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叶った望み

 それから三日後、光の屋敷へ訪問者が訪れた。

時は夕刻で、恐らく王宮での仕事を終えたと思われる彼等は、リシェアオーガが眠っている事を知らされる。仕方無く帰ろうとした時、リシェアオーガの傍にいた神官が、彼等を引き留める。

「アーネベルア様、ラングレート宰相殿、そして…王宮騎士の方々。

リシェア様が御目覚めになり、貴方々に会いたいと望んでおられます。」

神子が目覚めた事を告げられた彼等は、神官に案内されて、その部屋へ入る。

大きな寝台のある部屋では、件の神子がその寝台の上で、上半身だけ起こした状態になっていて、彼の傍には、光の騎士と闇の騎士、そして…見た事も無い、銀色の髪を持つ騎士と魔道士が控えていた。

見知らぬ人物に一瞬、王宮騎士達が警戒するが、紅の騎士と宰相だけは、不思議そうな顔をする。何故なら彼等からは、リシェアオーガが常に身に着けているあの、銀色の双頭の蛇の指輪から感じた気配と、同じ物を受け取っていたのだ。

「君達は…双頭の銀蛇かな?」

紅の騎士の言葉を受け、彼等は、肯定の頷きを返す。そして、彼等と初対面の挨拶を交わし、ここに居る理由を説明した。

「我等は、主の回復の眠りを護る者。

まあ、本来なら、我が王の護りをする筈だが…このお方には必要ない故、助力と眠りの護りが役目となる。」

主の事を理解しているジルシェの言葉に、ハルシェも参加する。

「我が君は、まだまだ御強くなられますので、私達銀蛇が出来る事は、ほんの僅かしか御座いません。ですが、それすら、私達の喜びです。」

神龍達が言うような事を、銀蛇達からも聞かされたリシェアオーガは、諦めに近い表情で、深い溜息を()く。

己が主を賞賛し、そして…過保護な程の扱いをする。

勿論、一緒にいる精霊騎士達は止めないばかりか、それを進める位だった。

この結果の表れが、今の状態である。

リシェアオーガ自身は、もう大丈夫からと、寝台から出ようとしたのだが、銀蛇達と精霊騎士達から止められた。

そして、このままの状態で、この国での親しい人々との面会を余儀無くされる。

一番心配する相手も一緒だから、余計に寝台から出ようとしたのだが、彼等からの阻止に会い、強気に出れなくなってしまったのだ。

銀蛇達と精霊騎士で、一・二を誇る剣豪の二人。

幾ら力の強いリシェアオーガでも、彼等の気持ちを考えると、強気に出れなかった為、面会に来た者達からの心配を一身に受けてしまった。

「オーガ、大丈夫なのかい?」

真っ先に心配したのは、想像通り、義理の兄であるバルバトーアだった。

同じくハルトベアルも心配そうに、リシェアオーガを見つめている。そして…以外と言うか、やはりと言うか、エニアバルクも心配そうな声を掛ける。

「オーガ…だから、あんな無茶をするなって、言っただろう?!

ったく、寝込むほどに暴れるなんて御馬鹿を、今後一切するなよ。」

心配している義理の兄達へ、安心させる様な言葉を掛け、何かを勘違いしている友人へは、件の少年神からの反撃が襲う。

「バート義兄上(あにうえ)、ハルト義兄上(あにうえ)、僕は大丈夫だよ。

それと…エニア、何か誤解していない?僕が寝ているのは、精霊達の体と力を癒す為に、力を使ったからだよ。」

本当の理由を知った青年は、思いっ切り少年の頭を叩いた。

「精霊達の心配をするのは良いが、自分が倒れちゃあ、余計に彼等が心配するだろうが!!オーガ…自分の力量をよ~く、理解しろよな。」

叩かれた頭を摩りながら、恨みがましい視線でエニアバルクを見上げるが、バルバトーアも彼の意見に賛同する。

「エニア君の言う通りだよ。

オーガ、君が無理をして体を壊したら、彼等も悲しむよ。」

優しく頭を撫でながら告げられる言葉に、リシェアオーガは素直に謝る。

本当の兄弟のような遣り取りに、傍で控えている保護者(?)達も、微笑ましそうに見つめていた。そして…珍しく我慢出来無かったらしい光の騎士の、静かな笑い声が不意に聞こえ始める。

理由は簡単だった。

「いえ…バート殿は、カーシェ様に良く似ていらっしゃるので、つい。」

リシェアオーガに対する行動を指している言葉に、銀蛇達も、闇の騎士も頷く。

そんなに似てるかな~と、呟くバルバトーアに、似ているよと、リシェアオーガからも告げられる。この事で何かを思い出したバルバトーアは、リシェアオーガに向かって話し掛ける。

「オーガ…いえ、リシェア様。

リュース様とジェスク様に、伝言を御願い出来るかな?」

何事かと思い、彼が首を傾げると、その続きが聞こえる。

「リュース様の申し入れ、御受けしますと。」

聞かされた言葉にリシェアオーガは、一瞬驚くが、直ぐに笑顔になってバルバトーアに抱き付く。

「義兄上、本当?本当に、養子に入ってくれるの??」

「ああ、そうだよ。ハルトとも、他の兄弟達とも相談して、決めた事だよ。

何故か、ライナス陛下の後押しもあってね、お受けする事になったんだ。

勿論…べルアの後押しも…ね。」

嬉しい返事を聞いた少年神は、事実上義理の兄弟になる、この国の宰相に抱き付いたままだった。

この様子に、光の騎士が言葉を掛ける。

「良かったですね、リシェア様。

バート殿…いえ、バート様、ハルト様。今後とも、リシェア様達の事を、宜しく御願い致します。」

敬称が変わった精霊騎士へ、呼ばれた二人は苦笑する。

恐らく訂正しても、無駄と判っているだけに、何も言えなかった。

そして、この光の騎士の口から出た、彼等の呼び方を聞いた紅の騎士も、つい、悪乗りした様だ。

「ルシナリス殿がそう呼ぶのなら、私も様付けで呼んだ方が良いかな?」

冗談交じりの声に、二人分の否定の返事が返る。

特に部下であるハルトバレルの否定は強かった。

「べルア様、(たわむ)れが過ぎますよ。私達は貴方の様に、神の愛し子になるとしても、養子と正式な愛し子では違います。」

きっぱりと言われたアーネベルアは、苦笑いを浮かべ、

「済まなかったね、ちょっと冗談が過ぎたよ。」

と、素直に謝っていた。彼等の遣り取りで、ふと疑問に思った事をリシェアオーガは、ルシナリスに聞いていた。

「ルシェはべルアの事、様付けで呼ばないのは何故?」

可愛らしい神子の質問に、ルシナリスは微笑み、説明をする。

「べルア殿場合は、神の愛し子と言う立場より、私達と同じ、神の騎士としての立場を重視しているのですよ。」

返った返事に納得したリシェアオーガは、二人の義理の兄へ向き直る。

「バート義兄上、ハルト義兄上、不束者ですが、これからも兄弟として、宜しく御願いします。」

寝台の上ではあったが、丁寧な挨拶をするリシェアオーガに、二人の義理の兄も微笑みながら、こちらこそ宜しくと告げていた。 

次回で、最終話となります。

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