第13話:二次試験②
試合開始と同時に、俺をめがけて三発の【氷球】が飛んできた。
なんて速いんだ! ……詠唱がな。
「す、すっげえ……さすがヒューゴ様だ。あんなに速い詠唱する人見たことないよ」
「口の動きが凄かったわ!」
「さすがにアウルさんでも厳しいんじゃない?」
あの下賤な男の名前はヒューゴというのか。名の知れた貴族の家の息子らしいし、知られていても不思議じゃないけど、有名な貴族なのに人格が残念なのがちょっと可哀想だな。
俺は無詠唱でヒューゴと同じ魔法――【氷球】を繰り出し、正確にぶつける。
互いの魔法がぶつかり、弾けて霧散する。
まずは様子見だ。絶対に勝てる相手だとしても、油断して足元を救われちゃ元も子もない。俺が負けたら、セリカに迷惑がかかる。慎重すぎるくらいで丁度いい。
「ふん、小賢しい手を使いやがって! 俺が魔法しかできないと思ってんじゃねえぞ!」
誰もそんなことは言ってないんだけどなあ?
勝手にキレてるのも滑稽で面白いけど。
「ふんっ!」
ヒューゴは両手をクロスして胸に当て、俺に向かって一直線に突っ込んでくる。――いわゆるタックルというやつだ。
力比べなら負けない!
俺は木刀を構え、突っ込んでくるヒューゴを受け止める。
……さすがに自信満々なだけあって、パワーはあるな。
「だけど、甘い!」
パワーに頼りきって、技術をないがしろにしすぎだ。一点に集中せず、ムラがある。俺はそこを狙って流れるように身体を捻る。
どてんっ!
ヒューゴは俺が突然横に逸れたことで力の行き場がなくなり、その場を転げる。
それでも俺は警戒を緩めない。
絶対に負けられない戦いなのだ。慢心は許されない。
もしかすると、これは弱く見せかけて俺の隙を作ろうとしている可能性がある。
だから急いで追撃するようなことはしない。
ヒューゴは立ち上がり、俺を見て目を見開く。
「な、なんだと……俺のタックルを受け流すとか……ありえねえ!」
「そう言って俺の油断を誘おうとしたって無駄だぞ。さっさとケリをつけようじゃないか」
「ぐぬぬ……」
ヒューゴが唸る。……そして、闘志を剥き出しにして俺を睨んだ。
「これで、終わりにしてやる!」
ついに本気を出すつもりだな、これは。
やっぱりさっきのは罠だったんだ!
「ぬおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ヒューゴが叫び、彼の身体に白い膜がまとわりつく。
――身体強化だ。
魔力の力で、肉体の限界を超える能力を引き出す技術。
「死んでも知らねえぞおおおお!!!!」
雄叫びを上げて、再度タックルをしてくる。てっきり物凄い秘策があるのかと思えばワンパターンだったよ……。
これで俺に勝てると本気で思ってるなんて、なんだか悲しくなるね。
ヒューゴに語りかける。
「一つ言っておこう。お前にできることが俺にできないとは思わないことだ」
俺も身体強化を使い、肉体を限界以上に強化する。
そして、木刀を構え、五歳の時に身に着けた【炎剣】を使う。
今度はタックルを受け流さず、剣で完全に受け止める。俺のパワーが勝り、ヒューゴの身体を跳ね返す。そのまま俺の剣は上方に流れ――サンッ!
流れた剣先が彼の頬を斬った。
数ミリくらいの傷口ではあるが、ヒューゴの顔から血が流れている。
「う、嘘だろ……! 俺の秘技をあんなに簡単に……し、しかも高貴な俺の顔に血が! 血があああああああっ!」
ヒューゴは発狂し、地面をのたうち回る。
俺は剣を片手で持って、彼の前まで歩いた。
「降参するか、ここで死ぬか……お前はどっちを選ぶ?」
「こ、こ、こ、降参する! 降参するから殺さないでくれ!」
俺はチラッと審判の試験官を見る。
試験官は慌てて口を開き、
「しょ、勝者――アウル・シーウェル!」
こうして、俺は試験に合格した。ひとまず目標に一歩近づいたことに安堵する。
俺に敗北したヒューゴは青い顔をしながら、とぼとぼと校庭を去っていった。
それから一時間ほどで全試験が終了し、残った者は全員が合格者だけになった。
入学式の説明や、教科書を配布するために時間がかかるため、さらに一時間後に再集合せよと知らされた。
あと一時間……ちょっと時間があるな。
セリカに合格おめでとうって言ってくることにしよう。