俺の新しい力
おう俺は山賊だ。
今は国境にある深い森を根城にしてる。
この森には生茂る木々に囲まれた道があって、この獣道ってのが美味い。
この道を利用するのは密入国者くれえだからだ。
奴等は互いの国に何かの希望を抱いているのか、全財産を持って移動してやがる。
それがうめえ。
まじで美味過ぎる。
広域手配の範囲から外れたこの場所じゃあ俺も商人と取引できる。
毎日笑いが止まらねえ、へへ。
まあここまで苦労したんだが、…あれからが大変だった。
あの橋付近の村とはそれなりにうまくやってた、俺が吊り橋を見張り奴等の安全を守っていたからだ。
だが、あの吊り橋を落として状況が変わった。
俺達は目の敵にされたのだ。
幸い交渉ごとは全部ビアナにやらせてたから騎士団は出てこなかったが、俺達は山狩りされた。
這う這うの体で逃げた俺達はちょろちょろ仕事し、たまに騎士団に追われ、なんとかこの地に辿り着いた。
最初は苦労したが、なんとか近くの村とも交渉し俺の黄金時代の環境を作り上げた。
子分たちも増えてきた。
紅一点のビアナ、傭兵崩れのジョニーとサンダーとライスン、弓使いのディーンとベン、そして期待の新人、騎士崩れのジョイフル。
俺は今回の子分を見繕う時は神経を使った。
というのも、手配範囲から外れたとはいえ俺の首を持っていけば金になるからだ。
だから真剣に考えた。
まず盗賊は駄目だ。心を許すことはできねえし、手配の情報をもってそうだからな。
旅芸人も駄目だ。陰険すぎる、また笑顔で飯に毒を盛られたらかなわねえ。
村人は絶対駄目だ。あいつらわりと狂気の塊だからな。
じゃあどうすればいいのか。
それは傭兵だ。こいつら脳筋だから嘘はつけねえし、手配に気付いても正面から斬りかかってきやがる。
だから信用できた。
弓使いの二人も傭兵だと言っていたから採用。
騎士は騎士道ってのがあるくらいだからな、恩さえ売っとけば大丈夫だろ。
俺達は絶頂を極めた。
特にジョイフルの加入が大きかった。
俺たちは新たな力を得たんだ!
もうトライアングルフォーメーションαなんて古臭い陣形を使う事は無いだろう。
まあ最高の俺達なんだが一つ不安な事がある。
それはビアナの存在だ。
あいつは俺の片腕と言ってもいい存在になったが、周りがそれを認めねえ。
入団してくるたびにビアナの存在を知って驚く子分たち。
何かにつけてビアナに突っかかるが、あいつはそれを相手にしねえ。
なんていうかマジで上下関係が沁みているガキなんだ。
俺もビビった。
ビアナが反応するのは仕事に影響しそうになった時だ。
その話は後になって聞いた。
□ □ □ □
少女は茂みに潜み弓を構え獲物に狙いをつけている。
それを見た男は鼻で嗤い、近付きながら口を開く。
「おいビアナッ。お前頭のお気に入りだからってなあ、調子―――」
少女―――ビアナは不利な体格を補うように素早く相手の懐に潜ると、首筋にナイフを突きつけた。
「邪魔をするなディーン」
ビアナは鋭く呟いた。
□ □ □ □
ビビって素直に謝れば話は終わるんだが、これに反抗するとマジで首を切られちまうらしい。
俺は知らなかったがビビったジョイフルが教えてくれた。
おいおい騎士がビビるなよ。
俺はなんつーか仲の良い山賊団を目指していたんだが、ちょっとディストピアっぽい雰囲気になりつつある。
それに、マジでビビったディーンなんかはビアナを姐御と呼んですげえ慕ってる。
あれ、この子俺より才能ある?
……まあ問題はあるけど、それなりにうまくやってる。
俺はいつものように森の中を歩く密入国者を襲った。
奴は一人だった、獣道を意気揚々と歩きながら馬を引いている。
俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。
インペリアルクロスαだ。
獲物の前後左右を塞いだ上で、弓を射かけるのだ。
これは、ジョイフルからの提案を受け入れ発展させた俺の度量が示す陣形だ。
この陣形を使うようになってからは、俺達は皇帝に仕える騎士になったような気分だ。
俺は信奉する悪徳の神リーファイスに祈りを捧げた。
仕事の成功と子分の無事をってなあ。
「命が惜しけりゃ、金も命も置いてきな!」
いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。
俺は笑みすら浮かべ奴に迫った。
これは俺の美学だ。今は辺境に追いやられた俺だがいつか必ず返り咲いてやる。悪党の花は一瞬しか咲かなねえ儚いもんだ、だがな山賊のあだ花は何度でも咲き続ける。
俺はいつものように鞘を払うと愛用のシミタ―構え、いつものように子分に合図を送る。
そうするといつものように獲物の眼前に矢が穿たれた。
いつものように獲物がビビる。
「全部置いていきな」
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