過保護な騎士達
「リシェア様、彼等の、心、深く、傷、付いている。我等が、出来る事、少ない。
でも、リシェア様なら、出来る事、多い。」
闇の騎士の言葉が、何の事を差しているか判った少年は、己が気配を神龍王へと変える。様々な属性を持ち、一つの属性に偏らない、神龍の王の気配。
それ故に、どの様な属性の精霊でも、力と体力だけは癒せるのだ。これを解き放ち、精霊達を癒そうする彼へ、大地の神龍と光の神龍が近付く。
「我が君、私達も協力しますよ。」
「ノアの言う通り、これならわたし達にも、お手伝いできますよ。」
二人の申し入れに、リシェアオーガは頷き、共に光と大地の気配で屋敷を満たす。それはまるで、光の神と大地の神が、この屋敷に降臨した様な錯覚を起こさせる物であった。
数分、いや数時間程、それは光の館を包み、消えて行った。
ある程度精霊達を癒せたリシェアオーガは、そのまま床の上に座り込んだ。
慣れない事をやった所為で、立てなくなったのだ。
彼の様子に気付いた神龍達は、心配して近寄るが、唯一一人の精霊騎士だけが、軽い拳骨を彼へ見舞った。
「こら、オーガ、無茶をして、皆に心配を掛けるな!」
大地の精霊騎士の行動に、呆気に取られる周りであったが、木々の精霊騎士の二人と光の騎士が少年へと近付く。
「リシェア様、レスの言う通りですよ。余り無茶はなさらないで下さいね。」
「そうですよ、幾ら神と神龍王という強いお力をお持ちでも、使い慣れない状態で、しかも幼子で在らせられる今は、まだ無理で無茶ですよ。」
「そうそう、オーガ君はまだ幼いんだから、無茶や無理しない。」
彼の事を良く知っている、三人分の精霊騎士の声に、座り込んだままの少年神は、神子としての口調で反論を試みる。
「だけど…心配だっただよ。
このまま弱ってしまったら、消えてしまうでしょ?」
彼等精霊が死んでしまう事を意味している言葉に、騎士達も呆気に取られた。これ程まで、精霊達を大事にする少年に、空風の騎士が近付き、その頭を撫でる。
「リシェア様…いえ、オーガ君は、やっぱり優しい子なんだね。
あの頃と変わらない、素直で優しい子なんだね。」
空風の騎士の言い草に、二人分の声が掛る。
「当たり前ですよ、レア。
リシェア様は、本当に御優しく、他人思いで、己の愛しい者達の為に行動出来る御子ですよ。」
「エアレア…リシェア様…オーガ君は、何も変わっていません。
素直で可愛らしい、神子様です。」
己が胸を張って、リシェアオーガの事を話す二人の精霊騎士へ、困った顔の本人が口を挟む。
「…ルシェ、ラン…
さり気無く、誇られている気がするのは…気の所為かな?」
リシェアオーガの小さな突込みに、当然ですの声が返る。彼等に取って、己が主人の神子である為、誇るのは当たり前の様だ。
因みに、神龍達と彼の精霊騎士達は、同意の頷きを繰り返していた。
彼等からの賞賛に溜息を吐いたリシェアオーガへ、光の騎士が近付いた。
何事かと思ったが、不意に彼の体が浮いた。
「此の儘でいるなんて事は、しませんよね、リシェア様。」
少々怒っている様な光の騎士へ、小さく御免と呟き、その体を預ける。
大人しく己の腕に収まった神子を、ルシナリスが運ぼうとするが、他の騎士達からの不満が上がる。
「狡いな~ルシェ、私もリシェア様を、運びたかったんだけど。」
「…ルシナリス…俺も運んでみたいんだが…駄目か?」
彼等の代表の様に、空風の騎士と大地の騎士の声が上がるが、不思議な事に、神龍達と彼の騎士達の声が上がらなかった。
この事を疑問に思った、他の精霊騎士達だったが、闇の龍の言葉で納得した。
「ルシェ、周りがうるさいから、ささっと運んじゃってよ。
アレィに次ぐ、過保護な保護者の特権で……さあ。」
名を上げられた闇の騎士は…と言うと、先程の出来事へ、不満の声を上げていなかった。それは、もう一人の緑の騎士も、同じ。
彼もまた光の騎士が、この神子に対しての行動は全て、過保護な保護者のそれと捉えていたのだ。
「と言う訳で、リュナン、レア、他の皆さんも宜しいですね。」
そこはかと無く、黒さの隠れた微笑で告げられ、彼等は黙るしか無かった。
闇の精霊騎士・アレストに次ぐ剣の実力を持ち、微笑みながらの辛辣な言葉の攻撃をも、得意とする古参の光の精霊騎士。
その彼が腕の中の神を、最も大切に保護する神子の一人と捉えているのでは、例えアレストでも、太刀打ち出来無いのだ。
まあ、アレストは彼の事を判っているので、別段文句も無く、自分の代わりにと思っている位なので、特に問題や文句は無いのだが……。
因みに、他の光の精霊騎士から、文句の声は無かった。
彼等もまた、ルシナリスの事を良く知っているからだった。
ルシナリスに運ばれ、この屋敷での自室に戻ったリシェアオーガは、傍に控える己の神官へ声を掛ける。
「カルディ、心配かけて済まない、それと…傍にいてくれて有難う。
我の紅の瞳が元の青に戻ったのは、そなたの御蔭だと思う。」
光の騎士により寝台へと運ばれた彼は、眠りに着く前に己の言いたい事を告げる。そして、勿体無い御言葉ですと、神官からの感謝の言葉を聞く間も無く、静かな寝息を立て始める。
この安らかな寝顔の少年の傍に突然、銀色の光を伴った二人の人物が出現した。共に銀色の髪を持ち、二人とも細身の体で、片方は騎士服で紅の瞳、もう片方は魔道士の様な長衣で、青紫の瞳をしている。
双方とも、やや吊り目気味のそれであったが、ルシナリスとカルダルア神官を見つめる視線は、優しかった。
「初めてお目に掛る、光の騎士殿と我が主の神官殿。
我等はこのお方、神龍の王に仕える護り人の一人、闘のジルシェと申す者。」
「初めまして、御二方とも。同じく、知のハルシェと申します。
我等はこの方を護る、双頭の銀蛇です。今後とも、宜しく御願いします。
特に光の騎士殿には、御世話になると思いますので。」
ぶっきら棒なジルシェと丁寧なハルシェの挨拶に、精霊騎士と神官は微笑みながら、挨拶を交わす。保護者同士の挨拶と、そこから始まる遣り取りを余所に、リシェアオーガは、安らかな眠りに耽っていた。




