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第097話 Sランク飛び級昇格


「商会を設立しましょう」


 唐突に言ったリッケさんは、ピルピル草の実とコリツノイモをテーブルの上に並べ、参謀のように手を組みながら続けた。


「我らの村は、未だその村の名前すら決まっておらず、それどころかその存在すらほぼ知られていません。もともと猫族の皆さんの村があることは一部で知られていたようですが、今回のことがあるまでは詳細な場所すらも把握されていませんでした。が、それではやはりマズいと言わざるを得ません」


「まぁ、……確かに」


「そこで我々がまずすべきは、正式に村としてその存在を明らかにし、さらに本村の正式な窓口となるべき商会を設立すべきです。今回は緊急な案件でしたので簡易的な方法で農作物を譲渡する方法を取りましたが、本来であればもっと然るべき方法で、かつさらに高額で取引をすることができたでしょう」


「それも、まぁそうだね。ただ金額は吊り上げる気もなかったし、お金を貰えただけラッキーだったと思ってるけど」


「甘い! そんなことを言っていたら、そのうち村営などまかり通らなくなりますよ。何より今は村民の満足度が高く問題は出ていませんが、いつこの贅沢な生活に慣れ、日々の不満を言い出す者が現れるともしれません。私などは、既に新たな知識欲に駆り立たされ、今にも爆発してしまわんばかりなのですから!」


 鼻息荒く立ち上がった彼女をなだめながら、確かにそれはそうかもねと同調する。


 今回のことで、俺たちの村は謀らずも国から認知されてしまった。100人にも満たない村でありながら、一国の首都である町民分の食料を補填した村力は異様というよりほかなく、今後間違いなく一部の者たちから良からぬ噂や圧力をかけられるに決まっている。何よりそこに住んでいる者が獣人や魔物ばかりとなれば、存在そのものを危険視し、牙を剥く者も現れるに違いない。


「だからこその外交です。この機会に、我々へ向けられる外圧を躱し、大義名分を得られるように準備を整えるのです。そのためにも、まずは金を使い、村の代表となる機関の準備と、商会の設立をすることが最重要課題なのです!」


「確かにリッケさんの言いたいことはわかるけど。でもそれ誰がやるの?」


「そんなの一人しかいないでしょう!」


「……それってもしかして」


「アナタです、村長なんですから当然です!」


 やっぱり!!

 でもなぁ……。それはできれば避けたいんですよ。俺の経歴全部が嘘でした、なんてことがバレた日には、多分人生詰んじゃうんですよね……。


「う~ん、少し考えさせてよ。本当のところを言うと、俺はここで静かに暮らしたかっただけなんだ。だからリッケさんが言うような仰々しい生活をしたいわけでも、ましてやギラギラした殿上人を目指したいわけでもなくて……」


 しかしバンッと台を叩いた彼女は、「な~にを甘っちょろいことを!?」とご立腹だ!


 とにかく一旦考えさせてと彼女を納得させたものの、やはりこうなるよなぁと項垂れる。しかもさらに輪をかけるように、今度はマイルネのギルドから俺に対する招集連絡が入った。


 即刻ギルドへ顔を出すようにとのお達しに従いギルドへと投降した俺は、賑やかさを取り戻した窓口でローリエさんに話しかけるや否や、すぐさま裏口へと連れ込まれてしまった。そして裏の小部屋で待ち構えていたギルドマスターのテーブルの正面に座らされ、事情聴取を受ける犯人のように下から覗き込まれた。


「呼び出された理由はわかってるな?」


「さぁ、……なんのことでしょうか」


「しらばっくれても仕方ないだろ。もはやそれすら無駄だってことくらい、アンタもわかってんだろ」


 テーブルが俺たちの間に置かれた小さな台にペラリと紙を置いた。俺はわざとそれを見ないように視線を逸らした。


「この二ヶ月弱、俺たちはアンタらの村に、それはそれは世話になった。そこは変えられん事実だ。感謝しかねぇ」


「だったらそれでいいじゃないですか。ということで、本日はこれへんで……」


「そうはいくかよ。……コイツがなにか、もちろんわかってるよな?」


 俺がヒュ~と口笛吹いて誤魔化そうとするも、紙を顔に突きつけながら「ちゃんと見ろ」と怒っているテーブル。ああもう、わかっとるわ!


「こいつはエドワード・ガロウ氏がアンタに渡した材料表だ。……俺が言いたいことはわかるな?」


「さぁなんでしょうね。わかりませんけど」


「ざけんな、そんなのが通ると思ってんのか」


 テーブルがリストに載せられたアイテムを一つひとつ読み上げていく。それらはEランク冒険者ではどうやっても入手困難なものばかりで、俺は素知らぬ顔して誤魔化した。……が、無駄だった。


「あの二週間、アンタんとこのAランク冒険者様は、ずっと俺らと一緒に物資の調達作業を行っていた。で、アンタはウチのエンボスと、ガロウ氏が指示したアイテムを入手するため走り回ってたわけだが、……問題はこの丸がうたれたアイテムだ」


「……さぁ、なんのことでしょうね」


「ウチの親方が集めたアイテムは、丸のないこっち。で、こっちの特レア品が混じったリストを集めて回ったのがアンタだ。とてもじゃねぇがEランクの冒険者じゃ入手できっこねぇシロモノで溢れてる。しかしアンタはどんな手段を使ったか知らねぇが、そいつを全て手に入れてみせた。……あの雪降りしきる、()()()()()()()()()()、だ」


 こうなることはどこかで想像していた。

 しかし現実に詰められると、これほど無惨なものなのですね。でもそれくらいで論破されてやるものですか。反論だ、反論!


「どのアイテムも、もともと村にあったんですよぉ。だから偶然揃ってただけでぇ。ツイてたなぁ。さすがはマーロンさんだ」


「……んな言い訳が通じるとでも思ってんのか。中でもこの赤字のアイテム、コイツはそんじょそこらの野郎が用意できるシロモノじゃねぇんだよ。しかもそいつが、偶然村にあっただと? 冗談も休み休み言えよ。それがもし本当なら、テメェんとこには未来が読める人間がいたってことになる」


「ああ、それならいますよ。マイルネの住民街に住んでるハロンヌさんって呪術師なんですけどね、彼女ホントに凄いんすよ、なんでもね、ズバ―っと答えてくれちゃって。ハハ~」


 それ以上の戯言を抜かすと殴るぞとテーブルの目が語っているが、絶対に認めるわけにはいかんのだ!


「あくまでもしらを切るってか。だったらそれでいい。こっちにも考えがある」


 額に血管を浮かせながら部屋を出ていったテーブルが、すぐにローリエさんを伴って戻ってきた。そして今度は彼女を俺の前に座らせ、もの凄く事務的に話し始めた。


「ということですので、今回ハクさんはSランクへの飛び級昇格ということになります。御本人がお認めいただかなくても、ギルドマスターの推薦ということでの特例となりますから、なんら問題はございません。素晴らしいですねー、パチパチパチ!」


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