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第094話 化け物さん


「それはどういう……?」


「その昔から彼は()()()の持ち主と呼ばれていて、ある物を製作する環境下において、必ず用立てられるものしか依頼主に求めないと言われています。要するにそれは言葉を変えれば……」


「俺たちが、俺たちの手で必ず入手できる、ということですか?」


「ええ、まず間違いなく」


 俺は今にも倒れそうなリッケさんを抱きしめ、「このお礼はいつか必ず」と手を振った。「これはこれは、お互いさま」と笑う彼女に見送られ、俺とシルシルはすぐさま村を飛び出した。


「ごめん、死にそうなとこ悪いけど急ぐよ。俺もできるだけ頑張るから、シルシルも死ぬ気で走ってくれ!」


「言われるまでもない」と速度を上げたウルフの背中で、俺は必死にそのモノの正体を考えた。


 特筆すべき人物・魔物に関する()()

 しかし漠然と特筆すべき人物と言われても、それに該当するような凄い人物などまるで思い当たらない。


「誰だ、アイテムの素材になるような凄い奴なんてどこにいる!? いや待てよ、まさかあのヒゲのおっさん本人の……、だけどそれなら自分で用意すればいいし……。それにリッケさんも過去の書物の中で使われた記録があると言ってた。だったら、過去にそれと似たモノを用立てられる環境があったってことだよな。過去にも存在してて、今も手に入るモノって一体なんだよ!?」


 魔王は50年前に存在を消して以来、これまで一度も現れていない。同時に勇者もまた存在せず、さらにこの地方には彼らに由来のある場所や記録も聞いたことがない。


「だったら魔物か? しかしそんなレアな魔物なんて……。いや、まさかボアボアの。でも待てよ、そんなのを『太古の』なんて言い方するか!? 太古って、やっぱり昔からあったってことだよな? 全然わかんねぇって!」


 すると、走りながら俺の独り言を聞いていたシルシルが呟いた。


「それで言いますと、象徴という意味では神などの存在も候補に入るかと。水の神、火の神などは様々な地域や国、我ら魔族の間でも信仰されている物事です。魔法などは、その中でも特徴的な事案かと」


「なるほど、神様か! 確かにその視点はなかった。神ならマイルネの町でも信仰されているし、それなりにメジャーな施設もあるはず。それだ、そうに違いない! サンキューな、シルシル!」


「お褒めに預かり恐悦至極。そうとわかれば、ますます急いで向かわねばなりますまい!」


 さらにスピードを上げたシルシルは、雪面を滑るように、美しく、恐ろしい速度で駆け抜けた。日が落ち、夜になり、気温が落ち込んでもなお俺たちの心拍数は増すばかりで、激しい呼吸が止むことは決してなかった。


 町の目前で激しく転倒した巨体からずり落ちるように着地した俺は、性も根も尽き果てたシルシルに渾身の拳を捧げ、「あとは寝ててくれ!」と高らかに宣言した。雪面に横たわったまま片目でこちらを窺ったシルシルは、「御武運を」と呟き、最後に狼特有の遠吠えで俺の背中を押してくれた。


 体力は限界に近い。

 魔力も、もうとうの昔に切れ果てた。

 しかし止まっている時間はない。今走らず、一体いつ走るんだ!


 滑り込むように工房へ駆け込んだ俺は、ヒゲ男の作業状況を一瞥し、再び飛び出した。「三時間以内だ!」という親方の言葉に手を挙げて応えた俺は、町のあちこちにある信仰に関わる施設へと次々飛び込んだ。そしてその場所にまつわる物や伝承、そして特殊なアイテムを探し回った。


「違う、こんなものじゃない。もっと象徴的な、絶対にコレだと思えるものでないと、駆けずり回って手に入れる価値なんかない!」


 俺が、そして俺たちが、()()()()()()()()()()()。そんな何かが必ず必要になる。


 リッケさんは言ってくれた。

 それは俺たちが必ず手に入れられると。

 だとしたら、ある。

 この町のどこかに、必ずそれはあるはずだ!

 なのに――



「ない、ない、ない、どこにもない! どこにあるんだ、『太古の祝福』!?」


 町中の教会を廻り、それらしいエピソードやアイテムを探し求めるも、そのどれもが曖昧で、想像の域を出ない。伝説があったというだけで、それを裏付けるアイテムも、出来事も、全てがあやふやで適当なモノばかりじゃないか!


 最後の候補となった施設を巡り、俺はらしくもなく足を引っ掛けて前のめりに倒れてしまった。転ぶなどいつぶりだろうか。ここまで追い込まれた記憶は、あの戦いを除いてほかにはないかもしれない。


「どこだ、どこにある!? 誰か、誰か教えてくれ。太古の祝福はどこにある!!?」


 夜半を過ぎ、町から人々の姿が消えていく。話を聞こうにも、もはや誰の姿もなくなった。


 万策尽き果てた。


 既に三時間が経過していた。

 これ以上、もう時間はかけられない!


「クソッ!」と地面を叩くも、分厚い雪のクッションに阻まれ、その音すらも聞かせてはくれない。それどころか深々と降り続く雪は、この町から全ての音を奪い去るほど強烈な毒牙を剥いて迫っていた。



 しかしそのとき、

 俺の背後に誰かが近付いた。


 その人物は、まるで俺に吸い寄せられたかのように、あまりにも自然に、まるでずっとそこにいたかのように話しかけた。



「随分とお困りの様子だねぇ、()()()さん?」


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