスは驚いた顔で道化を見た。
「え、どうしたんですか」
あまりにも意外な反応だったので、道化はいつものようにお道化るのを忘れてしまったほどだ。
「君は何を言っている」
「何を……とは?」
「あれだけで事件が解決するはずがないではないか」
道化は衝撃を覚えた。
「だって、あれだけ自信たっぷりに事件を解決するって言ったじゃないですか」
アロイスはため息をつく。ため息をつきたいのはこっちだと道化は一日中思っていた。
「事件を解決するなんて言っていない」
「だって、朝……」
「犯人を捕まえるといったんだ」
その二つの何が違うのか、道化にはわからなかった。
「犯人なんて、言ってしまえば誰でも良いのだ。今すぐ、そこを歩いているメイドを捕まえてきてこいつが犯人だとでも言えば良い」
「でっち上げるってことですか?」
道化は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「真実なんてものに意味はない。大切なのは結果だ。見ているが良い」




