俺のマナ
おう俺は山賊だ。
今俺は湖の畔を根城にしてる。
この湖にあるしょぼい船着場ってのが美味い。
ここを利用するのは湖賊に通行料を収めた商人ぐれえだ。
奴等はまさか通行料を収めた先の船着き場で山賊に襲われると思ってねえからな。
それがうめえ。
湖賊にばれねえようにするのは骨が折れるが見返りがでけえ。
やつら禁制の品ばっかり運んでやがるからな。
たまに仕事するだけで左団扇よ。
ここに着くまでは苦労したぜ。
なんせストーカーがしつけえ、行く先々で会いやがる。
お蔭で俺の子分達が何回全滅したことか、マジでたまらねえ。
だが俺は一人にならなかった。
マーシェがいた。
こいつは何回も全滅するような状況で常に生き延びたタフな奴だ。
女のクセにまじでスゲエ。
俺の子分は、代々入れ替わるのが習わしになっちゃきてるが、こいつはその記録を塗り替え最長記録を更新中だ。
ビアナを超えるタフガールかもしれん。
それにすげえ特技を持っていやがる、この特技のお蔭で生き残れたと言っても過言でもねえ。
その特技ってのはトンズラだ、こいつはトンズラこくのが超はええ。
俺の子分たちは大体俺を逃がそうと身体張ってくれるが、こいつにはそれがねえ。
プライドが高いくせに逃げる時は躊躇ねえからな、今じゃあヤバい気配を感じただけで逃げ出しやがるから、簡単な仕事で失敗しそうになったこともあるくれえだ。
それに俺を囮にしようとしたこともある。
マジで抜け目がねえ、まあ今じゃあ頼もしい俺の一の子分よ。
なんつっても魔術師だからな、でけえ街に行ってもそうそうに会えない貴重なやつだ。
それが俺の子分なんだから鼻がたけえ。
子分も増えた。
まああんまり派手にしたくねえから控えめに募集したんだが、少し偏っちまった。
魔術師のラフィーナ、魔術師見習いのシェルとピピ、魔術師希望のランラン。
っなんつーかすげえ偏った。
前衛が俺しかいねえ、親分の俺が一番危ない突撃隊長をするってどうよ?
こいつ等は俺の山賊団の噂を聞きつけて入団してえと頼み込んできやがった。
どうも巷じゃあ、炎岩賊団って呼ばれてるらしい。
なんか名前からして俺が食われてる?
ちょっと嫌な予感がするんですけど。
まあいい、そんなことよりこいつ等が入団してからが大変だった。
別にこいつらはガキじゃねえ仕事はちゃんとできる、それは大丈夫なんだ。なにが大変かってえと、全員女だ。
俺以外の全員が女なんだ。
これがやかましい、ピーチクパーチクさえずりやがる、朝昼夜深夜と休むことなく喋り続け俺の頭の中は女のキンキン声が反響し続けてやがる。
そのうえ喋る話は、マナが、マナが、マナが、マナ………。
もうたまらねえ。
さらに俺のやり方にも細かく口出すようになってきやがった。
朝起きてすぐに酒を飲むなとか、マナについて教えろとか、臭いから沐浴しろとか、洗濯物を一緒に洗うなとか、マナについてさらに教えろとか、食事の味付けが濃いだとか、野菜や果物をもっと仕入れろとか、深夜の仕事は肌に悪いからやめろとか、マナを、圧倒的なマナを………。
あああああああああああああ!俺はお前らの母ちゃんじゃねえ!
…だが現実はそうだ。
こいつ等は炊事洗濯掃除っつう下っ端仕事がまったくできねえ。
いくら教え込んでもすぐに忘れやがる、なのに全然悪びれねえ、いくら説教しても返す言葉はマナが、マナが、マナが、マナが、マナが………。
俺はマジで困ったよ、山賊始めて以来の大ピンチだ。
そして俺は諦めた。…できねえならしょうがねえと。無理にやらせるのは良くねえからな、だから俺は親分としての度量を示したマナよ。
だから今は俺が全部やってやってるマナ。
ミラ、ビアナがいた頃が懐かしいマナナ。
あいつ等の作る料理は美味かったし他の家事もきちんとこなした。
まあビアナは最後、ちょっと、なんでか、意味わからんけど裏切られたが、まあそれでもいい思い出だマナナナナ。
あれ、なんか頭がおかしいマナ。
よくわからんマナが、何かに侵されているようマナナ。
うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
っ危なかった、マナに囚われちまうところだった。
俺はいつものようにショボイ船着場に下ろされた商人を襲った。
奴等は二人だった、船を見送ると船着場から歩き始めた。
俺はゆっくり獲物を見定め所定の位置に着いた。
シングルフォーメーショントリプルγだ。
思わず背中を気を付けた。
獲物の前面を塞いだ上で俺の背後から炎の魔術を三発打ち込むのだ。
魔術師共の意見に流された、俺の立場の弱さを示す陣形だ。
この陣形の素晴らしい所は俺だけに危険が集約しているという事だ。
クソ子分どもが!
そして圧倒的な火力が、俺の衣服と敵の抵抗心を根こそぎ奪う。
この陣形を使うようになってから、俺の羞恥心がなくなった。
俺は信奉する悪徳の神リーファイスに祈りを捧げた。
子分への天罰と自分の無事をってなあ。
「命が惜しけりゃ、金も命も置いてけマナ!」
いつもの口上、いつもの陣形、いつもの獲物。
俺は狂気すら浮かべ奴に迫った。
これは俺の美学だ、マナマナマナマナナ。
アヘヘヘヘ。
俺はいつものように鞘を払うと愛用のシミタ―構え、いつものように子分に合図を送る。
するといつものように背後から轟音が迫り俺の至近を通ると、俺の衣服を燃やし尽くしながら獲物に迫る。
すると獲物の近くに着弾し――――――弾かれた?
「ああーー、やっと会えたね賊君!、僕の剣の錆になってくれるかい」
奴は強かった。
子分たちは皆速攻で逃げた。
味付けが濃すぎると文句を言うラフィーナ、下着を洗いなおせと言うシェル、深夜は絶対起きないピピ、服の燃やされた俺を軽蔑の眼差しで見つめるランラン。
…そして、デザートがないと食卓をひっくり返すマーシェ。
皆逃げ出しちまった。
俺は、俺は…。
あまりの感情の高ぶりに俺は叫んだ。
「ぅおおおおおおおおお、会いたかった!会いたかったよ!!ありがとうありがとう」
「え、あ、え、え?うぉあぞく、くん?」
戸惑っている隙を見て俺は逃げ出した。
「あっ…」
俺は心から感謝した、人生何が幸いするか分からんな。
そして理解した。
俺は魔術師共の呪縛から解き放たれた事を。
「ありがとうおおおおおおまなあああああああ!」
俺は走った。
ありがとうございました




