俺の旅立ち
おう俺は山賊だ。
今は普通の雑木林にある廃屋を根城にしてる。
この林沿いには普通の道があって、その街道ってのが美味い。
ここは特に大した事情のない普通の旅人や商人が歩いている。
異常事態のない堅実な現場作業だ。俺の心は癒される。
それがうめえ。
まったく持って特徴のない地域だ。
マジで普通に山賊家業に勤しんでいる。
俺は救われた。
あの地獄のような日々から解放された。
あの後俺は、地獄に再び戻らない様に子分たちと合流するようなへまはしなかった。
そしてアジトに貯金を回収しに行った、勿論時間差を作り安全を確認した上でだ。
貯金は無かった。
マジで信じられるか?
俺個人の、団とは関係ない貯金を盗りやがった。
普通はそこまでしねえ、団の金に手え付けたとしても個人の金には絶対手を出さねえし。それが山賊をしていく上での最低限のルールだ。
俺たちゃアウトローだ、結局はくその吹溜りだ。
だがな、そんな俺達だからこそ譲れねえルールがある。外れちゃなんねえルールがあるんだ。
それをあいつ等は…。
俺は親分として大切なことを教えることができなかったのか。
いや、俺が自分を見失っていたのかもな、魔術師とかそんな上辺にはしゃいじまって。
少しペースを落として、自分を見つめなおすか。
俺はそれから自分探しの旅に出た。
やはり大変だった、金と衣服がなかったからだ。
俺は愛刀の鞘を腹に縦にくくりつけ、己の陰部を隠して旅立った。
ブラリ珍道中ってな。
騎士団に追われた。
なんなんだよもうっ。
マジでヤバかった、あいつ等すげえしつこく追いかけて来て剣を振り回すんだぜ。
俺の剣はすげえ抜きにくくなってるから防御もままならねえ。
おかげでケツが二つに割れちった。
それから俺はなんとか今の場所に落ち着いて、少しだけ仕事をした。
金と服が欲しかったからな。
最低限手に入れてからは、考える日々よ。
俺は何を間違えていたのかってな。
そしてついに俺は悟ったよ。
山で仕事をしてねえ。
街道やら川沿いやら街ン中やら果ては農業まで、そりゃ自分が揺らいで当然だ。
俺は山賊だ、山で人を襲うから山賊なんだ。
どうかしてたぜ、まあ分かれば話ははええ、路銀を稼いでさっさと山を目指すか。
とりあえず山までの繋ぎとして子分をつくった。
堅実な子分共だ。
山賊のジョス、元傭兵のダイン、弓使いのタイルだ。
ジョスは粋がっていたが俺の視線で黙らせた。
ダインは剣の腕をやたら自慢してたから、木の枝でのした。
タイルは俺の気合いの前にはなから沈黙だ。
なんの変哲も特徴もない俺の子分たちだ。
だが腕はそれなりにある。
こんなやつらを簡単にあしらえるなんて、なんていうか俺の度量がストップ高だぜ、俺も成長したかねえ。
まあ調子に乗るのはよくねえよな、初心だ初心だ、俺は山に帰る。
じゃあさっそく仕事をしようかい。
俺はいつものように街道を歩く行商人を襲った。
奴は一人だった、馬に乗りながらゆっくり歩いていやがる。
俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。
トライアングルファーメーションαだ。
ふっと鼻で嗤う、慣れたもんだぜ。
獲物の三方を塞いだ上で、茂みから矢を射かけるのだ。
長年の経験に裏打ちされた、自信と実績のある陣形だ。
この陣形を使うようになってからは、もうどれぐらたつだろうな。
俺は信奉する悪徳の神リーファイスに祈りを捧げた。
日々の糧に感謝をってなあ。
「命が惜しけりゃ、金も命も置いてきな!」
いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。
俺は笑みすら浮かべ奴に迫った。
これは俺の美学だ。どんなに当たり前な慣れたことでも、油断をせずにいつもと同じように全力を尽くす。それがプロだ。
俺はいつものように鞘を払うと愛用のシミタ―構え、いつものように子分に合図を送る。
するといつものように茂みの中から獲物の眼前に弓を射かける。すると獲物がビビる。
「全部置いていきな」
ありがとうございました